第4話 JKサウルス
「ぅ――ウィアードッ!」
飴の固まる余裕は無い。
武器を鋳造するなら――“鞭”だッ!
伸びたウィアードを撓らせてっ――……
「……ぁ、れっ?」
恐竜が、一歩引いた。
のっそのっそとバックして、壁際まで巨躯を揺らして。
「……道、譲ってくれたのか?」
――って、アホか私は。
恐竜に訊いてどうするつもりだ。
…………。
当然、返事は無い。
が、まるで借りて来た猫のよう、見た目裏腹な大人しさだ。
と、秘装を解除して。
コイツをとっくり、観察してみる。
……高さ、170cmはある。
尻尾を入れた全長は、5m程度だろうか。
瞳の上の突起から、察するに確か――“アロサウルス”。先週、クイズ番組でやってた。コイツは想像より小柄だな。
――改めて。
この開幕には驚かされたぞ。
まさか“恐竜”とは、理解不の――
「あ、ここにいたぁ!」
アロサウルスの後方から、ひょっこり女子が――ん、この娘。同じクラスの翌檜旭だ。
金髪、ガチャガチャ装飾品。透明度のある肌色だけども、胸元の弛いルーズな着熟し。うん、確定ギャル。
……まさか、こいつ。
「お、転学生ちゃんじゃん!」
うわ、気付かれた。
じゃなくて、丁度良い。
「あー、稲黍鼓です。びっくりしちゃった、この恐竜」
「そうそうそう! ウチの“あろまろ”! 可愛いでしょー!」
翌檜さんはアロサウルスの、緑の皮膚を撫でながら。
「あたし、“メーカー”なんだよねぇ! で、この子が“秘装”! 驚かせちゃってごめんね〜!」
――やっぱりな。
「ううん、大丈夫。メーカーかぁ、スゴいね。……ところでさ、」
後ろへ回した右腕に、ウィアードを絡め形成開始――。
「風紀役員の元にね、恐竜がいて、恐いって。そういう声が届いてるの」
鋭利な“鉤爪”を作り、恐竜よりも先制する。
「多くの生徒が困ってるからさ。だから――ちょっと消してもいいかな?」
狙うなら――翌檜旭だッ!
「――そっか、了解っ!」
「え」
素直。
思わず『え』、とか言っちゃった。
「あろまろー」なんて言いながら、翌檜さんが右手を出し。そこにアロサウルスの大顎が、ポンと可愛らしく乗ると――消えた。
「ほぃ、これで万事丸?」
翌檜さんが口端を、にぃって――
曲げたあの笑顔。
あの感覚は不思議だった。
翌檜さんからしてみれば、私は“ウザい”だけだろう。充分、攻撃対象だ。
なのに嫌な顔一つせず、あっさりと秘装を解いて。おまけにサラッと誓約書まで、『了解!』だなんて署名して。
小競り合いの、一つもせずに……。
――全く、理解出来ないな。
いや、校内で恐竜を闊歩させる、その段階で理解不能だけど。
……なーにが《《散歩コース》》だ。
『別にOKかなーと思って』って、バカか。
柴犬でも停学モノだろうに、アロサウルスなんて罷り通るか――
「はいじゃあ、次のとこ。稲黍さん、読んで下さい」
「――え」
ぁ、しまった。
今は任務の時間じゃない。
普通に教室を使った、正しい現代文の時間だ……。
ど、どこだろう。
先生の言う、『次のとこ』って……
「8ページ、最後の段落」
「! えーっと、“まだ小さな苺、咲きはじめ――」
――……ふぅ、セーフ。初日からドジ踏むとこだった。
それにしても、今の助け舟。随分小さな声だったけど。
礼を言おうにも、誰だったんだ?
「ん……?」
机の物入れに、教科書じゃない、メモ切れがある。
……広げて読んでもいいよね。
【風紀役員、いらなくない?】
――何これ。初日から陰湿な痛っ!?
「っ、っう……!?」
机の物入れ……?
メモ切れ入れようとした手が、針で、刺された……!?
「ほら、ぼーっとしてるから!」
嘲笑うような声がした。
小さな声が、物入れからした。
針に血の付いた千枚通し、それと物入れから覗くのは――。
ピンクのベレー帽を被った、小さな妖精――いや、女子生徒っ……!?