第13話 鳶尾暉のグロリアス
「ねぇねぇちょっとぉ、怖がらないでよ。綺麗でしょ、紫の炎。アタシの力、“グロリアス”!」
怯む獲物へと鳶尾さんは。
「サービスで魅せてあげたんだからぁ……ほら、早く出してよ、3万」
被害者の娘が、財布から。1万円札を3枚――。
高1から、3万円……。
「やった!」、「ラッキ〜」、なんて口々に。喜ぶ取り巻き共へ金を与え。
そうして自分も懐に、札を1枚入れて尚。
「ほぉら、やれば出来るじゃない。ところで、アンタのその長髪。すごく長いわね、腰より長い。それに、艶があってキレイ」
「ぇ、ぁ、ありがとう、ございます……。ちょっと、伸ばしてみようかな、って……」
「ふぅん、そう。――グロリアス」
――あいつ。
紫色の、炎が光った。同時に悲鳴と、どよめきと。それと痛快な笑い声――。
標的にされた女の子、髪に、導火線みたく――……
……少し離れた一角で、「鼓さん!?」って呼ばれた気がした。多分、翌檜さんだろう。
でも今は、どうでもいい!
「ウィアードッ!」
飴のナイフで、燃えた髪の毛を――!
頭へ燃え広がる前に!
「――よしっ」
うん、上手く切除出来たっ!
「キミ、大丈夫か」
「は、はぃ。ありがとう……!」
私への感謝、胸が痛い――。
怯えているけど、うん、歩けそうだ。
「よし、1人で立てるね。このままキミは帰るんだ。それと――ごめん。髪は素人が切ってしまった。一先ず1万渡すから、美容院で整えてくれ」
「ぇ、で、でも……」
「気にするな、経費で落とす」
――彼女が走って逃げてく。
よかった、怪我も無いようだ。
「ちょっと、何――っ、アンタ、もしかして転学生?」
「だったらどうする」
私は今、侮蔑や敵意の眼差しで、可憐で醜い素顔を見ている。鳶尾暉を、ギロリと見ている。
なのに、こいつは。
「キャハハハッ、やっぱ噂通りじゃん! アンタも“メーカー”なんでしょ、今の。ねぇ、アタシの“友達”にならない? ほら見てよ、アタシと一緒にいた2人、炎にビビって逃げちゃったぁ」
「遠慮する」
「やっぱりぃ、“特別”なアタシには相応の、“特別”じゃないとダメなのよぉ。……訊くのも馬鹿馬鹿しいけど、アタシが誰かは知ってるでしょう? ねぇ、友達にしてあげるわよ」
「遠慮する」
「……CM契約数3本、デビュー単曲週間1位。SNSのフォロワー数、急上昇ランキングも1位。明後日発売されるファッション誌、週刊漫画雑誌の表紙。それと動画を観てると出てくる、スキップ出来ない広告もアタシ。10代がなりたい顔、第1位。ブレイク中の超新星――鳶尾暉、アイドルよ」
「だからどうした。そんな肩書に吸い寄せられる、小蝿とでも話しているつもりか?」
“観撮”するだけのつもりだった。
けれど、こいつは今ここで――!
「鳶尾暉、“署名”しろ。お前の身体に宿る秘装は、大人が誓約書で管理するッ……!」
「――……うっざ」
燦然と、紫炎が踊る。
まだ私の手に握られている、ウィアードのナイフが汗を掻いて――
「やれるなら、やってみなさいよ。出来損ないの凡人がァッ!!」
燃える権勢と苛立ちの色。
銃口を抜けた弾丸や、ライター程度の熱量ならば。ウィアードで呑める、何度もやった。
けれど、こいつの秘装……!
果たして、勝てるだろうか。
いや――刺し違えてでも、やってやるッ!!




