第5話 悪戯妖精
――……丁度良い。
「きゃ!?」
刺された右手で相手を確保。
おいおい。掴まれたぐらいで、“きゃー”とか言ってくれるなよ。私がキングコングみたいだろ。
「先生、」
と、形式的に挙手をして。
「スミマセン。ちょっと、保健室行って来ます……」
って、言った舌の根も乾かぬ内に。
今は未使用の教室内で、
「ヘイヘイヘイ、やってくれたなブッスリと」
右手の痛みに怨みを込めて、身動き出来ない在校生へ。
「確か、クラスの馬酔木鞠さん……だっけ? 陰湿な手紙入れたのも、小さなキミの仕業だな。千枚通しで突き刺すなんて、悪戯で済むと思わない事だ」
「ぐっ――あなた、転学生っ!」
馬酔木さんの表情が、こっちを睨んで歪んでる。
茶髪のボブに可愛らしい顔。というのが、クラス名簿の彼女だったが、今は大きく減点されてる。
勿体無いな、そういうの。
「ちょっと、聞いてるの!?」
小人がもぞもぞと藻掻きながら。
「あなた、“メーカー”が怖くないの!? 小さな私に驚かないの!?」
「キミを怖がる理由は無いな。まぁ、驚きはしたが――《《出オチ》》だな」
「ぅ――あなた、もしかして同類? あなたも同じ“メーカー”なんでしょ!?」
「何が同じなものか。ところで、頭に被ったベレー帽、その手塚先生って感じの帽子が、キミの宿してる秘装か? それで小さくなれるのか?」
馬酔木さんは悔しそうな顔で。
「っ、大きな口で煩いわね! 分かった分かった、もうしないからっ。早くこの手を放してよっ」
「大きな口って、キミが小さいんだろう。まぁそれはさて置き、放すのには条件がある」
ブレザーの内に忍ばせてあった、誓約書を突き付けながら。
「風紀役員の任務なんだ。誓約書に“署名”してもらう。その力の活用法は、書面に則り順守する。署名後、悪用された場合には――“秘装”を無効化、拘束をする。身振りに気を付ける事だ」
「はぁ!? ちょっと、ふざけないでよ! そんなの署名する訳ないでしょおぅおぅおぅおぅおぅおぅ!?」
掴んだ彼女を左右にシェイク。
普通ならこれで音を上げ――
「わ、わかった、から。署名、しますぅ……」
よし、チョロいな。
「物分りが良くて助かるよ」
なんて。依然、馬酔木さんを掴んだまま。
「それじゃあ――ん?」
足元に、紙が落ちてる。
折り畳まれた、小さな紙が。
「あ、ちょ、ちょっとそれ拾って……」
何か気不味そうな雰囲気で、馬酔木さんが視線を逸らす。
そうか、この紙。彼女の元を離れたから、サイズが元に戻ったのか。
「……悪いが、中身を改めさせてもらう」
左手だけだと開き辛いな。
えーっと……は?
「“針”?」
開いた紙面に筆文字で。
大きく“針”って――
「な――」
いや、文字が動いてる!?
紙の中心に寄せ集まって、それから――
「いっッ!?」
痛い……ッ!
黒い筆文字が瞬間、大きな針で飛び出した!?
左腕、に刺さっ……!
「よっし、チャンス!」
しまった、馬酔木さんを離し――元の背丈に戻って逃げてく……!
「クッソ、あいつッ……!」
頭にきた、逃さない……!
取っ捕まえて、折檻してやるッ……!






