146話 お酒は変な匂い
「私たちみたいにレベルがある程度あると、アルコール耐性もつくらしいので……だから、思ったよりは酔えないかもですけど」
「レベルが0から1になったときに。 さらには上がるほどに」って、お酒の缶を持ちながら教えてくれる光宮さん。
なぜか僕に向けて、熱心に。
……もう。
悪いことには聡いんだから……田中君と同じでさ。
「思いついてから調べましたもん! ちゃんと問い合わせしましたもん!! 配信でも良いって言ってましたもん!」
ふんすっと得意げな光宮さん。
……顔も赤いし、やっぱここに来てからこっそり1人で先に試したんじゃないの……?
お酒の匂いは……元気なときのお母さんほどにはしないけどさ。
【草】
【もんもんかわいい理央様】
【ほんと気配りできるよね】
【良い子だよね】
【ただユズちゃん一筋なのが……】
【何か問題でも?】
【いや……かなりの音量にも耐えるはずの配信用マイクがぶっ壊れる声量で、WSSを世界の中心で叫ぶのはちょっと……】
【草】
【ああ、それは確かになぁ……】
【それが良いんじゃないか!! 末裔が怒るぞ!!】
【草】
【ま、まあ、愛だから……】
【それだけ百合度が高いということですわ!】
【お嬢様方も参戦か……】
【百合度……斬新な概念だな……】
「はい、柚希先輩の。 柚希先輩が好きなジュースの味のやつです!」
「……すんすん。 すんすん……」
ひんやりと冷たくって、水滴が手に張り付いてくる缶。
その、開けられたプルタブを嗅いでみる。
……あー、お母さんがお酒飲んだ後の匂いだ。
なら嫌いな匂いじゃない気がする。
多分だけども、お母さんがこの前飲んでたやつと同じだ。
お母さんから聞いたのかもね、これなら飲みやすいって。
「すん……すん?」
けども……やっぱり変な匂い。
お酒って、何でこんな匂いするんだろ。
「すん……すんっ」
けど、なんだかクセになる気がする。
不思議な匂い。
「きゅぴぃぃぃ……!」
「ぴぴぴぴ……!」
【かわいい】
【かわいい】
【なにこのかわいいいきもの】
【ユズちゃんっていうの】
【いつもの】
【あの、ユニコーンたちが】
【言うな……セミスタイルのことは……】
【草】
【本当、地面で小刻みに振動してるもんなぁ……】
【あ、微妙に位置がずれてる】
【え!? 振動で移動を!?】
【草】
【やめて、おなかいたい】
【まーたユズちゃんのせいで雰囲気が……】
【でも、ユズちゃんがおしゃけか……】
【楽しみだな】
【こんなロリっ子がお酒を……ふぅ】
【分かるぞ】
【……理央ちゃんが、ひなたちゃんは子供だからダメで、ユズちゃんならOKって つまり……マジで16歳↑?】
【あっ】
【!?】
【合法ロリか……ひらめいた】
【通報した】
【ここへ来てユズちゃんの年齢が】
【いやいや、ないでしょ……ないでしょ?】
「……くぴっ」
【●REC】
【びびりながらおしゃけ口にしたユズちゃん】
【かわいい】
【両手でおずおず缶を持って、唇すぼめてるのがまた……】
【ああ……】
【何とは言わないが……】
【これがユズちゃんの初体験か……】
【文字どおりの意味でな……】
【¥100000】
【!?】
【ひぇっ】
【あいかわらずこの配信やべーな】
【まぁ、女神様フォロワーっていうおかしなのも来てるしなぁ】
【<URL>】
【しっしっ】
【あー、ユズちゃんが男の娘って言いふらしてる頭おかしいの】
【そんなわけないだろ、このユズちゃんが】
【そうだそうだ】
【……なぁ、思ったんだけどさ ユズちゃん、寝起きとかやべーんじゃ……】
【あっ】
【理央様と魔族を滅した寝起きのアレが……】
【草】
【もしかして:まーたあんな感じに】
【いいぞ、むしろやってくれ】
【あのインパクトが女子3人に直撃するのか……】
【¥20000】
【¥5000】
【¥30000】
【お前ら……】
【紳士だからな、チップははずまねば】
【左様、げに美しきものを拝観した相応の対価よ】
【何かっこいいこと言ってるフリしてんだよ変態が】
【草】
◇
「だぁいじょうぶぅー、あの人の家系も私の家系も、お酒には強いからぁー」
星野家、ダイニングルーム。
そこには……テーブルに杖を引っかけてはあるものの、2、3時間ならイスに座っていられる余裕はあるらしい柚希の母親が――柚希に何度も確認して購入した、一升瓶をでんと置きながらツッコミを入れている。
「そうよぉ、ゆずも私も低血圧で寝起きはダメだけどぉ、お酒は強いんだからぁ」
そんな彼女は、徳利に入った日本酒を傾け……柚希にも見せないような笑顔。
……なお。
その姿は、どう見ても中学3年から高校1年の女子であり――万が一にもその場面を見られたら、未成年の飲酒として警察を呼ばれるもの。
かつて元気だったころ、飲み屋に居るだけでいちいち警察を呼ばれていた彼女は――とても、嬉しそうだった。
「……あ、でも。 飲みすぎはダメよぉ」
少し顔の赤らんでいる彼女は、聞いている相手も居ないのに配信画面へ話しかける。
「多分ゆずも、私と同じように……人の倍くらい飲むと、思わず。 ……さすがに無いわよね? そんなことは」
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