第11話 午後の幕間
「え、うん、そうだけど」
柚子さん、全く悪怯れもせず。
「不味かった? 美味しくない?」
「いやそうじゃない。キミ、人肉コトコト煮込むタイプだろ」
「え、っと、どういう意味?」
「あー、何でもない。それにしても、まさかメーカーだったとは……。あぁもう、食べた後じゃないかぁっ!? 一応訊くが、毒なんて――」
「ああ、大丈夫。体調崩した人は、今まで1人もいないから。寧ろ私の“ファシネイト”、みんなが食べたがるんだよね」
「……なる程」
黄色の秘装――柚の植生、“ファシネイト”。
確かに、いくら魅力的とは言え、私がその場で丸齧りなんて。人を惹き付ける力があるのか……。
悪性ではないかもしれないが、柚子さんの署名も後で貰おう。
「あ、話の途中でゴメン! 柚子さん、柚のおかわりある!?」
翌檜旭、キミって奴は……。
「うん、いいよ。まだ余力あるから」
「本当!? じゃー、あろまろの分も――」
「ストップだ。そんな事よりも」
乱れた現場を立て直すよう、2人の注目を集め。
「柚子さん、ここに来た目的は? まさか柚のお裾分けに、わざわざ来た訳じゃないだろう」
私の投げた問い掛けに。柚子さんは軽く頷いて。
「……実は、相談があるの。先生は当てに出来ないから」
一泊間を置き、柚子さんは。
「私のクラスで起こってる、イジメ――ううん、カツアゲを。出来れば、やめさせてほしいの」
「……実行犯は?」
「同じクラスの、女の子。メディアでアイドル活動してる――1組の、鳶尾暉さん……!」
「ぇ、いや、そう言われても……」
掃除も終えた放課後に、艶のある息遣いが1つ。
翌檜旭、その呼吸。
それとは別に、もう1つだけ。
「ぁ、やっぱり、ダメだよなぁ……?」
別のクラスの、男子生徒。
名前は――あー、出て来ない。
「あ、いいんだ、忘れてくれ。突然、“胸を触らせて”なんて。そんなの、普通は嫌だよな……?」
そりゃそうだ。
翌檜さん、ブッ飛ばせ。
その為にあるぞダイナソー。
「――でも、命令、なんだっけ? なんてーか、その、やんなきゃマズイ事になんの……?」
は?
翌檜さんの惑う声音。
すると男子は、頷いて。
「やんなきゃ、もっとヤバいかも。俺、そいつらに部費取られちゃって。でも、女子の胸触って来れば、それで許してやるよって……」
「ぅぇ、そ、それであたし……? ん〜……」
数秒、悩み上げた後に。
「ぅん、おっけ……」
えぇー。
タダでさえ弛い胸元を、翌檜さんは更に開いて。
含羞の滲む、声色で。
「こ、こんなカンジ? で、だいじょーぶ、かな……?」
「え? あ、お、おう。それじゃ、ぁ、悪いな。今度、なんか奢るから――」
男は、みんな“狼”だって。
誰も教えてくれなかったのか?
――あぁ、もうっ!
「やっぱりバカなのか、キミはっ!」
男子が、それに翌檜さんが。ビクッとその身を震わせて。こっちを視認する隙に、
「ウィアードっ」
その厭らしい、男子の両手を飴で拘束、っと。
「うわ、何だよこの手錠!? つーか、お前、教室にいたのか!?」
「そうだ、教卓の裏にいた」
焦る男子を目の前に、こうして威圧する態度で。
「始終は聞かせて貰ったぞ。なーにが部費を取られただ、帰宅部に部費があるものか。これもお前ら男子がやっている、賭けの罰ゲームだろうが。それと胸ポケットのスマホ、動画は切っておくんだな。普通に犯罪行為だぞ」
「っ、いや、これはその……」
男子がガタガタ震え初めた。中古の洗濯機みたいに。
全く、仕様もない。
「……早く帰れ。もう二度と、企画するな。花の4月から“変態”なんて、吹聴されたくないならな」
って、ウィアードを解除してやると。
ぴゅーっと、逃げてった。
それを呆然と見送っている、翌檜さんを睨み付けて。
「キミは発育に反して、実に純粋な子供だな」
「あー、あたし、遊ばれちゃった?」
「未遂だがな。“押せば言う事聞きそう”なんて、一部の男子が言ってたぞ。本当に、キミって奴は――」
頭が悪い? やっぱバカ?
……いや、そうじゃないな。
「――お人好し、なんだ。無理なモノは無理、割り切れよ。……ほら、さっさと行くぞ」
「え、どこ行くんだっけ?」
おいおい。話を聞いた3日前、付いて行くって駄々捏ねたのは、キミの方だって言うのに。
内心、嘆息をしてから。
「学校近くの公園だ。鳶尾暉のカツアゲ現場を、直接糾弾しに行くぞ」




