130話 目が醒めて、退学回避――最初の目標、達成
「――はっ!?」
【朗報・ユズちゃん、起きた】
【大丈夫? また寝ぼけてない??】
【多分魔力が底を着いたままだったんだろうし、今は大丈夫だろ……ちょっと寝たし】
【あー】
【だからさっき、金額見て気絶しちゃったのか】
【でもさ、いくらすごい金額だとはいえ……それ見ただけで気絶するもんなの?】
【お金に苦労してたって言ってたし】
【あー】
【まぁあの金額じゃしょうがない】
【子供があんな金額見ちゃったらなぁ】
【お前ら、一応ユズちゃんは自分のこと高校生って言い張って……いややっぱどう考えても完全に無理だわ】
【草】
【言っときながらひでぇ】
【大丈夫、だーれも本気でそう思ってないから】
【まぁ、あるとしたらかなりの飛び級ってだけでね】
【でも……いつまでこの配信続くの……?】
【さぁ……?】
【草】
【さすがにこれ、ダンジョン協会さん止めないの??】
【ま、まあ、もう国家機密の暴露大会は終わってるし……】
【あー、今さら気づいても止める意味がないのね……】
【あーあ】
【でもせめて、あの子たちの誰かに連絡くらい……】
なんか僕、札束に押し潰される夢見てた気がする。
なんでだろ。
「……? ここは?」
「あ、起きましたね先輩」
僕は横になって寝ていたらしい。
真上から声が降ってきたし、多分光宮さんが見ててくれたんだろう。
だから、柔らかい感覚から体を離――
「わぷっ」
――そうとしたら、目の前でぼいんって弾き飛ばされてもったい仰向けになった僕。
結構ぼいんってなった。
頭がくらくらするぅ……。
「あら、ごめんなさい」
「……?」
僕の目元が、ぼいんって弾き飛ばされた。
……今の、何?
【●REC】
【おい、今あやちゃんのお胸でユズちゃんが弾き飛ばされたぞ!?】
【草】
【すげぇ……】
【バウンドしてた!!】
【さすがのでかさだ……】
【南半球の弾力がすごそう】
【なかなか見れるものじゃないね】
【ああ……!】
【投げ銭がすごいことになっていく】
【もちろんこの場面の切り抜きでもすごいことになるな!】
【素人JDのハリのある弾力だもんな!】
【その表現はいかがわしすぎるから止めろ!!】
「ゆずきちゃん? 大丈夫?」
「う、うん……あれ? ここ……」
さっきまでとは違って、がやがやとにぎやかな雰囲気。
周りを見てみると……銀行?
「ごめんなさいね、のぞき込んでいたから……」
「あ、いえ、ありがとうございます」
状況が飲み込めてきた僕。
どうやら僕は、あやさんに膝枕されてたんだ。
で、あやさんのお胸は大きいから……勢いよく真上に上がろうとして、吹っ飛ばされたんだ。
すごいね。
お母さんのお胸はそんなにないからこんな経験がなくって、だからすっごく新鮮だ。
将来いいお母さんになりそうだね、あやさん。
「柚希先輩!」
「うん?」
すっ、と僕のスマホを差し出してくる光宮さん。
「勝手に、やっちゃいました。 ……多分、あの金額見ても『でも……』とか『だって……』とか言いそうだったので」
光宮さんが、画面をぴっと指す。
「……?」
「あの、本当に良かったのでしょうか……?」
「はい、御母様から許可ももらってますから」
「ゆずきちゃんのお母さんだよね!」
【まだ事態を飲み込めていないユズちゃん】
【むしろ俺たちの方が飲み込めてるよな!】
【草】
【だってまぁだ配信続いてるんだもん……】
【ま、まあ、もう国家機密じゃないから……】
【一応個人情報っぽいのは全部ぼかされてるし……】
【というか理央ちゃん、ユズちゃんの口座のこととか普通にできるんだな】
【まぁ家族ぐるみの付き合いみたいだし】
【でもさ、電話で聞こえてたユズちゃんのお母さんの声……】
【ああ……】
【ユズちゃんそっくりだったよな……】
【なんならあのぽわぽわした話し方も……】
【もしかして:ユズちゃん、ユズちゃんのお母さんそのままコピー】
【草】
【い、一応経産婦のはずだから……】
【このロリっ子が経産婦だって!?】
【みなぎってきた】
【ユズちゃんとほぼ同じ見た目と性格のシンママか……】
【「ユズちゃんは狙えないけど」ってワンチャン狙いが押し寄せそう】
【ユズちゃんのママも守ってもらわないとね】
スマホの画面。
そこには――「学費」。
「……まさか」
「はい、そのまさかです。 ……元々、これが最初の目標だったじゃないですか。 ダンジョンに潜る、最初の。 長時間のバイトを掛け持ちして、学校も休学して――ぼろぼろだった生活を、変える目標」
光宮さんを見上げると、いたずらっぽさと申し訳なさとが混じった、嬉しそうで泣きそうな顔つき。
「ゆずきちゃん、怒らないで」
「そうです、先ほど柚希さんのスマホで、お母様と電話をされたんです、理央さんが」
「………………………………」
……口座には、1回すごい金額が入って。
で、そこから学費の――施設費とかそういう系の、去年の分も滞納してたのを、まとめて引かれてて。
それでも……まるまる1年、バイトもダンジョン潜りもしなくたって生活には困らない金額が、最初は0だったダンジョン用の口座に入ってて。
【数字以外が見えねぇ】
【しかも大雑把な金額以外ぼかされてる絶妙さ加減】
【配信用のAIってすげぇよな、個人情報だけは徹底的にぼかすんだから】
【でもこの子たち、まだ何回目なのに……】
【まぁ最初っから規格外だったじゃん? ユニコーンとか】
【あー】
……そっか。
光宮さ――理央ちゃんが、これを。
「……………………理央ちゃん」
「柚希先輩、勝手にごめ――」
「ありがと」
頭を下げてこようとしてた彼女を、優しく押し戻す。
「きっと、僕だけだったら……何日ももやもや考えて悩んで、それでようやくだった」
そうだ。
僕は、高校生。
本当は学校に行かなきゃ行けなくって、でもお金がなくて行けなくって。
去年の分とか滞納してたのを、学校の好意でずっと待っててもらってて――その期限が、あと数日とかで。
「……ダンジョンだってそうだよ。 君がぐいぐい押してくれてなかったら、僕はこうして」
横で僕たちを見てくれていた、2人を見る。
「あやさんにひなたさん。 そして理央ちゃん。 みんなで冒険して……毎回なぜか危ない目に遭ったけど、それでも無事で、こうして必要だったお金を貯めることなんて、できなかったから」
【ユズちゃん……】
【イイハナシダナー】
【ぶわっ】
【さすがのユズちゃんでも思ってたのね……毎回事故るって……】
【草】
【お前! 今いい話だったろ!!】
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