第12話 偶像の裏顔
カリッと満月、新食感っ!
『明日の夜も、一緒に食べよ?』
“満月キャンディ”、お菓子売り場で!
――アッシュグレーの長髪を振り、鳶尾暉が眩くニッコリ。
って――
「……初めて見たぞ」
「え、ちょ、ウソでしょマジマ!?」
スマホ画面の鳶尾さんに、細かな翌檜さんの飛沫が。
「キミ、声が大きいぞ……」
「しーっ」と人差し指を立て――うん、そうやって、一旦大人しくしてくれ。
……全く、ただでさえここは狭いってのに。
こうして亨さんに発注して、ブルーシートで作ってもらった、擬態ホームレス風テントが、バレてしまったらどうするつもりだ。
今の役目は“観察”――いや、“観撮”と言えば適切か。
苛めの決定的瞬間を、用意したビデオカメラに収める。不要な接触なんて厳禁だ。
と、一泊間、置いた所で。
翌檜さんが「だってでも〜」と。
「ガチでCM、見た事無きに? SNSで神バズってるし? てかもう“満キャ”も存じてないって、同じJKか訝しみ?」
「口調が変だぞ。そんなにか」
翌檜さんのスマホに映る、真ん丸ころっと満月キャンディ。少し大き目の円月は、本物にそっくりだ。
……“飴玉”、か。
「……ほっ、と」
何かと見つめる翌檜さんの、その目の前で創造概念を練って――うん、球型は上々。満月よりも、やや小さく。
それに概念を少し歪めて、雑味で色を施したら――よしっ、完成だ。
我ながら、マニアック。
「ふふっ、見ろ。純国産、“冥王星キャンディ”だ」
「おー!……そんな星、あったっけ?」
「星ではある、ベンチウォーマーさ。尤も、地表は極寒地獄らしいが――ん、誰か来たっ」
やや日が傾き初めた景色に、とぼとぼ独りやって来た。
柚子原高のブレザーを着た、髪の長い女の子。
公園内の遊具に近付き、隠れるように留まって。
……ここから目測、30m。よし、録画開始。
柚子さんからの情報通り、あの娘が被害者の生徒か。
と、すると――あぁ、やって来た。
今さっき見た、清純派。
私と同じ制服姿で、髪を靡かせて……綺麗だな。
顔立ちも、流石の偶像。
可愛い、美人、端正、精緻。数撃った下手な鉄砲が、悉く当たる無欠振り。
そんな鳶尾さんが今。取り巻きを2人侍らせて、
「あれぇ? ちゃんと来てんの、偉いじゃない!」
獲物を前にして、喋り出す。
「アンタ、ここにいつ来たの?」
鳶尾さんの質問に、被害者生徒はおどおどと。
「ご、5分前ぐらい……」
「……はぁ?」
瞬間、鳶尾さんの右膝が――
「キャハハハハッ! そんなに痛がんなよぉ? つーかアタシのマネージャーなら、10分は前に来てるんだけどぉ?」
腐ってるな。
飴玉齧って販促してた、こいつが同一人物とはね。
「……抑えろよ」
ギリギリ歯軋りを鳴らした、隣りに屈む翌檜さんへ。
……今にも飛び出して、ライオットで八つ裂きにしそうだ。
「ねぇ、このまま、見てるだけ……?」
翌檜さんの問い掛けに、「そうだ」と短く言い渡し。
「公園の鳩を眺めるように、無心で今は観てるんだ。キミのお人好しは分かる。安心しろ、見てるだけだが、見捨てない。現役アイドルの苛めなんて、相当深手のスキャンダル、この映像でイチコロさ」
それにしたって、胸糞悪い。
やっぱり一発ブン殴ってやろ――
「きゃ!?」
被害者の声っ。
ッ、アレは――、あの輝きは――!
鳶尾暉の頭髪が、両手が紫色の炎に!
妖艶と揺らぎ、燃え盛っている……!
前言撤回、最悪だ。
鳶尾さんの手繰る秘装、よもや“炎”の力だなんて……!
ブン殴るなんてトンデモない。
“ウィアード”が、溶かされる。
“熱”を孕んだ揺らめく秘装。
私じゃ、多分――あいつに勝てない……!




