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ハッピーエンドで終わらせて  作者: 勿夏七


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11/28

10

 浮遊感に襲われ目を覚ました。

 そこは真っ暗で、何もない空間。

 私はその真っ暗な世界に1人寝そべっていた。


 また誰かに攫われたのだろうかと手足の拘束を確認するが、特に何もなし。

 首を傾げ、その場から立ち上がると、景色は宿へと変わり、目の前に少年の姿が映る。


 少年は宿から出て街から出て、1人で森に入っていく。

 まるで私と旅していたのがなかったことのように。


「シロ、待って!」

 

 どんどんと1人で進んでいくシロを呼ぶが、反応はない。

 進むにつれて胸騒ぎがした。

 兄の小説だとこの後どうなっただろうか。シロを追いながら記憶を辿る。

 かなり森の奥へと進んでから、やっと思い出す。


「シロ、それ以上はダメ!」


 手を伸ばし、シロの手を取ろうとすると、体をすり抜けてしまう。

 何度やっても触ることは許されず。何度も声をかけるが反応はない。


 夢なら早く覚めてくれ。そう思った矢先、目の前は暗くなり、地面に叩きつけられる。

 痛みに耐えながら体を起こすと、黝さんがそこにいた。

 また夢の中の黝さんなのだろう。夢の中の黝さんは、私に手を差し伸べることなく無言で立っている。


「シロはあのまま1人で兄の筋書き通りに進んでしまうのでしょうか」


 それはあまりにも可哀想な結末だと、訴えかけても意味のない黝さんに嘆く。

 私の言葉に黝さんは苦笑いを浮かべながら言う。


「続きを書いていないからでは?」



 ◇



 黝さんの言葉を聞きすぐに目が覚めた。

 辺りを見渡したところ、暗くはあるが、自室なのがわかった。根拠はないのに現実世界なのだろうと少し安堵した。

 だが、それと同時にシロのために早く、少しでも物語を進める必要があるのではないかと焦りも湧いてくる。

 

「所詮、夢だよね……?」


 兄の物語に入り込んだり、その世界の中で痛みを感じたり……でも、現実はここで。


「現実世界の黝さんに言ったら、また"夢は夢でしょ"て言われそう」


 黝さんの苦笑いを思い浮かべながら、大きくため息を吐いてしまう。

 

 

 とりあえず気を紛らわすために、魔王についてまとめてあるノートを開く。

 少しは解読できるようになったため、魔王のことは以前より理解が深まった。


 魔王は誰かの創作から着想を得たらしい。誰とは書いていないが……。

 

 そんな魔王は、元々悪魔が住んでいる国に居た小さな存在だった。

 だが、人間によって住んでいた場所を壊され、追い出されてしまった。

 

 復讐心に燃えた悪魔だったが、1人で太刀打ちできるわけもなく、次第に諦めモードに。

 静かに暮らそうと森へ入ると、ボロボロな城を発見。争いを望まない。静かに過ごしたい悪魔を掻き集めひっそりと暮らした。


 食料は森へ城へと迷い込んだ人間の血肉。また、人間の真似事で始めた畜産、養殖。

 自殺志願者や血、生気を分けてくれる人間を探しに、時々街へ足を運ぶ悪魔も存在するらしい。


 そのような暮らしをしていただけなのに、人間は事情も知らずに攻撃し、悪魔を激怒させてしまい戦争に発展した、と。

 その時に皆を城に招待した主の悪魔が、自然と魔王として君臨することになった。


 これだけ見てしまうと、やはり魔王はただ殺されるだけでは可哀想だ。


 これほど魔王について土台を作っておきながら、兄は魔王の情報を一切開示せず悪として終わらせてしまった。

 兄が悪として終わらせたかったから当たり前のことなのかもしれないが、なぜ1つも小説内に反映させなかったのだろう。

 勿体無いと思うと同時に、疑問が残った。


「書き直しを許可したのが兄なら、私用にノートを作っていてもおかしくない……のかな」


 兄の手助けなら有り得ないことはないだろう。

 だが、そこまで用意しといて、自分で書き直さないのも不思議な話だ。


 まぁ、そのおかげで私は兄の小説を分解し、自分なりに書き換えて学ばせてもらっている部分も多いのだが。

 


 物語の終着点としては2人を助けて、どうにか悪魔と人間の和解を。そう思ってはいるものの、どのように和解させるか。それが私にとっては難解だった。

 だって、私なら人間を許せない。一生関わりたくないと拒みたいレベルだ。

 

 そうは言ってもこれは私の主観。この物語の悪魔が許すのか許さないのかは、まだ私の中で決めきれていない。

 一応プロットでは、歓迎する者もいれば拒絶する者もいるように書いた。どうにか人間と悪魔、双方の拒絶組を落ち着かせてめでたしで終わる予定とした。


「ここまでだと魔王の性格がよくわからない……。喜怒哀楽の描写が少ない」


 国を壊され追い出され、怒ってはいたが、実際人間に攻撃したという話は書かれていない。

 復讐心を燃やしただけ。想像をして終わっている。

 

 2度目になって、戦争に発展してやっと殺意に変わった。

 ということは、温厚なのかもしれない?


 眉間にしわを寄せながら導き出した答え。だが、腑に落ちず、眉間を指で押す。

 


 目に強い光が当たり、初めてそこで日が昇っていることに気づく。

 ザクザクと土を崩す音が聞こえてきて、窓から庭を見る。

 そこにはクワで土を耕している黝さんの姿があった。


「あ、おはよう透さん」

「おはようございます。もう起きてるんですね」

「大体5時には起きてるよ」

「ええ……。私なんて黝さんいなかったら寝るのも起きるのも適当なのに」

「作家さんは不摂生な人多いよね」


 少し面白そうに笑う姿に、思わず乾いた笑いが口からこぼれ出す。


「ところで、何をしているんですか?」

「ジャガイモの種植えてる。放置でいいらしいし楽だよね」


 いつか自分の作ったジャガイモでフライドポテトを作るんだと楽しそうに言った。

 小説のことで苦悩しているばかりの私が、なんだか馬鹿らしく感じるほど、黝さんとのやり取りは和やかだった。

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