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11. 一番の楽しみ

 一時間かけて別荘の中の埃をかき集めた私達は、本来は応接室に使う部屋でお話をすることになった。


「これで落ち着いて話が出来る」

「こんなことをさせてしまって、本当に申し訳ないですわ」

「いや、なんか楽しかったから気にしなくていい。またさせて欲しいくらいだ」


 ええ、確かにレオン様は楽しんでいる様子でしたよ?

 でも、彼に掃除をさせていることが発覚したら、クライアス侯爵家からお叱りを頂いてしまう。


 だから遠慮したいのだけど、彼のお願い事は断りきれなかった。


「私が怒られてしまうので、遠慮してほしいですわ……」

「怒られないように、前もって父上に報告しておくよ」

「そういう問題ではないのですけど……」


 曖昧に返すことしか出来ない私。

 彼さえ良ければ大きな問題は無いのだけど、外聞はあまり良くない状況なのよね……。


「使用人の苦労を知っていないと、上に立つことは出来ても恨まれるような人になってしまう。どこかの国の王族のように。 俺はそんな人間になりたくないから、こうして使用人の苦労も学ぼうとしているんだ。父上も同じ考えだ」


 彼の言っていることは正しい。

 私だって、使用人の手が足りないときは洗濯や掃除に料理を手伝っていたこともある。


 上に立つ者は、下に立つ者の苦労を知っていなければならない。お父様のそんな考えがあったから、手伝っていても何も言われなかったのだけど……。


 レオン様の家も似たような考えを持っているのね。

 このことを知って、ようやくレオン様の行動の意味が分かった気がした。




   ☆




 あれから少しして、私は商会の本部に戻った。

 新しい馬車を早めに完成させたい気持ちもあるけれど、今回の一番の目的はレオン様に私が商会長になっていると伝えること。


「もう察しているかもしれませんけど……私、この商会を営んでいますの」

「この商会って、アルカンシェル商会のことだよね? 何かの冗談か?」


 彼は冗談のような口調で問い返してきた。

 婚約者が力のある商会の長だなんて、簡単には受け入れられないわよね……。


「冗談の方が良かったですか?」

「いや、現実のものと思えないだけだ。そうか、ルシアナがアルカンシェルの長か。

 ということは、グレールからは撤退するのか?」

「ええ。長が立ち入ることが出来なければ商談も円滑に進みませんから」


 重税から逃げるためという理由もあるけれど、一番の理由は私が支部に足を運べなくなってしまうと支障が出てしまうから。

 代役は立てられても、信頼を得るためには私が直接出向いた方が良い。


 この方針はアルカンシェル商会になる前、お父様が営んでいる頃から変えていない。

 でも、そのお陰で帝国内で信頼を得ることが出来た。


「なるほど、それは面白いことになりそうだな」

「面白いことですか?」

「ルシアナを裁いた馬鹿王子に限らず、王族が愛用している商会はアルカンシェルのはずだ。

 その商会から取引を打ち切られたら、王家は混乱に陥るのではないか?」


 笑みを浮かべながら、そんなことを口にするレオン様。

 そんなこと、全く考えていなかったわ……。 

 

 お世話になっているご貴族様は重税のせいで物を買えない状況だったから、私達が撤退しても大きな問題にはならない。

 王族は影響が出るけれど、気に掛けることはしなかったのよね……。


「……まさか、王家への仕返しとは考えていなかったのか?」

「ええ、そのまさかですわ。

 怒りを感じていたから、迷惑をかけることになっても気にならなかったのです」

「怒ってはいるのだな。安心したよ」

「安心ですか?」


 他人に怒りを感じていると知られてしまったら、仲の良い婚約者でも引かれてしまうと思っていたから、思わず問い返してしまう。

 でも、彼は私に惹かれたみたいで、こんな言葉が返ってきた。


「ああ。怒らない人というのは、不満を溜め込み過ぎて壊れてしまうことがある。だから心配していた」

「私だって怒るときは怒りますわ。でも、恨みを晴らそうとは考えていませんでした」

「商会経営の方が楽しいのか」

「経営もですけど、新しい魔道具を作ることが一番楽しいですわ」


 私が作った魔道具を使っている人の笑顔を見ることなのだけど、使っている本人に言うのは恥ずかしくて、言葉には出来なかった。

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