153話 彼らの実況直後
「いやぁ、あの子は凄いね。 昔から居る、いわゆる『持っている』人間だね」
「い、いえっ、それよりも……羽が……!!」
「半透明の、蝶の羽。 再生と復活の象徴として、昔から愛されてきたシンボルじゃないか」
「いえ、ですから、それが、人に……っ!」
日向家の、映画鑑賞用の暗室。
そこで2人して見ていた、ひなたの母と祖母。
彼女たちは――アルコールも入っていたが、それでも顔を赤くしていた。
「ひなたがあの歳で優秀な種を……と期待したけどね……まさかこんな展開になるとは。 いやいや、歳は取るもんだ」
「……そもそもお母様、ひなたさんが……その……種だなんて。 そもそもひなたさんには、婚約の候補の方が」
上機嫌でワインを召使いに注がせる祖母を、自身も……先ほどの展開に酔いで体を火照らせながらも、おずおずと尋ねる母親。
「あたしが、許可した。 あんな、家柄だけのボンボンよりもずっと良いだろうってね。 というより、もう親戚連中も、さ?」
と、手元のタブレットに目線を落とす。
そこには……ぴこぴこぴこぴこと、やけに漢字が多いか、ひらがなだらけの文章がすらすらと流れていく。
「了解しているよ。 今、飛ぶ鳥を落とす勢いの期待株な『ユズちゃん』と、ひなたがくっつくのをね。 何、家の血筋の方はなんとでもなるからね」
「……先日までは、相当な反対があったはずでは」
「年寄りというのは単純でね。 若いのが懸命に努力している様と、活躍する様。 それを見たら、応援したくなっちまうのさ。 ――あの子たちは、あのにっくき魔王軍の幹部を討伐した実績もできたんだ、もう反対する材料はないんだよ。 だって、英雄だろう? あの子は」
実は、反対しながらも全員がひなたの配信を――つまりは『ユズちゃん』をも追っていた日向家の面々。
ある者はひなたの真摯さに、ある者はひなたと柚希のピュアすぎて胸を打つ関係に。
――ある者は柚希の「男子なのに最も女子らしい」言動に、養子に迎えたいとまで本気で考え、またある者はガチ恋をし。
そんな面々に対し――「で、あの子がうちのひなたとくっつくのに反対するのは居るのかね?」という祖母のひと声に、全員が積極的に否を唱えた。
だからこそ、先ほどまでの。
柚希にひなたを始めとして女子3人が群がる様子に「初孫か」「ひなたちゃんはもう来てるのかねぇ」「この調子なら、遅くとも数年後には期待できるのう」「昔みたいに初々しい初夜を鑑賞できるのかねぇ」と、歓喜を上げていて。
――そうして柚希に羽が生えたのを見て、やはり腰を抜かし、半分は緊急搬送されている最中だという。
「情けないねぇ」
「……お母様、先日の入院のことを」
「さて、年寄りだから忘れやすくて敵わないからねぇ」
そんな、ヘタをすれば物理的に「尊死」しかねなかった年寄り連中のことを喜ぶ祖母。
もちろん自分のことは棚に上げている。
当然だ、愉悦とはそういうものだからだ。
自分が知っている秘密で、ずいぶん経ってから別の人間が驚き腰を抜かす様を見ることほど楽しいものはないのだ。
「しかし、柚希くんが男を見せなかったのは残念だけど……まぁいい、ひなたが成長すれば、その魅力でいずれは堕ちること確実。 最悪、こっそりと種さえもらえば、後はどうとでもする」
「お、お母様っ!」
「なに、あの子を目にかけると決めてからいろいろと手は売っておいた。 あとは既成事実だけだね。 ああ、もちろん柚希くんの反対がなければだから、安心おし」
心底嬉しそうに陰謀を企てる祖母。
そんな彼女を見る母親は――けれども先ほどの「ショタっ子な男の娘に少女たちが群がるシチュ」で楽しみすぎたため、体に力が入らずにおとなしかった。
「……おやおや、彼のご学友たちも楽しそうだ」
タブレットの画面を切り替えると、打って変わって今度は今どきの短文が飛び交うグループチャット――「ユズちゃん親衛隊」と書かれた。
「ダンジョン協会が出しゃばってきて警護の必要がなくなり、しょげかえっていた彼らも……今日のこれで元気になったねぇ」
「……そうでしょうね……だって、彼の正体を知っていてこの配信を見たなら……」
◇
「朗報、ユズちゃん、生える」
「柚希には生えてるだろ! いい加減にしろ!」
「でも、上にも下にも背中にも生えてるんだぞ?」
「最高だな」
「星野が、ついにやりやがった!」
「マジで羽ばたいてて草」
柚希の所属するクラス、その8割が集まっている1室。
「ユズちゃんのお泊まり配信? 実況せねば」と、当然のごとくに泊まりがけでの配信を決意した高校生たち。
彼らは――狂喜乱舞していた。
「ついに理央ちゃんがやるって思ったのに……」
「もうちょっとだったのにねー」
「柚希くんに生えるのが、あと30分遅ければ……」
「くっついてた?」
「あの雰囲気だと、流れで4人全員で初めてを……!」
「きゃー!!」
「どこまで配信されてたかなぁ」
「音声だけにすれば、けっこう行けるんじゃない?」
女子たちは黄色い声を上げ。
「星野が……」
「ああ……」
「胸……あったよな……」
「ああ……」
「いいよな……」
「ああ……」
男子たちは、静かに喜んでおり。
「で、さすがに諦めるだろう田中、ひとことどうぞ」
「諦めるも何も、俺はなんとも思っちゃいねぇ!!」
「またまたー」
「大丈夫大丈夫、今の時代は多様性、LGBTQはむしろ応援されるの! ほら、私の星野きゅん×田中くんも新刊が」
「描くんじゃねぇ!! ……無駄に高い画力で描きやがって!!」
「まぁ星野も、好きになるなら女子って言ってたしな。 あの様子だと、やっぱり女子のこと女性として認識してはいなさそうだが……ま、どんまい」
「あのかわいさなら、男でも好きになる。 分かる、分かるぞ」
「だから止めろ!! あと、ネットのノリを現実に持ち込むなっつってんだろ!!!」
――1人、からかわれ続けて大声を張り上げる、哀れな男子が居た。
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