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14. side どこまでも最低な王族

 アストライア伯爵夫人がグレール王国を出た時から遡ること半日。


 王城を離れる準備をしていたアルカンシェル商会の者達は、国王のこんな言葉を耳に挟んでいた。


「民の不満が高まっている、か。そろそろ誰かしら公開処刑せねばならん」


 公開処刑は貴族や平民の鬱憤を晴らす方法として、古くから用いられている手法だった。

 恨みを買っている重罪人を見せしめに処刑する事で、権威を示すことにもなる。


 人気のある人物や家族を処刑してしまえば、反発を買うことになるのだが……。


「父上。聖女候補のリーシャを虐めていたルシアナが適任だと思います。

 彼女が無理なら、家族の誰かしらにしましょう。聖女の力を欲するものは多いはずですから、民の鬱憤も晴れることでしょう」

「そのルシアナはお前が国外追放に処したせいで、処刑はできない。代わりに誰を処刑するんだ?」


 ……アストライア家の者達が民から好かれていることを知らない脳内お花畑達(国王と王太子)は、処刑する方向で話を進めていた。



 ちなみに、アストライア家はアルカンシェル商会が成長するよりも前から、富を平民に還元していた。

 読み書き計算を教える町教室を開き、誰もが無料で診療を受けられる町医院を開き、税を出来るだけ軽くしていた。


 魔道具を活用した鉱山経営が上手くいっていたからこそ出来ていたことだが、人柄も好かれるために一役買っている。

 多くの王侯貴族が平民を見下している中、対等に接してくれる。


 困っていたら嫌な顔せずに手を差し伸べてくれる。

 そして何よりも、贅沢を好まない。


 

 そんなアストライア家に親近感を覚る平民は少なくないのだ。

 

「アストライア夫人で良いと思います。良い噂を聞かないから、リーシャを毒殺しようとした罪を着せれば良いので、これ以上の適任はありません」

「そうか。では、まずは噂を流すところから始めよう」


 けれども、特に何も考えていない国王は提案を受け入れていた。


「ありがとうございます。リーシャ、これで満足かい?」

「やっぱりルシアナを処刑して欲しいですわ……」

「連れ戻そうとして帝国で動いたら、戦争の準備と勘違いされてしまうんだ。だから、連れ戻せない」

「無理なのね……。仕方ないから、ルシアナの両親を処刑して欲しいわ」

「そうするよ」


 そんな言葉を交わすマドネス王子とリーシャ。

 これには普段は感情を表情に出さない使用人達も驚いた様子で……。


「すぐにアストライア家に行きましょう」

「はい。ルシアナ様のご家族を守らねば」


 ……事態を察したアルカンシェル商会の者達は、すぐにこの場を後にしてアストライア家に向かった。




 あれから二十分程が過ぎた頃。


 アストライア邸に来たアルカンシェル商会の者達は屋敷の中に招き入れられた。

 相手が他の貴族なら、平民というだけで門の前で追い返されていただろう。


 しかし、悪意の無い者だったら平民でも話を出来るアストライア家なら、中に入れてもらえる。

 悪意を見分けられる魔道具があるのか、それとも別の何かがあるのかは秘密になっているが、今は関係なかった。


「急ぎの話のようですので、本題をお願いします」

「はい。こちらをお聞きください」


 テーブルの上にとある魔道具が置かれた直後のこと、ここには居ないはずの王族の声が聞こえてきた。

 これはアルカンシェル商会の者なら全員が持っている蓄音の魔道具で、蓄えていた音を何度か聞く事が出来るというものだ。


「なるほど、状況は理解しました。すぐに動きたいので、一度下がっていただけますか?」

「分かりました。何かありましたら支部までご連絡ください」

「承知しました」


 そんなやり取りの後、すっかり物が少なくなったアストライア邸の中は騒がしくなった。


「一時間後に全員でここを出る予定でしたが、早めた方が良さそうですね。急がせましょう」


 そうしてアストライア夫妻も作業を手伝い、三十分後には隠し通路の出口から馬車で脱出することが出来た。

 ルシアナの父は、クライアス家に報告のために寄り道することになっていたから、各々の目的の地に向かっていった。





 それから一時間ほどが過ぎた時、この場所に騎士団が押しかけた。


「国家反逆罪の疑いでアストライア夫妻を拘束する!」


 そんな言葉と共に玄関を開け放つ騎士。

 しかし、この場所からは人の気配が綺麗になくなっていた。


「何がどうなっている……」


 誰かの呟きが、虚空に消えていった。

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