135話 珍しいひとりぼっち(+2匹)
「………………………………」
「きゅい?」
「ぴぴっ」
「……んー、だいじょうぶ。 ぼんやりしてるだけ」
静かな部屋の中、2匹の鳴き声が聞こえる。
「……最近、ずっと誰かと一緒だったからなぁ」
僕の部屋。
最近はずっと……いや、最近の前の最近は、ただ寝に戻るだけだった部屋。
ベッドに机、クッションに本棚。
地元のみんなと大差ない子供部屋。
「すんっ……まぁた理央ちゃんは……」
枕とかシーツに鼻をくっつけて吸い込むと、多分おととい来たタイミングでそれなりに横になってたらしい匂い。
それが、かわいい系の、ピンクと水色のシーツとか枕カバーに染みついている。
……僕の趣味じゃないよ。
家の家具とかは、売れ残りで安かったのとかもらい物が多いから。
クッションだっておまんじゅうサイズの人形みたいなかわいいやつがいくつもあるし、カーテンとかもやっぱり女の子のみたいな感じ。
「……だから、最初にしちゃってた配信で、女の子の部屋って……男なのに」
「ぎゅい」
たまに、わけもなく……多分毛についたゴミとかが気に入らないんだろうなぁ、真っ白で綺麗な毛並みだから……おまんじゅうがご機嫌ななめになる。
そんなおまんじゅうを抱っこして、その上に飛び乗ってきたチョコも撫でてあげて。
「……髪の毛も、結局切るの、どっか行っちゃったし」
「ぴ?」
「ぎゅ」
おかげで僕だけじゃなくってお母さんの髪の毛も長くなってる。
お母さん自身は「髪が伸びるとちょっとだけ年上に見られて嬉しいのよー」とか言ってるけども、僕は早く切りたい。
あ、いや、切ろうと思えば……お金も、多分10年ぶりにまともな金額が家の口座に入ったから、そのくらいは行けるんだけども。
「……理央ちゃんが、しない方が良いかもって……ほんと? おまんじゅう」
「きゅ」
「切る?」
「ぎゅ」
「だめ?」
「きゅ」
「……ダメかぁー……わがままなんだからぁ」
……って感じで、無理やりズボンにしたときみたいになっちゃうから、いつ魔王軍が来るか分からない状態でそれは止めといた方が良いってことらしいんだ。
……男なのになぁ。
「もう……ヘアピンしてないと前が見づらいのに……」
「ぴ」
僕は、片目がすだれみたいになってる視界と、ヘアピンで留めてるおかげでクリアな視界を交互に意識する。
「これじゃますます女の子みたいだけど……おまんじゅうが居るあいだはしょうがないかぁ」
髪の毛も、前髪はもう胸にかかるし後ろも背中の後ろまで来てる。
特段運動するわけでもないし、汗っかきでもないし、髪の毛が気になるわけでもないから良いんだけどさ。
「ひなたちゃんより幼いロリっ子……みんな言い過ぎだよ」
理央ちゃんいわく、ネットではみんなノリが良すぎるんだって。
だから多分、僕が幼く見えるのをネタにしてるだけだ。
さすがに高校生男子と小学生女子なら、もちろん僕の方が上に見えるはずだもん。
「けど……僕が、有名人、かぁ。 実感はないなぁ」
理央ちゃんいわく、僕のアカウントはとんでもないことになってるらしい。
SNSも、動画サイトも。
仕組みはよく分かんないけども、たくさん見られると広告がついて、それで還元されるやつで……かなりの金額が毎月入ってくるレベルだとか。
「正直、ただダンジョンに潜って雑談してるだけでも、もう先輩と御母様だけなら生きて行けますよ?」だそう。
「まぁ今回のはちょっと特殊なので、一時的だと思いますけど」とも言ってたから、やっぱりダンジョンに潜ってバイトもしなきゃね。
アカウント?
よく分かんないから理央ちゃんに丸投げしてる。
どこかまでがネタでどこまでがからかいで、どこまでがほんとなのか僕にはさっぱりだから。
「……今はダンジョンもバイトも、両方ともできないからなぁ」
ダンジョンは、魔王軍侵攻のため全部閉鎖、今は強い人たちが湧きを掃討作戦中。
田中君のバイト先も、どうしても生活でお金が必要な人以外は、さらにそのシフトも限界まで減らしてるらしい。
「だからオマエはおとなしく家でじっとしてろ! いいか! 絶対だぞ!」だって。
「僕……守られてるだけじゃないのになぁ」
僕は、男だ。
背は低いけども、男だ。
腕っ節も……中学生女子に腕相撲で負けることもあるけども、男だ。
大体の人に女の子って思われるけど、男だ。
まだヒゲとか生えてこないけども、男だ。
一応好きなのは女の子だ。
多分。
まだよく分かんないけど。
……最近食材が格段に良くなったからか、なんだか二の腕とかふとももがぷにぷにしてきてるし、おまんじゅうが毎朝毎朝吸ってくるからおっぱいが膨らんだ気がするけどもそれはきっと気のせいだ。
「レベルが上がれば、筋肉つくって言ってたのに」
腕を上げて、二の腕を……やっぱぷにぷにしてる。
「きゅいっ」
「ぴぴぴ」
そうして動くと、さらさらと流れる髪の毛。
……どこからどう見ても女の子になっちゃってる。
「でも」
「きゅい?」
「ぴ?」
「……君たちのおかげで、大切な人たちを守ることができたんだよね」
ぎゅっ、と2匹を抱きしめる。
僕は女の子みたいな見た目にさせられちゃってるけども、その代わりに。
おまんじゅうは、圧倒的な火力で。
チョコは、ものすごい岩からも守ってくれる防御力で。
僕を、みんなを、守ってくれる。
「……それなら。 危ないうちは、まだこのままでいいや」
ようやくなれた、ダンジョン潜り。
けども、憧れてた「普通」のルートは辿れずに、なんだかすごいことになっちゃって。
でも。
「楽しい、から。 今のが落ち着いたら、また、潜ってみんなと冒険して、いたずらっ子な視聴者たちと話したいから」
「きゅ♪」
「ぴっぴっ」
「よろしくね。 これからも、ずっと」
◆◆◆
新章です。
ここらでひと息、珍しくコメント欄たちが(比較的)静かで、ユズちゃんたちがのんびりします。
――魔王軍の、侵攻開始まで。
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