105話 通路でピンチ!
「くっ……数が多い!」
「こっちはまだいけますっ! そっちは!?」
「大丈夫! まだ眠くならない! あやさん!」
「私も、まだ!」
通路の両側からモンスターたちが襲ってくる状況。
僕たちはそれぞれ、光宮さんと月岡さん、あやさんとひなたさんに僕って別れて戦って、なんとかしのいでいる。
何分……ううん、10分、それ以上経ったのかなんて確かめる暇もなく。
「どっちがだけでも抜かれたらアウト……おまんじゅう!」
「きゅい!」
目の前でひなたさんが――大剣を横に構えて、僕たちのお腹のあたりを護るようにしてくれている。
――年下の女の子に、こうして守られてるんだ。
僕の顔の横をひゅんっと、あやさんの魔法が飛んでいく。
……おまんじゅうの攻撃には、弱点がある。
防御力が高い相手には、攻撃が通りにくいってこと。
普段は1撃で倒せるモンスターが、2回3回必要なんだ。
これは多分、僕が継戦能力を意識して弱めに攻撃してってお願いしてるから。
それは、今みたいに強いモンスターがいるときになって、初めて知った知識。
でも数を抑えるには、こうするしかない。
なによりも、寝ちゃったらアウトだから。
「ガァァ――――!?」
彼女の魔法が、ぼんっとアルマジロみたいなモンスターに直撃。
「柚希さん!」
おまんじゅうと僕の戦い方を理解してくれてる彼女は、装甲の厚い敵を積極的に攻撃してくれている。
……魔法は、撃つたびに魔力を練る必要があるらしい。
それは、とても集中力が必要なんだって。
なのに、僕のことを考えてくれている。
なら。
僕は、狙った「14匹の」モンスターたちの胴体を意識して……きゅっと、抱く。
「――きゅっきゅっきゅっきゅっきゅっ」
ぴっぴっぴっぴっ、と細かく飛んでいくレーザーみたいな魔法。
「っ!」
撃つたびに軽い反動が来るから、僕はおまんじゅうを支えて攻撃がズレないようにするので精いっぱいだ。
【すげぇ……】
【あやちゃんももちろんすごいけどさ……】
【ああ……】
【さっきまで、ときどき攻撃通らない敵居たけど】
【今は無視するか、あやちゃんがダメージ負わせてから】
【全部一撃とは……】
【これ……中級者ダンジョンレベルのモンスターでしょお……?】
【それにえっと……連射速度、1秒切ってるんですけど……】
【このユニコーン、改めてやべぇな】
【けど、こんなに攻撃してユズちゃんの魔力……】
【あやちゃんが十数発、ユズちゃんは100以上……】
【165発だぞ】
【ひぇっ……】
【大丈夫か心配だよなぁ】
【いや、それを全部数えてたお前が心配で】
【ああ……やばいな】
【ひでぇ!?】
【草】
【てことはユズちゃん方面の敵は最低170匹、で、同じくらいの数来てるから……】
【倒したのだけで、合わせて……340匹……】
【おかしいだろ!? モンハウって、多くても50匹だぞ!?】
【100匹とかの地獄も稀にある……あるんだけど……】
【しかもまだまだ収まる気配が……】
「……ひなたちゃん! どう!?」
「だめ! まだ電波が不安定って出てる!」
しゅうううって細い煙が出てるおまんじゅうの角を眺めながら、僕たちはまだリストバンドを安全に使えないらしいっていうピンチを実感。
……なんでいつも、僕たちは。
「……ゆずきちゃんっ!」
そんな僕を、重いはずだしいつ衝撃が来るか分からなくって不安なはずのひなたちゃんが、見上げて来てて。
「冒険! ――――――楽しいよねっ!」
「――――――っ、うんっ!」
【てぇてぇ】
【尊い……】
【ロリっ子同士の励まし合いがじんと来る】
【この前泣いてたひなたちゃんが、今度はユズちゃんに……】
【あのとき抱きしめられながら言われてた言葉を……!】
【ここには百合の塔を建設しましたわ】
【ユズ×ひな、ひな×ユズは綺麗に別れていますけれど、それでも幼いのに正反対の性格な少女たちが支えて支えられての友情からやがて育まれる淡い恋心からの濃厚な百合への成長に私たち一同は大変期待しているのですわ!】
【解釈違いはしょせん私たちの解釈の産物、カプが確定しましたら私たちは合流して一丸となって推しますわ!】
【ひぇっ】
【お嬢様! 怪文書はお止めくだされ!】
【こわいよー】
【近づくな、お前もお嬢様にさせられるぞ】
【俺が……お嬢様に……?】
【きゅんっ】
【おい、気を確かにしろ!?】
【草】
【お前ら……】
【応援くらいしかできないんだから、俺たちは楽しもうって心意気だよ】
【本音は?】
【ちらちらユズちゃんのこと振り返りながらも月岡の野郎と一緒に戦ってる汗だくで息が上がってて鎧の中のおっぱいもかすかに揺れてるのが確認できる理央様が素敵】
【お前……】
【理央様の信奉者だ! 追放しろ!】
【ムダだよ 俺たちは理央ユズのあるところに出没するんだ】
【この配信……なんで変態ばっかなの?】
【ユニコーンの配信だからだよ?】
ちょっと不安になった気持ちも、ひなたさんに――あのときの言葉で励まし返してもらって、ちょっと出かけてた涙が引いた。
「………………………………」
けども。
反対側は、レベルの高い月岡さんが繰り出す高速の剣戟に、中級者でもやっていけるっていう理央ちゃんの体術の合わせ技で。
こっち側はあやさんの、数秒に1回の魔法攻撃、それに合わせておまんじゅうでの掃射で。
現状は、まだモンスターの行列に追いついてる。
現状は。
……でも。
月岡さんも、あのかっこいい顔が険しくなって、よく見ると腕とかも怪我してて――ズボンも赤くなっちゃってて「お腹切られたのか」って心配されてるけど、平気そうだから多分まだ大丈夫。
あのことは、乱戦になったことで今は無視して大丈夫そう……っていうか、そんな場合じゃない。
僕たちが息切れしたとき用に構えてもらってるひなたさんも、重い剣を胸の前で構えるだけで体力消費してるはず。
魔法をがんがんと使って疲れてきてるのか、頻繁に頭を抑えるようになってきたあやさん。
……このままじゃ、じり貧に。
でも、こういうときのためのリストバンドは、使うのにリスクがあるとかで、まだ使えない。
……せめて。
せめて、どっちか側だけでも突破して――通路の先の部屋にでも出ちゃって、攻撃の方向が1方向になれば。
「ぴぎっ」
「……チョコ」
ぴょんとおまんじゅうの上で跳びはねて――「そのイメージ」を伝えて来るチョコ。
「……そんなことが……ううん、今は……」
――――――するしか、ない。
最終手段は残ってる。
けど――その前に、できることがあるんだったらやらなきゃ……ね。
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