あらぬ場所にある聖剣
聖剣、と言ってもあらぬ姿と呼ばれる大きなペンを握ってるママが必死に荒く呼吸をする。
興奮が収まらないカナイ。友達のママが命の危機に瀕しているのもあるが、何より聖剣を握っている事に驚いている。
記憶では間違いなく一昨日は王国にあったはずだ。まさか昨日の短期間で盗み出したのか、あの厳重な警備の中を。否、そんなはずはない。あまりにも何もかもが早すぎる。一体ドロシーのママは何をやったのか。ここから王国は瞬間移動の魔法を使わない限り移動出来る距離じゃない。使えたとしてもこの負傷じゃ魔法は使えないのが道理だ。
走馬灯のような考えがメリーゴーランドのようにグルグル愉快に回った。
とにかくまず聖剣を隠すようにとドロシーに指示、そしてドロップに治療を任せカナイ自身は誰かを呼ぼうと考える。だが普段友達以外話さないわたしが、と伝手を浮かべる事は出来なかった。ただ一人の男を除いて。
呼んだのはトイナ サンダー。騎士団に入っていたと名乗る謎多き男だ。変な奇行ばかりしているがカナイは使えると言う勘が咄嗟に働いた。
「……この傷のつき方、間違いない。王国の騎士達が鍛錬して磨き上げた技が刷り込まれている」
普段とは違って風がせせらぐようなキリッとした真顔でドロシーのママの治療を行う。
声や口調もひょうきん者というよりは、本当の騎士という風貌が垣間見える。
「カナイちゃん。本当に一昨日いたんだね? このママさん」
「いた」
険しく眉間にしわを寄せ主に大きく負傷していた腕に包帯を巻く。概ねを治療を終え一命は取り留めたと判断し、ほっと一息つく。
ふと我に返ったカナイはじっとトイナの目をじろじろ見る。
「なんだ」
「今思ったが性格が違う……」
それを聞いて立ち上がって拳を胸に当てもう片腕を地に向かって伸ばす。目を瞑って静かに口を開く。
「そうだ。俺は芝居をしていたのだ。元騎士団というのも嘘だ。現在進行形で入っている。カナイを騎士団最上位のクラスに入団させるべく、しばらく潜入させて頂いた」
驚く事も無く、寧ろ納得したような得意げに口を尖らせ「とうとうこの時が」と漏らす。
遠巻きに物の用意していたドロシーやドロップも作業の手を止めた。
若干もの悲しさな雰囲気はあったが、彼女らもカナイの実力は知っていた。この世界の根底を覆すほどの魔力を持つ事を。
背後から横目がチラりと見える。無言ではあったが「頼んだぞ」というキラーパスを受けたような気もした。
恐らくは聖剣の事だろう。ついに王妃の手元を離れた剣を守ってやってほしい、と。
「分かった。明日までに出る準備をする。トイナも手伝ってくれるか」
「勿論だ」
静かに流れる風はママの栽培していた花を優しく揺らす。ドロシーらの家を出たカナイとトイナを見送ると、お母さんを長いソファーの上に寝かせた。




