110話 「魔族」の出現
「早くこちらへ。 ……しんがりはワタシが務めます。 走ってきた順に、早く!」
「……お願いしますっ!」
――あれに乗れば、安全圏へ避難できる。
それしか頭にない理央、続いてひなたもその「魔法陣」を踏み――姿が消える。
「さあ、アナタも!」
そもそもとして、助けに来た人間を疑う理由なんてものは、普通の人間の意識には存在しない。
さらに言えば、その青年はどこから見ても普通の、善良そうで優しそうな人間。
つけている装備だって、ごく普通の……中級者ダンジョンで前衛職のつけているものでしかない。
そう、「それ」は完璧に「普通」だった。
「……ひとつだけ、聞いても良いでしょうか」
「えっ……月岡さん?」
次々と現れるモンスターを、再びに高火力の魔法で吹き飛ばしながら急かす青年。
その近くまで来た優は――すぐ後ろを走っていたあやを腕で制しながら、足を、止めた。
「――あなたは、誰ですか?」
【えっ】
【月岡……?】
【どうした、早く行け】
【お前が1番ダメージ負ってるんだから】
コメント欄も、足を止めた月岡に投げかける疑問でいっぱい。
「今はそんなことは! ほら、この腕章を見てください!」
それでも足を止めて青年を――疑念のまなざしで見る優へ、その青年は腕にはめている腕章をぐいっとひっぱり。
「――『救助班』です! 疲労とダメージで――」
「……救助、班。 ですね?」
「だからそう言っています! だから!」
「――救『助』班の人なら、そんな動きづらい装備にはしていない」
しゃりん。
「そんな膝当てや籠手をつけていては、しゃがんだ体勢も難しいからね。 俺だって、休憩のときには外す。 そうじゃないと、細かいことができないから。 ましてや、急病人や重症患者の相手は」
レイピアを抜く音が、響く。
「いや、ワタシは」
「俺たちと同じダンジョン潜りなら、緊急時であってもその腕章を身に付けることは許されない。 戦闘しか知らない俺たちが、医療従事者と同じように見られては非常時に混乱になるし、指揮系統も混乱する。 超法規的措置が許されているから、悪用されるから。 治癒魔法の練度で、生死が分かれる可能性があるから」
【あっ】
【そうなの!?】
【確かにそうだな……】
ひゅんっ。
レイピアの先が、青年に突きつけられる。
「――そして、俺たちが頼るのは救『護』班だ。 救『助』班――たかが言い間違えと納得するには、少し怪しすぎる。 ましてや、本職なら絶対に間違えないはずだ。 言い直しもしなかったし、な」
「………………………………」
「それに――『どうして、たったひとりしか来なかった』。 今、2人が転送された余裕はあったんだ、あっちから何人でも来られるだろう」
「……月岡、さん……」
「……あやさんは俺の後ろに。 君と柚希さんが危険だ」
柚希を背負ったあやは、あわてて優の後ろへ。
こんな状況となっては男性恐怖症も発症しないのか、それとも……。
【言い間違え……確かに】
【いやいや、後ろからモンスター!】
【そんな場合じゃないだろ!?】
【腕章は本物じゃ?】
【……でも、確かに救護班の人って基本軽装備で、今みたいな服装は】
「何より、あんな魔法――俺のパーティーの魔法職でも。 一撃の強さはともかく、そんなにすぐに連射なんて不可能だ。 なら上級者の人か? それならどうして」
後ろで、モンスターたちが走っている音。
だが優は、それよりも脅威度の高い「敵」として、青年から目を逸らさない。
「どうして、『俺と同程度の装備だけ。 それも、剣を』? ――魔法職なら、杖でないとおかしい。 何もかもが普通のようでいて、でたらめだ。 ましてや、あんな威力は――」
「………………………………くくっ」
ひゅんっ。
青年が「手も上げないで」放った魔法が、後ろのモンスターたちを全て吹き飛ばす。
「……いやぁ、普通の人間ならこういう状況に追い込めば絶対に疑わないのに。 ああ、良いですねぇ。 あなた『も』、かなり気に入りましたよ」
青年は笑うと光り――身構えた優の前で、変身し。
「――改めてお目にかかる。 ワタシは人ならざる者。 そうですね……別の世界では、ワタシたちはこう呼ばれています。 ヒトならざる知性を持つ種族、魔の者――『魔族』と」
◇
【姿が……変わった!?】
【スーツ姿の……】
【角が、頭に……】
普通の前衛職だった姿は、一瞬で漆黒のスーツに身を包んだ執事のようなものに。
彼の頭には――明らかに人間ではない象徴として、2本の角。
さらにはコウモリのような翼に尻尾のようなものも――動いて、いた。
「こうして姿を現したのは、他でもありません。 ワタシの目的は、ただひとつ」
それは、すっと腕を上げ――るのに合わせて優が警戒し、あやがぎゅっと目を閉じたが――指先から再びに強力な魔力を放出。
大きな音とともに、部屋へ入ってきていたモンスターたち――「魔物たち」が消し飛ばされ、さらには。
【おい、廊下の入り口が】
【崩壊……!?】
【なぁ、ダンジョンの壁とかって】
【ああ、基本的には破壊できないオブジェクトだ】
【それができるって……】
【もしかして、1年前の魔王侵攻の……】
【っていうか、これ、閉じ込められた?】
【あっ】
【救助が来ても、通路からこっちには……!】
「――地球への、魔族――魔王軍の侵攻が目的か!」
「……ふむ。 いえ、ワタシはそういう徒労には興味かありませんので」
優の問いに、本当に軽い調子で返す魔族。
「なら!」
「そこの、可憐な君――シトラスの、ユズ」
彼の指先は、あやにおぶわれている柚希に。
「彼女です。 彼女以外に求めるものはありません」
「なっ!?」
「柚希さんを……なぜ!」
【ユズちゃん!?】
【なんでユズちゃんが!】
【ちょうちょだから!?】
【草】
【だからシリアスでちょうちょは止めろぉ!!】
【でもユズちゃん……起きて……?】
【そういえばこんな騒ぎなのにすやすやで草】
【草】
【あ、あやちゃんの肩によだれが!!】
【草】
【すぴすぴ寝てやがるこのロリっ子……】
【ああ、やっぱユズちゃんの配信だったねぇ……】
【ユズちゃんが居るだけでこれだもんなぁ……】
【今度こそピンチなのにどうして……】
【ユズちゃんだからだよ……】
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