プロローグ。
「星が巡ってきた……」
「みんなも準備に入った頃……」
「時間……成功確率は高くない……、儀式を開始する……」
「この世界に良き巡り合わせを……」
神なんてモノが存在し得るのか? 異世界なんてモノが存在するのか……
自分は存在してもおかしくないとは思っている。
ただ、それはゲームや漫画の様なモノではなくリアルな世界……現在と少しだけ違うだけの現実的な……
最近、変な夢を見る事がある。
そこに現れる景色は古代文明の様であり、中世のヨーロッパの様であり、ゲームのファンタジー世界の様でもあるが……
そうだ……物語の中の異世界そのもの……
神話の話か?
それは、こう言っていた……私は人の願いから生まれたと……
地球上に人類が文明を築き始めて五〇〇〇年、人はあらゆるモノに祈りを捧げてきた。そして宗教観が芽生えそれは加速度的に広がった……そこから生まれる祈りという思いのエネルギーも増大し地球上に蓄積されていった。
そしてある時、そのエネルギーとエーテルが結びついて新たなエネルギー体が誕生した……それには人に由来する意思があり、知識があった。
それが『私』である
私は自身の存在を認識、理解したが、自ら人類に関わることはせず、ただそこにあるモノとして一〇〇〇年ほど経過した。
その間も思いのエネルギーは貯まり続けたのだがその量は予想以上で、遂に人類不干渉を貫いてきた意思とは関係なく、エネルギーそのモノが人類に干渉し始めた。
私は何とか自身全体を制御しようとしたのだが失敗した。
それも致し方無い事である。思いとは願いであり、その塊であり大きくなり過ぎたエネルギーの一部が願いに対して無意識に反応するのは必然であった。
ただ、仕方ない事だったとしても、海が割れたり、都市が一夜で滅んだりとそれは人類に多大な影響を与えてしまった。
その為、私は人類から遠く離れた場所に移ろうと考えた……
しかし、それは簡単な事ではなかった。
そもそも人の思いから生まれたモノである為に、人と完全に繋がりを断つ事は不可能だった。
ただ距離が離れただけでは影響を断ち切れなかったのだ。
それ故に、私は別の宇宙軸に移動しようと考えた。
ただし、単に別宇宙へ移動したとしてもそこの人類、もしくは自身と同じようなエネルギー体に影響を及ぼしては意味がない。
そこで見つけ出した答えは……別の宇宙軸に存在する人類が存在しない地球を見つけ、そこに移る事……
それがこの世界の始まり……
水の中を漂いながらキラキラと輝く海面を見上げている……
何だか綺麗な景色だなぁ……そんな事を微睡みの中で思っている自分がいる……
あれは何だったのだろうか……映画のプロローグ……神話の朗読かな……
あぁ……なんだかまた……深く沈んでいく様な……そんな……
『ピピッ ピピッ ピピッ』
「……うるさい……」
『ピピッ! ピピッ! ピピッ!』
しつこい目覚ましの音で目を覚ます……いつもの事だ。
「もう朝か……はぁ~…会社行くの面倒くさぁ~……」
また、変な夢を見ていた様だけど……疲れが溜まっているな……
最近、よく似た夢を見る。
だけど詳細を覚えている訳ではない。いつも神話の様な……そんな話を漂いながら聴かされている感じなのだけど……
「熟睡できてないのかなぁ~……。全然疲れも取れないし……」
「ふぁ~…… 準備でもするか……」
悲しい社会人の性である……ボヤキながらも会社に行き、きっちり仕事をこなす。
そんな普通の生活の日々……ただここ半年はそれまでと違い、人手不足で激務に伴う残業が続いている事か……まぁ残業代が増えても、独り身、無趣味の自分にはゲームかパチンコ、株の肥やしになるだけだ。
そんなこんなで、今週も毎日午前一時過ぎまで残業だったが何とか乗り切った……
まだ四月半ばだと言うのに汗が出る様な陽気な日々が続いている。昔はこんなに汗かきでもなかったのにとボヤキながらコンビニ弁当を自転車の籠に彫り込んで家路へと急ぐ。
自分は「結城連也」四十歳独身、真面目にではあるが、のらりくらりと攻める事なく楽な方に人生を送ってきたと自負している。
それ故に、特に自慢できる趣味や特技もなし、漫画とオカルト系が好きな『自由気ままに』がモットーの普通のサラリーマンだ。強いて何かを挙げるとすれば、偏った知識欲は強い方かもしれないが特に今までの人生に活かされた事は無い。
しかし、そんな自分でも仕事は自由気ままにとはいかず……社畜生活で心身共にダメージは蓄積されるばかりだ。
まぁそれでも、明日は仕事が休みだし、このまま久しぶりにゲームでもするか、それともネットで映画を見るのも良いかもしれない。
そんな事を考えながら部屋に辿り着てみれば、結局そのまま風呂にも入らずにベッドに倒れ込んで夢の世界へと落ちていったのだ……
そして、どのくらい寝たのだろうか……
暖かな風が髪を撫で、見た事もない綺麗な鳥らしきものが空を舞い、そして目の前には……
変な夢を見ていた。
その中で神の誕生だの、別宇宙への旅だの、冒険をしてみないか等、いろいろと言われてそれらに興味本位に承諾を繰り返していたら……
いつの間にか目の前に、大森林が広がっていた……
「……本当に異世界に来たのか? ……さっきまでの事も一応、現実だとは納得したのだけど……これって、本当に来てしまったのかなぁ……」
などと独り言をつぶやきながら自分の周囲を改めて見渡してみると……いまは森の中……のどうやら塔らしきモノのてっぺんにいる様だ。
円形の白い石畳の床に、その外周を等間隔に並ぶ白い柱……そしてその向こうの眼下に広がる森、と川も見える。その川は反対側には崖がありその中腹から水が幾本も流れ出している…そして崖の上にはまた森が広がり、その遥か奥に山脈も見える。この塔は、その流れ出す水が作る小さな湖の上に立っている様だった。
「凄いな……ここからでも湖の底が見える……それに、空も高いし青い……」
そう見上げた視線の遥か先には、蝙蝠の様な羽に長い首と尻尾が付いた様なシルエットが見える気がする……のだが……
「襲ってこないよな……」
少し不安に思ったが、それで実感が湧いてきた。
「本当に異世界に来たんだ……来ちゃったよ……」
ゲームや小説でお馴染みの異世界転生!
誰しもが夢見る……かは、分からないけど、スリリングな異世界だ!
そしてココでの目的は、ズバリ!
『死なずに無事に一生を過ごす事!』
その一点である。
現世の人間がこの世界の『生命エネルギー活性化』に繋がるという事で、この世界で生き延びられるなら過ごし方は本人に委ねられているのだ。
その為、冒険者になるも良し、商人になるも良し、戦士を目指すのも、街に引きこもるのも自由。
取り敢えず、生きてさえいればいいと言うがこの異世界転生での最低条件なのだが……
その理由もちゃんとある。
それは、この世界では死んだら即アウトなのだ。
復活呪文なんて都合のいいものは存在しなので死んだら現世と同じく人生終了。
現世に戻る事も無くこの異世界の土に還るという事らしい。
まぁ、サブ的な事で最重要の任務もあるのだけど、それも強制ではなく、大部分が生活の一環で賄えるので、やはり無事に過ごすと言うのが最大の目的だと思っている。
ただ、あんな状況で異世界行きを承諾する様な人間が、ここで冒険者にならない訳がない! 現世では味わえない非日常を期待して来ているのだから!
そんな事を思い、目の前に広がる光景に暫く感動していたが、改めて情報の整理する事にした。
少しでもリスクを抑え、今後の方針を決めるのに現状把握は必須である。
そもそもあの無表情の『時の賢者』様に連れてこられたこの世界は異世界とは言っても、別宇宙に存在する地球だという事だから、ある程度の自然と科学的法則は現世と変わらないはずである……と期待しているんだけど……
「少しでも今まで身に付けてきた無駄な雑学が活かせれればいいなぁ……」
「しかし……数日前から見ていた夢はここの存在を言っていたんだな」
この世界と現世の大きな違いは、神と呼べる意識体『エーテリオン』の存在と、魔力の存在である……
「まさか、あの夢からこんな展開に発展していくとはね……」
最初に、夢の中で異世界を救うのに協力してほしいと言われたけど……
場所も地域も国名すら不明。場合によっては即死の危険性もあり。更に、チート設定も無しだけど、ある程度の支援と若返り転生付きと言われ承諾してしまった。
それにしても、現実は小説より奇なりとはこの事だな……そんな事を考えながら事の始まりを思い出していた。