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19. side 悪評を広める聖女候補

 ユーラス侯爵家でパーティーが開かれている頃のこと、アストライア家の別荘で密談が交わされていた。


 防音の魔道具によって声が漏れないようになっている応接間には、アストライア伯爵とクライアス侯爵が重たい面持ちで向かい合っている。

 密談の内容は、王家の横暴から逃れる方法について。


 この場は相談のために設けられたものではなく、準備していたことを実行に移すための最終確認のようなものだ。


「流石に民の声も無視できない状況になってきました。

 領民に負担がかからないようにしていましたが、私達領主が苦しんでいることを知られたようです」


 クライアス侯爵の漏らした言葉に、相槌を打つ伯爵。

 そして、こんな言葉を返した。


此方(こちら)の状況も良くはありません。アルカンシェル商会の援助で成り立っているものの、王家は援助にも税をかけようとしている様子。

 手筈通り、王国から独立するべきでしょう」

「貴殿からそのような言葉が飛び出すとは……事態は深刻ですな。

 では、手筈通りに私兵を防衛に当たらせることにしましょう」


 この二人は、事前に王国から独立して新たな国を建てるための計画を進めていた。

 常に最悪の事態を想定して行動するとういう心がけが無かったら、ここまで素早い行動は出来なかっただろう。


 ちなみに、アストライア領とクライアス領を合わせた面積は、グレール王国の面積の三割ほどに当たる。

 国土は小ぶりになるが、国として十分に成り立つ大きさだ。


「準備が出来たら、通信の魔道具で知らせます」

「承知しました。必要とあらば、攻撃用の魔道具も用意しますが……」

「その必要はありません。王家に我々の土地を攻める力はありませんから。

 では、十日後。アスクライ公国の建国の日にお会いしましょう」


 そんな会話を最後に、部屋を後にする侯爵。

 アストライア伯爵や使用人に見送られて帰路についた彼は、民を守るための次なる行動に移ろうとしていた。





 同じ頃、マドネス王子一行はアルバラン帝国入りを果たしていた。

 今回の旅には、珍しくリーシャの姿もあっった。


 リーシャの目的は、サファイアの原石を見ること以外にもう一つある。


(ルシアナの惨めな姿を見るつもりだったのに、こんなに疲れるなんて聞いてないわよ!?)


 そんなことを考えている彼女は、直後には弱音を上げていた。

 王宮で聖女候補としてちやほやされているせいで体力が殆ど無いのだから、当然のこと。


「マドぉ……まだ着かないのぉ?」

「疲れてしまったのかい? ここに横になっても良いよ」


 肩に寄りかかられたマドネス王子は、そんな言葉と共に手で自身の太腿を示していた。


「ありがとう。愛してるわぁ」

「俺も愛しているよ」


 そんな会話に、同乗している侍女があからさまに嫌そうな表情を浮かべる。

 けれども、自分たちの世界に入り込んでしまっているリーシャとマドネスはそのことに気が付かなかった。


 同行している使用人達が不安に苛まれる中、半日後には無事に帝都入りを果たした。


「疲れているなら、早く寝ると良い。おやすみ」

「おやすみなさぃ……」


 夕食を済ませた後、帝都で一番の高級旅館のベッドに入るリーシャ。

 この旅館の経営にルシアナが関わっていることなんて欠片も知らない彼女は、枕を抱きしめたまま眠りに落ちていた。


「よし、寝たな。これで触り放題だ」


 ……邪なことを考えている(王子)が真横にいるのにも関わらず。

 


 ☆



 翌日。

 マドネス王子とリーシャは帝都の迎賓館で手厚い歓迎を受けていた。


 異国の王族が訪れれば、手厚くもてなすことはどの国でも常識になっている。この大陸で一番力を持っている帝国も例外ではない。

 だから、マドネスとリーシャがずっと寄り添い合っていても、咎められることは無い。


 王国と違って、帝国では婚前交渉も認められているから、大目に見られている。

 けれども、皇帝の前でもイチャイチャしているものだから、印象は良くないものになっていた。


 だから、リーシャがこんなことを参加者に話しても、相手にされなかった。


「ルシアナって女知っているかしら? あの女はね、聖女候補で癒しの力を持っていて可愛くてみんなに愛されている私が妬ましかったみたいなの。嫉妬心からドレスを切り裂いたり、三階の窓から投げ飛ばされたりしたの。酷いわよね?」

「そうですか。それは大変でしたね」


 どの参加者に甘い声で話しかけても、返ってくるのは乾いた返事だけ。

 そんな状況に、リーシャは苛立ちを募らせていた。


(あのリーシャという女は何様のつもりだ? ルシアナ様がそんな愚行をするわけがない。貶めるのも大概にしてくれ)


 奇遇にも、この歓迎会の参加者のほとんどが苛立っているのだけれど、それはまた別のお話。

 頭のなかにお花が咲き誇っているリーシャには、これっぽちも関心の無いことだった。

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