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2. 追放される前に

「国外追放が嫌なら、そこで地面に頭を付けて謝れ! そうしたら許してやる!」


 私が(みじ)めな姿を見せることを想像しているのか、嫌な笑みを浮かべながら口にする殿下。

 悪寒を感じながらも、私は心からの笑顔を浮かべて言葉を返す。


「私は国外追放を望みますので、決して頭を下げることはありませんわ」

「なっ……!? 国外追放だぞ! 普通なら泣いて謝ってでも拒絶するだろ!」


 私の態度が気に入らなかったのか、そんな喚き声が聞こえてくる。

 こんな汚い声を聴く羽目になると分かっていたら、耳栓を用意していたのに……。


「家族からも婚約者からも見放されるのよ? そんな惨めな人生が嫌なら、ここで恥を(さら)した方が幸せだと思うの」


 嘲笑交じりのこの声は、リーシャの口から飛び出したもの。

 彼女も私の惨めな姿を見たいのかしら? 


 ……本当に悪趣味な人達ね。


 聖女候補になるためには、身体と心の傷を癒す力を持っている必要がある。

 だから腕の骨折くらい気にならないはずなのだけど……。


 そんな疑問が浮かんできた。


 でも、躊躇いもなく腕を動かしているから、癒しの力──治癒魔法で治したのかもしれないわね。


「これはお返しよ」


 そう確信したのは、こんな言葉と共に包帯に巻かれた腕が飛んできたから。


 弱々しい攻撃だったから、そのまま肩で受け止めたのだけど……。

 バキッという音が聞こえてきた。


 でも、痛みは無い。


「うぎゅっ……」


 奇妙な声に続けて手をおさえるリーシャ。

 私は何もしていないのだから、このことは咎められないはず……。


「リーシャ嬢は馬鹿なのか? 自分で指を折ったぞ……」

「弱々しいパンチですわね」


 周囲の方々も私と同じ意見だった。


「マドぉ……痛いよぉ……」

「一度では飽き足らず、二度もリーシャを傷付けるとは許せん! 一日は猶予を渡すつもりだったが気が変わった。今すぐに国外追放に処してやる!」


 けれども、この王子の考えは私とは真逆だった。


 今の自爆が見えていないなんて、その顔についている目は節穴のようね……。

 周囲の方々も呆れのあまり開いた口が塞がらなくなっている。


「お前ら、今すぐにルシアナを隣国に運べ!」

「「はっ」」


 周囲の意見などお構いなしといった様子で、側に控えていた親衛隊に命令する殿下。

 瞬く間に私は周りを囲まれてしまった。


 でも、ここで捕まったら私の家族や婚約者のレオン様に別れの挨拶が出来なくなってしまう。

 それに、貴族なら騎士団から一日くらい逃れても鞭で多くて三回打たれるだけで済む。


 だから私はこの場から逃げ出すことに決めた。


 まずはポーチから黒い球を取り出して、目を瞑りながら前と後ろの床に叩きつける。


 これは私が作った魔道具で、本来は魔物の目を眩ませるために使うためのもの。

 でも、こういう包囲された状況でも効果があるから、護身用に五つほど持ち歩いている。


「目が……」

「囲め! 逃がすな!」


 でも、周囲の逃げ道は塞がれてしまった。

 残る逃げ道は真上だけ。


 幸いにもカフェテリアの天井は高くなっているから、風魔法を使って宙を舞えば簡単に逃げ出すことが出来た。




 でも、すぐに学院を離れることは出来なかった。

 レオン様に別れの挨拶をしたかったから。


「ルシアナ、こっちだ!」


 でも、私が探すよりも先にブロンドの髪に蒼い瞳の長身の殿方――レオン様が声をかけてくれた。

 彼はあの魔道具の影響を受けなかったみたいで、私の方に手を振ってくれている。


「逃げるなら手を貸すよ。でも、一日が限界だと思う」

「それだけでも十分ですわ」


 レオン様の元に辿り着くと、そんな言葉をかけられた。

 彼はクライアス侯爵家を継ぐ身なのに、私の逃亡に手を貸してくれるみたい。


 侯爵家の地位は罪人の逃亡に手を貸したくらいでは揺らがないけれども、罰として一回だけ鞭で打たれる。

 殿方でも涙を滲ませるほど痛いという噂だから、レオン様にはそんな目に遭ってほしくないのだけど……瞳の奥に見える意思の光はすごく強いものだった。


 だから、断るなんて選択は出来ない。


「私の屋敷までお願いできますか?」

「ああ、もちろん。失礼するよ」


 彼からの問いかけに頷くと、あっという間に抱き上げられてしまった。

 細身で長身のレオン様だけれど、彼の足は私を抱いていても速い。


 たとえ私が全力で走っても、すごく重い鎧を身に纏った状態でも追いつけないのよね……。


 そんな彼のお陰で、親衛隊の人たちからは簡単に逃げることが出来た。


「め、目が痛い……! 誰か助けてくれ! 医者を呼んでくれ!」


 王子殿下が喚く声が聞こえてきたけれど、当然の報いよね。


 ……私のせい?

 そんなことは知りませんっ!

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