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第14話 ほろ苦い話

 ………………声が、する。


 …………稲黍さん、稲黍さん。


 ……翌檜、さん?


 ……、そうか。


「私は、負けたのか」

「! 稲黍さんっ! あぁ、よかった、死んでなぃっ……! 生きてる、生きてるよ……」


 薄明の空を背景に、キミの泣き顔を見るとはな。

 ……翌檜旭、私を心配してくれるのか。


 ……身体からだを動かせない、四肢の感覚が分からない。

 こうして仰向け状態で。多分、公園のベンチの上で。


 ……全身火傷。

 ああ、思い出して来たぞ。






「キャハハハハッ! 燃えろ燃えろぉ!」


 始まった……!

 鳶尾さんの両手から、紫炎が火炎放射器のよう!


「クッ……ソ!」


 私の回避した背の後ろを、人間大の火柱が!

 高熱を保って通過した……!


「っ、ウィアード!」


 飴の弾丸を――


「はぁ? グロリアス!」


 鳶尾さんが、発火して――ぅ、駄目だ、飴弾が溶けた……!

 何発撃っても届かない……!


「くっ――だったら!」


 ウィアードを、飴をもっと。

 高密度で圧縮させて、より強靭な武器を生成――


「ねぇもしかして、アンタって」


 鳶尾さんの、火力が増して――


 ぁ、っ、この温度……!

 私の周囲、紫の炎!

 予想より速いっ、囲まれた――……!?


「キャハハッ、やっぱそうなんでしょぉ。アタシと相性、最悪サイアクなんでしょ? だってアンタのキモい秘装、“グロリアス”で溶けてるしぃ? こうして周囲を燃やされて、熱で形成も出来ないんでしょ!」


 っ、この女っ。

 性根は腐っているけれど、鋭い観察力がある……!

 想像以上に手強い――


(あつ)ッ!? いっ……、もうこんな――!?」


 炎の波が!

 全身に――ぅ、ウィアードを……!

 少しでも火を――っ、


「ぅあ――ぁああああああッ!?」

「キャハハッ、アンタ火達磨じゃん! このまま始末したいけどぉ、生命いのちは助けてあげよっかぁ? けどもう二度と、逆らわないって――」

「RuoooooooOO!!」


 ――この……(うな)、り――……。


 ……バ、カ。


 (あぶ)……ぃ、ぞ――……






「……鳶尾、さんは?」


 こっちを覗き込む顔が、やや曇った相貌になり。


「……ごめん、逃げられちゃった。稲黍さんを公園の、池に投げ込むのが限界で……。それと、その、ビデオカメラも――……燃やされちゃった。テント(ごと)、キャンプファイヤーみたいに……」

「いや……うん、ありがとう。……一つ、頼み、が……」

「うん、何? あ、救急車っ……!」

「いや、違う……」


 電話番号を、伝えないと。

 亨さんに連絡して、至急、迎えに来てもらうんだ……!






「復・活っ」


 キャンピングカーのリビング区画へ、入場するや開口一番。ふふっ、バシッと決めてのけたぞ。

 翌檜さんもあんぐりと、口を開いて――


「ぁ――……」

「ちょっ、稲黍さんっ!?」


 ぅ、しまった、情けない。

 完全復活の筈が、翌檜さんの肩をまた……。


「全く、何が復活だい」


 呆れた様相で、亨さんが。


「メーカー用の活性アンプル、常備薬をフル投入だ。加えて自前の秘装(ウィアード)を、全身に回したんだろう? 傷は癒えても全身ガタガタ、2週間は安静だ」

「……スミマセン」


 そう呟くと亨さんは、至極、真面目な表情で。


「無茶も大概にしてくれよ? でも、傷が治って良かったよ。8時間前のキミを見た時は、死体かと肝が冷え切ったからね。……僕は医療区画へ移る、暫く2人で寛いでてくれ」


 って、部屋を出て。私と翌檜さん、2人切り。


 …………。


「――あたし達、似てんじゃんっ」

「は?」


 翌檜さん?

 藪から棒に、いやどこが。


「結局さぁ、稲黍さんも()()()()()()()、飛び出してっちゃったんだよね? だから似た者同士、じゃない?」

「ぅ、っ、そういう意味かっ……」


 この私が、“お人好し”だとぅ?

 だったら抑えが利かなかった分、私の方がバカみたいじゃないかっ。

 ……あぁ、もう!


「――はいはい、そうだなぁっ。私達は似てるかもなっ」


 すると、ここに居るギャルは。

 鬼の首を取ったように。


「あははははっ、稲黍さん、ごーじょー! “かも”じゃなくて、激似っしょ!」

「本当にそこまでじゃないと思うが。でも、境遇は割と近いのかもな。私も周囲に友人のいない、典型的な“メーカー”だった。そういう点なら、激似だな」

「稲黍さん……。ねぇ、訊きたかったんだけど――」


 翌檜さんが、改まって。


「何で、そんなに頑張るの? それに、この車の設備……。ただの風紀役員、じゃないよね?」

「……そうだな」


 隠しておく、必要も無いか。


「私の任務(しごと)、その顛末。キミには話しておく事にしよう。ただ――別段、面白くないぞ?」

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