第2話 稲黍鼓のウィアード
「ですから、口、喉奥ですよ。合唱練習なんかじゃなくて、マジに喉奥を開くよう、狙いを定めて一発どうぞ」
あっけらかんとした顔の、亨さんへ再三告げた。
けど、
「は――いや、いやいやいやいや!? 何を言ってるんだキミは!? 護身用のゴム弾だとしても、体内だなんて正気かキミはぁっ!?」
人が良いなぁ、このアラサー。
「気にしないで下さい」
慌てる亨さんに対し。いつもみたく、平静に。
「私も一応、“メーカー”ですから。身体に宿った『秘装』を使って、銃弾ぐらい防げます」
「いやでも、どうして口内なんだい!?」
「暫くベタベタするからです。自分の“力”ですけれど、あんまそういうの、好きじゃないんで。……あぁ、もしかして、的が小さくて狙い辛いですか? それじゃあ、あ〜〜〜〜……」
がぱーっ、て口を開いて見せる。
けど、それでも、この大人は。
「い、いや、だけどもし、万が一、怪我でもしたら――」
拳銃鳴かず、銃弾飛ばず。
――あぁもう、焦れったい!
「亨さん、銃を貸して下さいッ!」
身を乗り出して――銃を掴んでっ!
って、亨さん! 手を離して下さいってば……!
「私が自分で引き金引きます! 亨さんは見てればいいですっ!」
「いやいや、いい訳ないだろぅ!?」
ッ、仕方がないっ。
品行方正も無いがこのまま、テーブルの上で拳銃咥えて――
「わぁああああ!? バカバカバカバカバカだろうキミは!? 引き金引いたら本当に――」
「五月蝿ひほ! 意気地はひぃ!」
ドッ――!!
「ごぼッ――……」
喉の奥――……っ、
「――げほっ、げほっ……!」
危ない、飲みそうになったぞ……!
「……ふぅ。あぁ、もう終わりましたよ。亨さん?」
弾丸受けた衝撃で、仰け反った身体を椅子に戻して。
それから亨さんの顔を――ああ、“イカれた少女だ”、って顔だ。
でもまぁ、こんなものだろう?
「……それが、キミの“力”かい?」
驚天動地と興味津々が程よく混ざったような相貌で。
亨さんは私の顔を、まじまじ眺め、眉根を寄せて。
「一体、どんな仕掛けなんだい? 弾丸は、飲み込んだのかいっ……!?」
「いえ、飲んでなんかいません。衝撃毎、包み込んで――ここに」
からころと、舌で弄ぶのを止め。楕円型の飴玉を一つ、前歯で挟んで「いー」と見せ付けた。
それをまた、亨さんは凝視しながら。
「……オレンジ色の、飴?」
「はい、私の持つ秘装――“ウィアード”って、呼んでます」
仏壇の前で唱えるみたく、自分の両手を合わせて――離す。
身体に纏ったオレンジ色の、オーラは鮮やかな飴を。まだ固形として成り立つ前の、粘度の高い不定形を。
左右に開いた手の中で、架け橋みたいに弛ませて。
ああ、結局手ぇベタベタする。
それから飴を成形し――扱い易いナイフを彫刻。固めたウィアードの刃は、市販の物より良く切れるんだぜ?
「……なる程、こりゃスゴい。ところで、ゴム弾は舐めたままかい? 異物なんだから、不味いだろう?」
なる程、確かに。
亨さんからすればそうなるか。
「飴玉は、ゆっくりです。齧って中身が飛び出さないよう、未練がましく舐め続けるんです。でも味は悪くないんですよ? いや食べさせるなんて気持ち悪い事、したくはないんで共有出来ませんが」
と、一通りセールスをしたら。
「それで、どうですか?」
目を丸くした亨さんに、少し得意気に問い掛ける。
「この面接、合格ですか?」