140話 お姉ちゃんなお母さんと、冗談と
「あ、そういえばなんだけどさぁ」
お互いに名前も知って、趣味とかもちょっと知って、仲良くなったころ。
そろそろ帰ろうかって話してた彼女たちの1人が、ふと僕に聞いてくる。
「柚希ちゃんのお姉さん……中学生くらい? だよね? なのに、なんだか色気すごいよねぇ」
「えっ」
「あ、そーそー。 なんか、どきってしちゃった」
「柚希ちゃんよりちょっとだけおとなっぽくてー」
「あ……具合悪そうだったけど、声、大丈夫だったかなぁ」
「あ、ほんとだ……柚希ちゃん、大丈夫かなぁ?」
「え、えっとぉ……」
思わず目を逸らしちゃう僕。
だって、その「お姉さん」って……。
え?
さっき廊下で「お母さん」って読んだの聞こえてなかったのかなぁ……?
「だ、大丈夫ですよ! はい! 柚希先輩の『お姉ちゃん』!」
「えっ」
逸らした目を戻すと……何かが含まれてる笑顔してる光宮さん。
「『お母さん』と同じく『お姉ちゃん』も病気がちなんですけど! はい! とっても優しくて……柚希先輩そっくりなんです!」
「だよねぇ」
「柚希ちゃんもそうだけど、もっと大きくなったらかわいい系美人さんになるんだろうなぁ、いいなぁ」
「柚希ちゃん、お化粧とかしてないし、髪の毛も……うん、個性的だけど」
あ、「個性的」ってのは女子的な気遣いの表現だね。
いいもん、僕は男だもん。
女の子的な「かわいい」しちゃうと、本当に女の子になっちゃうんだもん。
「素の状態で、すでに……うん」
「うらやましいなぁ」
「おしゃれとお化粧覚えたら、ここからさらに……」
「ほんと、姉妹どころかお母さんの血かぁ」
「美人のお母さんに姉妹。 ほんと、良いなぁ」
うんうんってうなずき合ってため息ついてる4人……あ、優さんもだ。
「私も……もっとかわいい系が良かったんだ……」
「え、ムリでしょゆうは。 バスケ部とかにいつも引っ張りだこだった身長だし」
「無意識でイケメンムーブしてるし」
「とりあえずこのまま、ずっと男ってことでやってもらってるけど」
「配信でも、今まで1回も女子ってバレたことないしねぇ」
「優男ー、とかイケメンー、とか叩かれてるよね」
「そもそも前提が間違ってるから傷つかないけどね……」
「………………………………」
「………………………………」
ふと、優さんと僕の目線がぱっちりと合う。
「………………………………」
「………………………………」
なんとなくでうなずき合って――僕たちは、ちょっとだけ仲良くなった。
お互いに――恵まれてはいても、自分のアイデンティティーとは不本意な見た目だってことを悟って。
……それにしても……お母さんが、お姉ちゃん。
うん、まぁ良いけどね……お母さんのこと知らない人相手だと、ほぼ確実にそう言われるし……なんなら毎年の面談とか授業参観でもお母さん、ものすごく嬉しそうだし。
けど、まさかまだぎりぎり大人じゃない、大学生の人たちにもかぁ。
……「子供扱いも、この歳になると嬉しいのよ」とか。
僕にはさっぱり分からない感覚だ。
◇
「良い人たちだったわねー。 もっと仲良くしたら?」
「お母さん、最後の会話聞いてたでしょ」
優さんたちが帰って、光宮さんが近くの駅まで送ってくるって出て行って。
うるさくして大丈夫だったかなって見に行ったら、ものすごくにやけてるお母さん。
「ねえねえゆず、私、お姉ちゃん?」
「……お母さん、あの人たちより年下に見られてるんだよ? 平気なの?」
「中学生だって! 柚希も小学生って見られてるし、ちょうど良いわね♪」
「何がちょうど良いの……?」
すっごくご機嫌……過ぎて、息子としては複雑。
というか、僕が小学生って……。
「きゅい?」
「ぴ」
おまんじゅうたちは、お母さんのそばでごろごろしてる。
どうやらさっき堪能しすぎたみたいで、2匹とも疲れ切ってる様子。
「ゆず」
と。
お母さんのトーンが、元に戻る。
「危険なことは……あまり、しないでね」
「……うん」
僕たちとしては、なるべく安全にってやってきた。
でも、冒険のたびに何かしらに巻き込まれて……今回だって。
「でも、ありがとう。 おかげでゆずも高校続けられるし、いろいろな人に待ってもらっていたツケも返せたし」
「ううん。 あれも、まぐれだから。 それに、返してもまだ余ってたから、お母さんのお薬もしばらくは良いのにできるし」
「……ええ。 ちょうど調子が下り坂だから、お医者様がお勧めするのを……良いかしら?」
「そのために、潜ってるからね」
ぽつ、ぽつ。
さっきのにぎやかさとは真逆の、静かな時間。
そういうのもまた……良いよね。
「で?」
「?」
「ゆずは、誰を選ぶのかしら?」
「?」
選ぶ?
何を?
「……ゆず? あなた、まだ男の子よね?」
「決まってるじゃん……昨日だってお風呂入ったでしょ」
「まだ」って何?
ある日突然、男が女の子になるとでも?
そんなとこ、あり得ないでしょ?
「ええ、生えてるのは分かってるけど……心の話」
「当たり前だって」
ダンジョンに潜る前、お母さんの調子が良くってお風呂に入れる時期は、お湯の節約とお母さんを洗ってあげるのを兼ねて、よく一緒にお風呂に入ってた。
光宮さんが来たときは光宮さんにお願いするけども、やっぱり体動かすのが辛そうだったし、光宮さんも普段は学校で忙しかったから。
「小学生だけど、たったの5歳差のひなたちゃん。 大学生の、2歳差のあやちゃん。 1歳差なだけの理央ちゃんのライバルさんね?」
「だから言ってるでしょ……僕、恋バナには興味ないんだって」
そもそも僕、女の子って思われてるし。
……いつかは言わなきゃって思いつつも言えないけども。
「あの、背の高かったイケメンちゃんの子」
「優さん?」
「あの子も仲良さそうだったから……あやちゃんと同じくらいだし、これで4人も候補が居るわね!」
「やめてよ、ことあるごとに誰かとくっつけようとするの……」
女の子も女の人も、女性はいつもそうだ。
男も女も、ヒマさえあれば誰かとくっついたり離れたりしてなきゃいけない。
どうやら本気でそう思ってるらしいんだ。
そんなわけないのにね。
「それとも、実は田中君とか男の子に」
「違うから! ……好きになるとしたら、女の子だから!」
「でも、田中君にどうしてもってぐいぐい来られたら?」
「え、ヤに決まってるでしょ」
だって……ねぇ?
「……彼には、優しくしてあげてね?」
「あ、うん。 お世話になってるからね」
「………………………………」
小学生くらいのときのいじめっ子な印象がまだまだ拭えないけども……よく考えたら、田中君、僕のことをぶったりはしたことないんだよね。
僕のこといじめてきた子たちとは殴り合いしてたのにさ。
「……理央ちゃんにもよ?」
「うん。 お世話になってるし」
「………………………………」
「?」
「……はぁ……ううん、何でもないの……」
嬉しそうだったお母さんが、なんか変なため息をついていた。
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