第7話 屋上決戦
「ッ、上から――!」
巨大な右手が落ちてく――
ドズゥンッ!!
っ、危なかった……!
脊髄反射が回避したけども、今の音、震動も。食らえば大ケガ確定だ!
「あははははっ! ほらほら逃げろー!」
クソっ、デカい口で……!
馬酔木さんは手を休めない。
膝突いて、その巨大な平手で――百人一首の札取るみたく、しかし蚊を潰す執拗さ!
でも、
「隙ならある、ウィアードッ!」
デカい右手に飴弾を――よし、3発命中っ。
馬酔木さんの右手を退けて――
「いっ――たぁあっ!? ちょっと今、なんかバチッて来た!?」
……マジか。
水分で溶ける飴弾とはいえ、硬度は鉛玉のそれだ。静電気に触れた反応は、私を深く傷付けたぞ!?
しかし、なる程。皮膚も強化されるのならば。
それならそれで、やり方はある。
「ウィアードを強靭く撓らせ――っ!?」
黒い鋭角、腕を掠った……!
「不意打ちを躱すなんて、やるね」
菜種さん、その黒い刀は――墨で編み出した刃か!
「私のブラッシュは万能なんだ!」
「かもな。でもウィアードだって――」
負けてないっ!
菜種さんの動きをよく観るんだ。
次の一突きを回避して、不定形の飴で――捕えたっ!
「からの――」
刀身に巻いたウィアードで、勢いのままに捻り取るッ!
「ぅわ……!?」
相手の短い驚きと、同時に刀を取り上げて、それをそのまま――
「返すぞアマチュアっ!」
投擲するッ!
盾を出す暇なんて無いように!
「く――解除っ!」
菜種さんの一声。
バシャリと刀が空中で、砕けるように墨へ帰化……!
ちっ、機転が利くじゃないか!
でも一対一なら私の方が――
「こぉらぁああっ!!」
――ドウンッツ!!
って巨大な拳が、危なっ……!?
何とか回避したがまた、特大級の横槍を――
「鈴ちゃんがケガしたら、どうすんのっ!?」
「鞠っ……」
菜種さんの、恍惚な声。
すると馬酔木さん、頭を下げて。土下座と屈んで、もじもじと。
それを見るや否、菜種さん。
馬酔木さんの頭を手でよしよし。
撫でてよしよし、よしよしよしよし――…………
キミ達なんなのさ!?
「! ぅあっ!?」
な、急に脚首が!?
浮かんで、視点が引っ繰り――
「痛っ!?」
尻餅、付いてる場合じゃない!
何だ、黒い影の紐が、いや真っ黒な墨の紐が、私の両足を結んでるぞ!?
こんな細工、いつの間に……!?
「あぁ、それ、その紐ね。さっき解除して液状になった、私の力、ブラッシュだよ」
っ、何だって……!?
そう涼し気に菜種さん、丸太みたいな馬酔木さんの、大きな手首に寄り添いながら――
「実は君に投げられた刀、あれは“刀”と“紐”の2文字で、鋳造した物だったんだ。一種の“造語”ってやつかな? そういう作品も、面白いよね」
しまった、マジで油断した……!
こいつの秘装、優秀だ!
「ぷ……じゃあね、転学生っ!」
巨人の小馬鹿にしたような、あの半笑いの表情めっ!
クソっ……。
身体が大きな日陰に入る、真上に馬酔木さんの右手が……!
いよいよピンチだ、この状況っ……!
一旦ここは仕切り直し――っ、それは駄目だ。
学校転学初日から、
「ナメられたまま、終われるかっ……!」
振り下ろされた、巨大な拳――!
「くっ、ウィアードッ!」
防御に力の大半を割く!
ゲル状素材のような盾――いや、敢えて硬質化の盾を!
殴り抜けられた勢いで、吹っ飛び間合いを稼げるか――ぐ、
「っ、ぅああああああ!?」
こ、この重圧ッ!?
馬酔木鞠っ、こいつ拳で殴らずに――開いた掌で圧し潰して……ッ!?
「あははっ! 盾が硬くても、稲黍さんはどうかなぁ? 弾いて逃がすような真似、私がすると思ってた?」
馬酔木さん――、正直思ってた。
あぁ、ナメてたのは私の方かっ……!
っ、どうする私っ? 足場と右手に、挟まれて……骨もミリミリ、言ってる、ぞ!?
今の私に、出来る、最善は――?
クソっ、つ、次の手、を――……
「――跳び掛かれぇえっ!!」
え?
意味不明、だ。
溌剌とした号令に、緑の巨躯が跳び込んで――。
馬酔木さんの手を、切り裂いた……!
吃驚仰天の悲鳴と、巨人が身を後退させて。
代わりと修羅場に降り立ったのは、恐竜――アロサウルス、じゃないか……!?
「稲黍さんっ、大丈夫っ!?」
威嚇と吼える“あろまろ”に、一泊遅れてやって来た。
わざわざ、危険地帯にか?
翌檜旭――理解、出来ないな……!






