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【書籍化】商才令嬢はその追放を喜んでお受けいたします ~王国一の商会長は新天地を楽しむので、破滅はどうぞご勝手に~  作者: 水空 葵


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64. 愚か者の理由

 レオン様の前に立った時、化け物の大きな爪が見たこともない速さで迫ってきているのが見えた。

 すぐ目の前まで来ているから、無理かもしれないわ……。


 直感でそう思ってしまった。


「どう、して……?」

「ルシアナ! しっかりしろ!」


 頭がぼんやりしていて、何が起こったのかよくわからない。

 でも、レオン様が必死になって私のことを呼ぶ声は聞こえる。


 水飛沫のように散った赤いものって、もしかして……。


 でも、レオン様は無事だ。

 良かったわ……。


「お前、聖女と言っていたな? ルシアナを治して証明してみろ! 話はそれからだ」

「レオン様……ごめんなさい……」

「今は動くな。治癒魔法が間に合わなくなる」


 多分、私の怪我はひどいもの。

 それなのに、レオン様は取り乱したりしないで治癒の魔道具を使ってくれている。


 意識が遠のいていたけれど、なんとか留まれているのもそのお陰かしら?


「この子、ルシアナというのね。ごめんなさい。今、治すわ」


 ……なんて、ぼんやりする頭で考えていたら、見たことのない治癒魔法の魔力が流れ込んできた。

 魔力を感じたのは一瞬だけだったけれど、痛みは綺麗に無くなった。

 いえ、違うわ。感覚を消されたのね……。


 身体にも力が入れられるようになったから起き上がって見てみると、傷なんてどこにも見当たらなかった。

 でも、この血溜まりを見ると、かなり酷い怪我だったと分かる。


「私、よく生きてましたね……」

「無理はしないでくれ。ルシアナに死なれたら、俺は生きていけない」

「申し訳ないですわ。身体が勝手に動いてしまいましたの」

「少しは俺のことを信じてほしい」


 レオン様、怒っているのね……。

 私の無理な行動のせいだから、受け入れるしかないわ。


「分かりましたわ」

「嫌な気分にはならなかったが、肝は冷えたよ」


 私のことを抱きしめながら、そんなことを口にするレオン様。

 少し力が強いけれど、文句を言うことなんて出来なかった。


 その間ずっと化け物は何もしてこなかった。


 

「初代聖女様。どういうつもりか説明してもらおうか?」


 冷たい口調で問いかけるレオン様。

 その言葉を聞いた化け物は、こんなことを口にした。


「貴方は、私と民を殺そうとした王の血を引いているのよ。だから悪しき血を断とうとしたの。

 それなのに、ルシアナが邪魔をするから……止めようと思ったのに、間に合わなかったのよ

 ルシアナ、貴女はどうして、その男を守ろうとしたの?

 その男は贅沢のために民を殺して、止めようとした私にも変な魔薬を飲ませて、変わり果てた姿にしてくれた愚か者の子孫なのよ!」


 化け物──初代聖女様が言いたいことは分かった気がする。

 でも、その時の国王とレオン様は全くの別人なのよね……。


 それに。


「レオン様は民を苦しめる王を倒すために協力してくれた方ですわ。民を守ろうとする人のどこが愚か者なのですか?

 あまり言いたくはありませんが、先入観で無関係な人を殺めようとする貴女も、愚か者に思えてしまいます」


 やってることは、愚かな王とあまり変わらないのよね。

 相手はご先祖様かもしれないけれど、私は怒っている。


 下らない理由でレオン様を殺されそうになって、危うく私も死にそうになった。

 怒らない方が無理な話よ。


「私が…‥愚か者?」

「血を継いでいても、無関係な別人ですわ」

「ルシアナ、どうしてその男を庇うの……?」

「好きだから……。こんな理由では満足して頂けませんか?」


 レオン様の前で言うのは恥ずかしいけれど、この気持ちは知られているから気にしないで伝えた。

 細かく理由を聞かれたら、困ってしまうけれど。


「その男が愚かな王の血を引いていても?」

「それを言ったら、私だって引いていますわ。でも、私は民を救うために尽力しましたの」

「……そう。私も、馬鹿だったのね」


 私の言葉に納得してくれたのかしら?

 初代聖女様からは哀しげな雰囲気が漂っている。


 そんな時に、今まで無言だったレオン様が口を開いた。


「人間は必ず間違いを犯す。そんな時に正しく導いてくれる人がいなかったら、どんなに聡明な人でも間違えたままだ。

 愚者は、正そうとする意見を聞き入れないから愚者なのだろう」

「貴方の言う通りだわ。確かにあの人は意見を聞き入れなかったもの。

 また、この感覚……。自我が奪われてしまうわ……」


 レオン様の言葉には思い当たることがいくつかあった。

 グレールの国王とマドネス王子。


 あの二人は、最後まで他人の意見を聞き入れなかった。

 リーシャさんも同じね。


「レオンさん、どうかルシアナさんを幸せにして……。

 もう一つ、お願いしても良いかしら?」

「ああ。俺に出来ることなら」

「二人にお願いするわ。どうか、私を殺して……。

 このままだと、私の意思で動けなくなってしまうわ。そうなったら、貴女達を殺してしまう……」


 魔薬の効果で精神を自分の意思で操れなくなるのね……。

 でも、こんな大きな化け物、どうやって……?


「分かった。ルシアナ、やるぞ。相手が無抵抗なら難しくない」

「は、はい!」


 私が戸惑っていると、レオン様は先に動いていた。

 攻撃魔法を次々と撃ち込んでいる。


 でも、化け物──初代聖女様は抵抗しようとしない。

 痛みはあるみたいで声を漏らしているけれど、一切動いていない。


「薬が切れたら、攻撃は止める」

「分かりましたわ」


 レオン様の狙いが分かったから、私も攻撃魔法を放った。


 

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