131話 続いていく日常へ
「良かったぁ……良かったですぅ……柚希先輩が、留年とか退学にならなくてぇ……」
「あー、もー。 君のおかげだからありがとって」
「ぐすっ……はいぃ……」
泣き出しちゃった光宮さん。
泣いてる理由が理由だから、止めるのも難しくって。
「みんな心配してたんですからぁ……ばか」
「ごめん、ごめんって」
【理央様……】
【泣いちゃってる……】
【しょうがない、大変だったんだろ】
【良い子だなぁ】
【これであとは、ユズちゃんにセクハラしまくらなければ……】
【草】
【お前! 今良いとこ!! エモかったの!!】
【台無しで草】
【感動の場面のはずなのに……】
光宮さんは涙もろい。
僕と……特に僕の家のことでのケンカをすると、最後は必ず泣いちゃうんだ。
「……ゆずきちゃん、良かったね!」
「ええ、事情はうかがいました。 ……高校、今はこの騒ぎで休校でしょうけど、それが明けたらきっと」
「はい。 また、通えます」
僕は、最近しばらく着てなかった制服を思い浮かべる。
「……久しぶりに制服も着れるんだ」
【!?】
【ユズちゃんの制服だって!?】
【もしかして:ユズちゃん、小学生じゃない】
【草】
【だから一応は高校通ってるって言ってるだろ!】
【いやだって、やっぱり信じられなくって……】
【気持ちは分かる……】
【でもここまで来たら信じたげてよぉ!】
【ちゅ、中学生なら……】
【そ、そうそう! なんなら私立の小学校とか!】
【徹底的に信じてもらえてないユズちゃんで草】
【だってユズちゃんだし……】
【これまでの実績がなぁ……】
「……では、そろそろ出ましょうか。 柚希さんも起きましたし」
「ゆずきちゃん、何回起こしても起きなかったんだよー?」
「あはは……疲れてたから……」
「先輩は今日のMVPですからね!」
みんなで立ち上がって……何故か静かになってる銀行内をちらって見て。
「……?」
【あの感じ……】
【ああ……】
【客たちも多分……】
【この配信……】
【見てるよなぁ……】
【みーんなスマホ持って突っ立ってるし……】
【生ユズちゃんたちと交互に……】
【みんなでほほえましくホームコメディーを……】
【草】
「私たち、協会の人に車で送ってもらってるんですよ」
「危ないかもって!」
「へー……あ、だからゲートじゃないんだ」
【ダンジョン協会が車出すVIP待遇】
【そらそうよ】
【なんたって、推定魔王軍幹部を打ち倒した英雄だからな!】
【打ち倒した(精神攻撃】
【打ち倒した(尊死】
【草】
【だめだ、やっぱユズちゃん関係はギャグになっちまう】
【もうそれでいいよ……】
【と、とにかく英雄なのは確かだし】
【人類であそこまでやったのは初だからなぁ】
【10年前は混沌としてて戦果とか分からなかったし】
【ユズちゃんたち、そのうち表彰とか】
【されるんじゃね?】
【こんなにかわいいしな!】
【ユズちゃんが望むかどうかは分からないけどな】
【10年前、いや、11年前の大災害だって、メインの人たちはみんな大げさに英雄扱いだったんだ ユズちゃんたちだって、きっと……】
銀行から出ると、武装したゲートの職員さんっぽい人たちに、結構ごつい車……装甲車って言うのかな?
【この人たちも、見てたよね……】
【お姉さんとかおじさんとか、目、潤んでるし】
【じゃあなんで配信してるって言ってあげないの?】
【だってもう手遅れだから……】
【まぁ、もうここまで来たら意味ないしねぇ……】
【草】
「柚希先輩」
光宮さんが腕を取ってくる。
「先輩は、魔族を倒したヒーローなんです。 ちょっと恥ずかしいかもですけど……まだみんな怖いので、せめて先輩が笑っててあげてくださいね」
「……うん」
みんなから話を聞いて――まだ全然納得も信用もできてないけども――理解はして、事情は飲み込めた。
僕が――多分おまんじゅうか何かの不思議な魔法で、魔王軍の幹部を倒した。
その事実だけで、この先魔王軍の侵攻に備えてるあいだ、みんなはちょっとだけ心強くなれる。
だから、フリだけで良いから明るく振る舞っていてほしいって。
それでダンジョン協会さんたちと迎撃戦に出るとかってのはまた後の話、とにかく今は「ヒーロー」らしくやってほしいって。
「……ガラじゃないんだけどなぁ」
「でもゆずきちゃん、今日もかっこよかったよ!」
「ええ。 私たちを、あんなに守ってくれました」
「そうです! あんなに的確に指揮してくれました!」
「あれは、たまたま……ううん」
職員さんたちが……みんなが、見てる。
なら。
「……あのくらいだったら、またがんばろうね」
【ヒュー!】
【かっけぇ】
【ユズちゃん、真面目モードに入るとかっこいいのよね】
【顔つきも凜とするよな!】
【ちょうちょが抜けるよな!】
【草】
【やめて、ちょうちょはやめて】
【何があっても笑っちゃうから】
【ねぇ、今良いとこだったよね!?】
【だってユズちゃんだし……】
【良いじゃん、昼行灯系ってことで】
【愛され系の間違いじゃない??】
【小動物系だから……】
【まぁコメント欄見てたら、そうなるな……】
「きゅいっ」
「あ、おまんじゅう……にチョコ」
おまんじゅうたちが、武装してる職員さんから手渡される。
……そういえばもふもふしてないって思ってたっけ。
「おまんじゅうちゃんたち、軽く状態調べてもらってたんです!」
「はい、問題はありませんでした。 念のために治癒魔法も使っています」
「ありがとうございます。 良かったねぇ、ふたりとも」
「きゅっ」
「ぴっ」
「あははっ、くすぐったいよぉ」
【●REC】
【かわいい】
【やっぱりユズちゃんはこれだよな】
【お人形さんを持ち歩いてる幼女がこれほど似合う子も居ないもんな!】
「――きゅきゅきゅ」
「――ぴっ」
【!?】
【!?】
【真っ暗】
【えっ】
【音が】
【配信が!?】
【悲報・良いとこで配信終わり】
【そんなぁ!?】
【なんでぇ!?】
【まーさすがにユズちゃんのカメラ、電池切れなんだろ】
【あー】
【今の、ユニコーンたちがこっち見て……いや、気のせいか……】
【しかし、ようやくか……】
【ずいぶん長かったよなぁ】
【ああ……】
【できたら国家機密暴露する前だったら良かったのになぁ……】
【草】
【もう盛大にお漏らししちゃったからね、しょうがないよね】
【ユズちゃんがお漏らしだって!?】
【完全に落ちたか】
【解散】
【あー、俺のとこも招集来てるわー】
【俺も】
【ダンジョン協会に登録してるのは大体来てるらしいな】
【まぁしゃあない、学校は当分閉鎖で自宅待機、戦える人は動員だし】
【魔王軍、諦めてくんないかなぁ】
【1年前と同じで、どうせ1ヶ月くらいで解除だろ】
【そうだと良いんだが】
車に乗り込もうとした僕に、声がかけられる。
「……柚希先輩!」
震えてるチョコたちを見てた僕の目の前に、彼女の――嬉しそうな顔がある。
「近いうちに学校。 また、一緒に行きましょうね!」
「……うんっ」
魔王軍。
幹部。
侵攻。
休校。
戦時体制。
招集。
なんだか大変なことになっちゃってる、この世界。
……それでも、僕は。
「あ、ゆずきちゃん。 お母さんがね、今度家に来てって! みんなで!」
「あら……それはとても楽しみですね」
この子たちと出会えて――とっても、良かったんだ。
◇
「………………………………あ、ああ……」
とある空間。
そこには、ようやく再生してきた存在が居た。
「……シトラスの君は、あれほどまでに……」
ぐっ、と、実体を取り戻していく。
「……魅力的過ぎて、これほどとは」
その空間には――無数の魔物。
正確には、魔力の存在するポイントポイントに種族ごとに集まり、何をするでもなく眠っているモンスターたち。
「……こう……なったらもう、真正面からです」
その存在は、体を再生し切り。
「そのためには……援軍が、必要ですね……?」
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