139話 優さんの事情
「で、優さん……って呼んじゃっていいです? 優さんが男装……男の人ってことになってるのって」
「……うん……この通り、女性5人パーティーだからね……」
切り替えの早い光宮さんは、ストレートに切り込む。
「気が付いたら、ゆうのハーレムパーティーって有名になっちゃって。 せっかくだからってさー」
「そうそう、ゆうがイケメンだから他の男も寄ってこないしー」
「私たちは、ひとこともゆうが男の子だなんて言ってないしー」
「そーそー、リスナーさんたちが勝手に勘違いしてるだけなのよねー」
「あはは……そういう事情でしたか……」
「おかげでゆうが4股してる最低男ってことになってるけど……ま、それはそれで」
「将来的に、お互い解散したりカレシ作ったりするときにバラすつもりなの。 それまでは楽させてもらってます♪」
確かに優さんはかっこいい系だ。
……僕にちょっと分けてほしいくらいの。
「元々ゆうってば、うちの女子校で王子様だったのよね」
「本人はちょっと嫌がってたけど……まぁ、この顔だし」
「顔も中性的、身長があってスポーツ万能……素で男の子って思ってる子も居たかもねぇ、女子校なのに」
「あー、心は女の子な男の子って感じでねぇ」
まだ赤い顔の優さんのおでこが、ぺろんとめくられる。
そうすると、いつにも増して精悍って感じの顔つき。
いいなぁ……僕も、イケメンとか……いや、せめて「男らしい」って言ってもらいたいなぁ。
「美人系ってよりは美男子系でさー、しかもダンジョンで登録するとき、受付の人が素で間違えて登録しちゃっててさー」
「ウケるよねー」
「……私たちの情報とかって、住民票とかから行ってるはずって……?」
「そうなんだけど……受付の人が、ゆうの顔に見惚れてってね」
「罪作りな女だよねー」
それを聞いて、光宮さんの目が僕の目と合う。
……うん。
それで。
それで僕も、女の子として……登録されてる?んだよね。
いや、問い合わせとかしてないから分かんないけど多分。
だって、確か最初の……お役所では、男だって伝えたもん。
で、女の子だけのパーティーとかに入っちゃわないようにって、「必要なら」男だって開示されるって言ってた。
でも……どっかで、それが忘れられたんだ。
だって、そうじゃなかったら教官さんも僕のこと、女の子扱いしないはずだもん。
あんなに良い人でも間違えてるんだ、記録から間違ってるとしか思えないもんね。
女の子2人とのパーティーだ、男なら確認されるだろうし。
……学校でも、あんまり知らない先生とかは女子って思い込んでたっけなぁ……僕のこと。
「まー、そーでなくても最近は性別とかには厳しいからねぇ。 仮に、どう見ても逆の性別とかでも、本人が言い張るならそうなっちゃいそうだし」
「あー」
「ま、ゆうにはその気とかこれっぽっちもないから、学校でもカノジョ作んなくってもったいなかったよねぇ」
「絶対貢がせ放題だったのにねー」
「……私は、女子相手じゃ、友人としてはともかく、恋人としては……」
「分かってるって。 じゃなきゃノーマルな私たちもゆうとは組まないって」
「……柚希先輩。 私たちは」
「……うん。 真逆、だねぇ」
ぼそぼそと話しかけて来る光宮さん。
光宮さんだけが救いだ。
どうやら相当に仲の良いらしい5人は「せっかくだから」って、みんなが持って来たお菓子や、この前も田中君が持ってきてくれたいろいろを味わいながらきゃっきゃと楽しそう。
「あ、ごめんねぇ。 謝りに来たのに」
「い、いえ、僕は気にしてませんからっ」
「ほんといい子ー。 ……あのさ、提案があるんだけど」
ずい、と、その中でも元気なお姉さんが僕を見てくる。
「あなたたちのパーティー。 ……一時的でもさ、うちと合流しない?」
「え」
「だって女の子パーティーでしょ? ならうちとおんなじだし」
「それに、ゆうもお世話になってるしねぇ」
「……いえ、でも、優さんたちと私たちとじゃ、レベル差が」
「いやいや、あんな戦いっぷり見たらそんなん気にならないって」
「そーそー……って言うか、この震えてる子たちがあんなに強いだなんてねぇ」
「配信見てたよー。 レベルもそこそこあるじゃん? みんな」
「フツーに行けるでしょ」
「きゅ、きゅひぃぃぃぃ……!」
「ぴぴぴぴぴ……」
突然の提案。
それにびっくりした顔の光宮さんが、僕を見てくる。
「うーりゃりゃりゃりゃ」
「きゅひぃぃぃぃぃ……!」
おまんじゅうが、今にも死にそうな声を上げている。
それはいつものことだからどうでもいいんだけども……確かに、そうだ。
優さんたちのパーティーは、女性のみ――だから、男性恐怖症のあやさんも大丈夫。
聞けば、優さんが僕たちの護衛クエストを受けてるからって、もともとこっちに……電車でちょっとの場所にアパート借りてるらしいし、近いってことはそれだけで都合が良い。
特に今は、ダンジョンに登録してる人は武器の携帯を許可されて、なるべくパーティーメンバーで一緒に居るようにって言われてる。
そんな状況、そんな組み合わせ。
確かに、魅力的な提案だ。
でも。
「……良いですよ、柚希先輩」
「理央ちゃん?」
顔を上げた僕に、彼女がほほえむ。
「何かあったら、柚希先輩に任せる。 そう、ひなたちゃんもあやさんも言ってました」
「……そっ、か」
僕に、任せる。
何でかとも思うけども……多分、僕が1番弱いから。
だから、僕が安心できるなら。
そういうことなんだろう。
「……優さん」
「うん」
「ごめんなさい。 でも、僕たちは」
「だよね。 君たちは、もうパーティーだもんね」
そう言った途端に、納得した顔の優さん。
「……分かってたんですか? 優さん」
「うん。 そうは言ったんだけどね、彼女たちが『聞くだけなら良いでしょ』って聞かなくて」
ぱちんっとウィンクをしている優さん。
「……そうやって女の人たちを虜にしてたんですかぁ?」
「あ、分かる? そうなのよ、ゆうったらナチュラルに口説いちゃってねぇ」
「え? あ、いや、今のは!」
「クセなのよねぇ……キザったらしいのとかさ」
そうやってわーわーと言い始める彼女たち。
……多分、僕が振ったのを気にしてないっていう意味でもあるんだろう。
「……良い人たち、ですね」
「うん」
パーティーを組まないにしても、何かあったら連携する。
こっちが頼んだら戦闘訓練とかしてくれるし、逆にあっちからは頭数をってときはこっちも……状況次第で応じる。
僕たちが、特に男性配信者とかに絡まれて困ってたら、優さんの名前を出して良い。
今後もしばらくは――協会からのクエストの期間は、まだ優さんが僕たちについてくれる。
そんなことを。
「きゅ、きゅ、きゅひ、きゅひっっ……!」
「ぴ♪」
……うっすらとしたお化粧と香水と、女の人たちにもみくちゃにされて……みんなにむぎゅむぎゅっと抱きしめられて、多分胸とかの感覚を堪能してるだろうおまんじゅう。
今にも死にそうな声あげながら震えてるあの子と、みんなに両手でつつかれてなんだか楽しそうなチョコを見ながら、僕たちはしばらく盛り上がっていた。
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