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5. 処刑と変わらない

 ガタガタと激しく揺れる馬車で移動すること半日。


 何度か魔物の襲撃を受けたけれど、無事に国境の辺りまで進むことが出来ていた。

 でも、乗り心地が悪すぎてお尻が痛くなってしまった。


 座面に厚いクッションを敷いていても振動は抑えきれないから、馬車の移動は快適ではないのよね……。


 でも、国外追放される身ではあっても護衛はついているから、襲われても安心して過ごすことが出来ている。


「よし、ここから先は隣国だ。降りろ」


 けれども、周囲に山と森しか見えない場所で、馬車の扉が開けられた。

 本来は街がある場所まで送られるはずなのだけど、王子が「山の中でいいから」と命令していたから、こうなってしまったのね……。


 国外追放とは名ばかりで、中身は処刑と変わらない。

 こんな場所で女性が一人で放り出されたら、魔物の恰好の餌になってしまうもの。


 きっと、あの人でなしの王子は私を殺したかったのね。

 それともリーシャの差し金かしら?


 どちらにしても、二人の思い通りになるつもりは無いけれど……。


「降りろ。聞こえないのか?」

「こんな場所で女性を一人にするなんて、人の心が無いのですか?」

「命令を反故にすることは出来ない。俺達は他人の命を優先できるほどの善人ではない」


 私もそうだけれど、誰もが自分の命を惜しいと思うのは当たり前のこと。

 だから、騎士団の方に隣国の街まで送り届けるように要求しようとは思えなかった。


 処刑に怯える彼らを恨むことはしないけれど、この命令を下した王子が不幸に遭えば良いのに、なんて思ってしまった。


「貴女は魔法にも長けているはずだ。一人でも無事に街に辿り着けるのではないのか?」

「何故そのことを知っているのですか?」


 確かに魔法は使えるけれど、家格が高い人の嫉妬を買わないように、いつも全力は出さないでいる。

 だから、私の学院での評価は貴族の平均よりも少し優秀な伯爵令嬢になっているはず。


 それなのに、この騎士さんはこんなことを口にした。


「貴女の纏っている気配は、騎士団長によく似ている。一目見れば強者だと分かる」

「そんなに分かりやすいのですか?」

「実力のある者なら、雰囲気で察することは出来る。私はこれでも副団長だ。

 力はあるが、貴女と戦っても勝てる自信がない」


 副団長様が何故私の流刑に同行しているのかは謎だけれど、それよりも私が騎士団長のようなあり得ないくらい強い人と同格に見られていることに驚いた。


 私、そんなに強くないのだけど!?


 騎士団長と言えば、竜と戦っても無傷で帰還するような化け物じみたお方だ。

 そんな人と並ぶ強さだなんてあり得ないわ。私には竜なんて倒せないもの。

 

「流石にそのような力はありませんわ」

「なるほど、これから才能が芽生えるということか。貴女に神の祝福があるように祈っている。どうかご無事で」


 どうして私は恭しく頭を下げられているのかしら?


 今の状況に戸惑っていると、他の騎士さんからこんな言葉が飛び出してきた。


「副団長、早く引き返さないと街まで行ったと思われてしまいます!」

「分かっている。

 ルシアナ様、我々には貴女が我が国から離れることを見届ける責務があります。どうかここから離れて頂けないでしょうか?」

「分かりましたわ」


 私のせいで騎士団の方々が処刑されたら後味が悪いから、素直に街道を歩いていくことにした。

 遠くから魔物の遠吠えが聞こえてきて、少しだけ悪寒がした。


 そんな時。


「そこのお嬢さん、一人で何しているんだ!? 死ぬぞ!」


 よく知った紋章が描かれている馬車が近くに止まって、そんな声がかけられた。


「馬車から捨てられてしまったの。助けてもらえないかしら?」


 グレール王国からアルバラン帝国に向かうこの馬車は、アルカンシェル商会のもの。

 馬車の外に護衛の姿は無いけれど、その辺にたくさんいる魔物の襲撃を凌げる魔道具を装備しているから、襲撃を受けても簡単に撃退出来るのよね。


 この御者さんは私が商会長だということを知らない様子。

 商会内でも私の正体は隠されているから、当然なのだけど……。


「よし、分かった。どこまで行きたい?」


 私のお願いは快く受け入れてもらえた。


「セントリアまでお願いしても良いかしら?」

「奇遇だな。俺達もセントリアに向かっている。乗ってくれ」

「ありがとう!」


 お礼を言って、馬車に乗る私。

 自分の商会の人達に助けられるだなんて、不思議な感じね……。

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