第9話 また明日?
「ん〜、久々に暴れたぁ〜!」
腕を太陽に捧げるよう、清々しいまでの背伸びを。翌檜さんは私の横で、にこやかに披露してみせた。
午後の授業を投げ出し帰る、そんな風には見えないぐらいに。
ま、そこは私も同罪だけどね。
いくら優等生だって、あれだけ暴れりゃ帰りたくなるさ。
“青”を待ってる交差点。
当然だが。私達2人以外には、学生なんて――
「ん、ちょっと待った」
翌檜さんがきょとんって、「ん?」とか言って振り返って。
いや何を平然としてるんだ……!
シャツの右腕に付いた染み。
捲って――あぁ、やっぱりな。
「キミ、出血してるじゃないか。長い裂傷だ、早く言えっ!」
「え、あぁ、うん……。でも“メーカー”って頑丈じゃん? 普通メンよかすぐに治るし――」
「そういう問題じゃない。ほら、腕を出したまま動かすな」
傷口に、ウィアードを添付……っと。
「うぇっ、何コレ、ベタベタじゃん……」
「我慢しろ。それで――」
「うっそ、傷が治ってく!? 何コレどちゃくそ偉いんだけどぉ!」
切り替え早いな。
って、そのままスマホで――
「やっばぃ、これは写真写真っ! SNSに――」
「やめろギャル。治り掛けの傷口なんて、キミのフォロワーがドン引くぞっ」
「あ、それもそっか。あははっ!」
……全く、バカなのかキミは。
「あぁ、あたしん家、こっちだから!」
翌檜さんの家、交差点を渡り切って左、か。
じゃあ私の借り受けた、マンションとは逆の方だな。
「そうか、それじゃ――あ、そうだっ……!」
うっかり聞きそびれるトコだった。
「キミ、どうして屋上に? それに、何故飛び込んで来たんだ? あまり悪くは言いたくないが、“メーカー”は《《ブッ飛んだ奴が多い》》。危険は承知だったろう……?」
そうしたら、翌檜さんは。
「それはね〜」って、笑って。
「あろまろがなんかソワソワで、興奮案件だったんだよねぇ。で、授業は泣く泣く離脱したってさ、校舎のテラスでうとうとしてたら――」
「屋上に巨人が見えたのか」
「そ! 稲黍さん、メーカー絡みだったっぽいし。もしかしたら――って、後は山勘? みたいな!」
そこで一旦、間を空けて。
彼女が「まぁ、」って、少しはにかんで。
「ちょびっと危なくたってもさ――。友達だったら、助けなきゃでしょ!」
それからまた、にぃって――……ん?
「いや、友達じゃないだろ、私達」
「え」
「私としては。警告する側、される側。署名はそれだけのつもりだったが」
と、言い終えた所で。
何故だか翌檜さんの動きが、油の切れ掛けたロボットみたく。
「ぁ……あー、そっかー、違ったか〜! あたしの早とちりだったかぁ〜! んー、ゴメンね、迷惑だったよね。あたしほら、あろまろもいるし怖がられちゃって、周りに友達いないからぁ――……じゃあ、またね〜! あははははぁ……」
……? 行ってしまった。
全く、やっぱバカなのか。
…………いや、ちょっと待て。
バカはどっちだ、私じゃないか!?
窮地を助けてもらっておいて!
それに私を――友達だって!?
私みたいな、偏屈をか!?
「ぅ、ぁ、明日また、学校行って、謝らなくちゃ……!」
……あ、今の出来事がショックで、不登校とかしないだろうなぁ!?
嗚呼! しまった迂闊だった、連絡先すら訊いてない!
ちょっと不安になって来たぞぉ!?
会えなかったら、どうしよぅ……!?
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