109話 「救助」、到着
「――可憐な君――『ユズ』、シトラスのキミ。 2匹の騎士も、もうまもなく夢の世界。 ……ふふ、そろそろキミの『初めて』をいただきに行くよ。 オレ――いや。 ワタシの世界にまで香る、極上の味を……ね」
◇
「……はい……はい。 俺のところにも連絡が来た。 救護班を連れた救助隊がもうじき到着するそうだ」
「良かったぁー……」
「リストバンドでの転送が不確実と聞いて怖かったのですが、これでようやく……」
長くはない時間、しかし目の前にモンスターの群れが居るという恐怖は、眠っている柚希を除いて彼女たちの精神を疲弊させていた。
そんな中、優からもたらされた救助の報告。
あと、少し。
4人の緊張がほぐれる
「あ……チョコちゃん……どうしよ」
「救助の人たちが来るんなら……でも……」
「ひ、人が来たら解除してくれるのでは……」
【結局救助来るまで耐えやがったぞ、あのスライム】
【今回のMVPだな!】
【この部屋のモンスター丸ごと「じゅっ」てやっちゃったおまんじゅうちゃんとどっちが?】
【最強の矛と盾だ、2匹セットでMVPでいいよ】
【じゃあ2匹を従えるユズちゃんもだな!】
【……ユズちゃんは……うーん】
【ユズちゃんは……うん……】
【悩む……】
【草】
【さすがにかわいそうじゃね??】
【だって……】
【同接とかわいさでは間違いなくMVPだけど……】
【守られてる姫って言うか……ねぇ……?】
【かっこいい場面はあったけど、結局寝ちゃってるし……】
【テ、テイマーだから……】
「えへ……うみらす……」
【あ゜っ】
【草】
【え? なんだって?】
【ユズちゃん、さっきから寝言で変なことばっか言ってて草】
【かわいい】
【ユズちゃんの寝言集とか作れそう】
【もう作ってる、安心して】
【草】
【どう考えても今回のハプニングも相当やべーのに、再生回数自体は寝言集の方が回りそうで草】
「これ、ユズちゃんなんて言ってるの?」
「さぁ……柚希先輩、寝言は多いんですけど大体言葉になってない言葉で……」
【草】
【かわいくて草】
【ひなたちゃんも首をかしげる語彙】
「ゆずきちゃん……赤ちゃんみたいだね!」
「ひなたさん、それは……でも確かに……」
【ガタッ】
【お前、ロリコンからペドに……】
【でもさ 赤ちゃんなユズちゃん……育てたくない? 純粋に】
【育てたい】
【こんな娘がほしい……】
【ちょうちょ追いかける純粋な子……いっぱい食べさせて育てたい……】
【とりあえず理央様がお作りになったファンボへGOだぞ】
【さす理央】
救助が来る。
その情報で緩んだ空気は、張り詰めていた神経をぷつりと途切れさせるのには充分過ぎて。
「……っ」
「あっ、月岡さん!」
【月岡……】
【お前、よくがんばったよ……】
【よく見ると装備もぼろぼろだもんなぁ】
【レベルが高くてもあの連戦だ、やっぱ相当ダメージを……】
【腹の血……内臓じゃないって言ってても心配で……】
片膝を突いて肩で息をしているその姿は、視聴者の男性からも尊敬の目を注がれるもの。
「腹部の血」が全員の心配を集めており……それを平気そうな顔をし、マントで隠しているのがさらに「漢らしく」映っている。
「……ぴきぃ……」
「あ! チョコちゃん!」
「さすがに持ちませんでしたか……」
壁になっていたシルバースライム。
それは両手に収まる大きさの銀色の球状で粘性のある液体になっていて、壁になっていた場所からぽんとはじけ飛び、地面を転がって柚希たちの元へ。
【チョコちゃん】
【こんなにまるまるとしちゃって……】
【草】
【おい、20分近く守ってくれたんだぞ】
【そうだよなぁ、スライムって言ったら普通はこういう見た目だよなぁ……】
【廊下丸ごと覆って20分壁になるとか、普通は無理だよなぁ……】
「ううん、チョコちゃんがずっと耐えてくれてたおかげで、私たちもだいぶ元気になれたもん! っとと……ちゃんとこっちに飛んできてくれたのね」
「ほーら、寝ちゃってるおまんじゅうちゃんの背中。 ここ好きなんでしょ?」
ころころと転がってきたスライムを手に取ったひなたが、柚希の胸元で寝ているユニコーンの上に乗せてやる。
本当なら和む光景。
だが、シルバースライムが外れたということは――。
「グモォォォォ!!」
「やっぱり、来るよねぇ……」
「だ、大丈夫! ひなた、もう元気!」
部屋になだれ込んできたモンスターたち。
その足元には、非常に歩きにくそうにごつごつとした結晶が積み上がっていることから、シルバースライムへ体当たりをしたりして自爆した個体がかなり居たと想像される。
「……じゃっ、しっかり休んだからここから――!?」
「何だ!?」
そんなモンスターたちは――「理央たちの後方から放たれた魔法」で、10体近くが一瞬で吹き飛ぶ。
【ふぁっ!?】
【何が!?】
「――お待たせしました! 救助の者です!」
柚希を除く全員が一斉に振り返った先……そこには「ごく平均的な前衛職の装備を身に付けた」青年が居た。
そして、その横には――。
「先ほど上層階層にて魔法陣――転移陣を発見、ワタシが志願して飛び込んだところこちらに! みなさん、あの魔物たちが来る前に早く!」
【月岡とは違うタイプのイケメン】
【おのれイケメン!】
【お前ら、そんな場合じゃないだろ】
【でも良かった、確かに間一髪だったな】
【いくら上から降りてきてくれるって言ったって、上からの階段、多分もう片方の大部屋だろうから時間かかるしなぁ】
「……月岡さん!」
「うん、行こう!」
狭い通路で張り詰めていた神経だからこそ、1度ほどけたら再び元に戻るにはもう少し時間がかかる。
そのうえに、ちょうど通路からの大群を防いでくれていたシルバースライムが戻って来てしまい、なだれ込んでくる「モンスター」たちを目にしていた4人は、疑うこともなくその「青年」の言葉に従う。
「ゆずきちゃんは!?」
「私が運びます!」
「あやさん……お願いします!」
【今日は積極的なあやちゃん】
【理央様、疲れてるし】
【かと言って野郎に預けたくないし】
【月岡が抱きかかえようとしたら全力疾走して奪い取る理央様が目に浮かぶしな!】
【草】
【あの場面、何百万再生だぜ?】
【あれは百合告白がセットだからな!】
――誰も、何も疑うことなく「青年」と転移陣に向かって走り出した。
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