第8話 翌檜旭のライオット
「あんた達、さっそく転学生イジめるとか、何ダッサイ事やってんの……? そういうの、マジでないわ」
翌檜さん――
「――それは、違うぞキミッ……!」
飴のナイフで、“紐”を断ち切って――
「私は苛められちゃいない。秘装を悪用するこいつらを、これから黙らせる所だっ!」
言い切ってやった。
「……稲黍さん」
「フッ、どうしたキミ? 何か異論でも――」
「ぷ、ははははっ!」
翌檜さん? え、何の笑い?
「ごめ! 急にキャラ変するから、なんか可笑しくなっちゃって〜!」
「なぁ――っ、転学初日は! 誰でもあんな感じだろぅ!?」
あぁもう、台無しだぁ!?
「鞠、応急処置は終わったよ」
っ、菜種さんの声。
あろまろの裂いた傷痕に、墨の包帯を巻き付けて――!
「ぁ、ありがと鈴ちゃん。こいつら、グシャグシャにしてやろうっ!」
馬酔木さんが激昂すると、
「うん。君達、許さないから……!」
菜種さんも同じ姿勢か。
ふん、いいだろう。
改めて2人――
「かかって来なよッ……!」
って、翌檜さん!?
「ライオット!」
な、これは――
“あろまろ”が跳んで、翌檜さんに!?
同化――いや、これは帰化か!
翌檜さんの四肢が恐竜に……!
太古の力に包まれて――
「RuoOooooooo!!」
っ、結合した!
強靭な脚、鋭利な鉤爪! スカート丈を捲くる尻尾!
瞳に狂気を震わせて――ははっ、JKサウルスっ!
「っ、鈴ちゃん! どっちを狙う!?」
「勿論、弱そうな方からっ!」
なんて、相手方が私をロック――
って心外だぞおいこの野郎っ!?
「GyaaaaaaOoo!!」
うわ、翌檜さん突っ込んだ!
狙いは――菜種さんだ!
「ぅ、ブラッシュ!」
紙の盾――を、アロサウルスの爪が貫いた!
「くっ、何て奴だ……!」
そう圧されても筆先から、墨を弾丸と振り放つ。
けど、翌檜さんの一振りが、尻尾が墨を打ち払い――
「おっと!」
ドンッ! っと、その張り手は回避ッ!
「潰れろぉっ!」
馬酔木さん――なら、仕方がない。
やり方はある。
すぐ終わらせるッ――!
「ウィアード!」
飴弾を連射っ!
多角から脚を使って牽制。
それに馬酔木さんはもう――
「動きに余裕が見えないぞ? 菜種さんが苦戦してるからかっ?」
「ぅ、うるさいっ!」
よし、煽りに乗って来た。
その拳を避け――元の場所には、
ベチャッ! てね。
「ぅえ――何これっ!?」
よし、止まったな。
「飴の罠さ、ちょっとベタ付くぞぅ? ところでキミ、“ネメアーの獅子”を知ってるか?」
「はぁ? そんなの、知らないしっ――!」
空気が大きく薙ぎ払われる。
その左腕を、回避して――
「そうか、それなら教えてやろう! 面白いから聴いておけ!」
ウィアードの鞭を馬酔木さんの肩、そこへ付着させターザンのように!
「ギリシャの英雄――かの“ヘラクレス”は! 剣でも弓矢でも傷付かない、強固な毛皮を持つ獅子を!」
飴を伸縮させ、振り子の要領で飛びつつ……!
「3日間その首を絞め、斃す事に成功したそうだ! つまりは――こんな風になぁッ!!」
左手ありったけの鞭を、撓らせ馬酔木さんの首へ!
そうだ、首輪をあしらってやる!
悪戯好きには、キツめのな!
「ぅ――み、ミスチィフっ!」
首が絞まり切ってしまう前に、か。
危険を悟った巨人の体躯が、みるみる今度は縮んでく。
でも惜しい、忘れてないか?
「“ウィアード”は、飴で鞭なんだぜ!?」
等身大の馬酔木さんに、対応して飴を収縮!
よし、身体をギッチリと――拘束、完全捕らえたぞっ!
「――翌檜さんっ!」
ドサリと落ちた馬酔木さんを、視界の隅で捉えながら。
丁度、墨製の刃と、恐竜の爪が鍔迫り合い。
おっと、意外といい勝負。CGも無しにこの迫力。
けど、
「キミ達、そこまでだ!!」
同時に、双方が振り向く。
で、私はウィアードを手繰り――
「こっちには、馬酔木さんがいるっ!」
悪役ムーブに、転じればいい。
「な――ぁ、鞠っ……!」
「ごめん、鈴ちゃぃはははははははぁ!?」
狼狽える菜種さんの目の前で、馬酔木さんの頬を抓った。
もう思いっ切り、抓った。
「っ、やめろっ! 鞠にヘンな事するなぁ!」
「ヘンな事なんて言うのをやめろぉ!? とにかく、さぁ、降参したまえっ」
そうだ、こっちの降伏に従えっ。
でもって、さっさと署名しろぉっ。
「……鈴ちゃん、従わないでっ」
と、頬を腫らす馬酔木さんが。
「私がこのままミスチィフで、巨大化してやるんだからっ……!」
「おっと、その手は食わないぞ」
転がる捕虜を、睥睨し。
「仮に巨大化出来るなら、とっくにそうしている筈だ。最初に捕まった時もね。察するに、キミの巨大化は体躯に見合った、空間が無いと駄目なんだろう? だから屋上に出たんだ。まぁ、友達の方が本命だろうが」
馬酔木さんの、目が泳ぐ。
……全く、強情な――。
「虚勢は張るな、署名をしてくれ。馬酔木さんも、菜種さんも、過ぎた悪戯に気付いてるだろう?」
……、沈黙。
それからやや俯いたまま、菜種さんから徐に。
「……悪かった、ごめん。誓約書に、署名する。だから、鞠を放してよ……」