第10話 毎日サウルス
「うっわ、マジこれヤバくない!?」
「…………」
4月22日、転学してから1週間か。
今の所、初日が一番のハードだったな。
“ミスチィフ”と“ブラッシュ”。
あれ以降、馬酔木さんも菜種さんも、悪さをしてる様子は無い。風紀アプリにも、情報は無い。
「大型ダンプに撥ねられて、異世界転生しちゃうとか! ひゃわー、何それゴン攻めじゃん……!」
「…………」
2人は落ち着いた、らしいな。
やはり、校則書は覿面か。文字通り、“力”を抑制出来るんだからな。当然と言えば当然か。
それに、私と“誓約書”。段々、噂に立ち始めている。
ちょっとした、その成果かな。
メーカー絡みと思しき話も、少しは鳴りを潜めたようだ。やはり学び舎は平和じゃないとな。
ついでにどっかのクラスから、メーカーが2人自首――じゃなく、自己申告で署名してくれた。
これで署名は5人分だっ。
「ぇ、ちょ、ちょっと待って……!? うっそ、チートで無双しちゃうの? ガチで世界最強じゃん……!? しかもS級ギルドでテンアゲ――……“ギルド”って、何?」
「…………」
それにしても、菜種さん。
署名の名前がめちゃくちゃ達筆。てか1人だけ筆文字って……ま、いっか。
……ところで、
「さっきからずっと――」
私の拠点で――
「五月蝿いぞっ!? キミ1人でぇっ!?」
「……あ、ゴメン」
3階、多目的室拠点。
木製のシックなソファが1つ。
横になれば仮眠も出来る、私の持ち込んだ物資だ。
それに横臥する、女子高生。
翌檜旭、毎日来てる。
あぁもう、キミって奴は!
いつでも来て良いとは言ったけど、昼休みの度、放課後も! こんなにこんなに毎日来るかぁっ!?
しかも日当たりの良い場所は、いっつも“あろまろ”が寝てるし。加えてコイツ、私が持ち込んだお菓子喰うし。躾がなってないぞ躾がぁっ!
「それよりもー! 見てこれ、ちょー斬新じゃない!?」
立ち上がった翌檜さんが、スマホの画面を――って、何だそれ。
「……話題のライトノベル?」
掲示された画面の前で、訝しげな顔をしながら。
「キミ、小説を読むのか」
「ううん、漫画ばっか。けど多目ってなんか落ち着くし、久々に読んでみようかなぁ〜って。あ、後この“悪役令嬢”も、“その手があったか!”ってカンジでよき!?」
今や擦り倒されてるよ……。
「あー、翌檜さん。ラノベも良いが、もっと大衆的なのはどうだ? 例えばこっちの、古典推理小説とか、SFショートショートとか……」
「えぇ〜。そういうのって、なんかハードル高そうじゃん? あたしだったらこっちの、『異世界に転生した俺は超Sレアスキル“住めば都”を使い、世界最強のチート魔導師になって悪役令嬢と婚約破棄 〜俺を追放した王国の奴らを死ぬほど後悔させてざまぁ〜』、とか!?」
「ぁ、ああ……。幕の内弁当の決定版って感じで、すごくいいと思うぞ。多分」
早口言葉かと思った。
そういえばここ、長居するなら本棚欲しいな。小さいラックでも置いて――
「お邪魔しまーす」
ん、ノックと同時に、客人か?
黒のセミロング、ややツリ目がちで、パッチリとした――……誰だ?
「あ、柚子さんじゃんっ」
翌檜さんの素早い反応。
「知り合いか?」って訊いてみると、翌檜さんは首肯せずに。
「1組の、柚子都さん、でしょ? ちょっとした有名人だもん。なんかいきなり“柚”くれる、鬼面白い娘がいるってさぁ〜!」
廊下で恐竜を散歩させてた、お前も大概物種だがな。
「うん、よろしくね」
落ち着いた様子で、柚子さんは。
「翌檜さんと、稲黍さん、だよね? 折角だし、よければはい、これあげる」
言いながら、掌サイズの柚を1つずつ。
……都立柚子原高校で、柚子さんから柚を貰った。
――凄く、美味しそう。
「んっ、美味しい!」
堪らず声に出してしまった。
香りも良いし、瑞々しい。それに皮ごと食べられるぞ、これ!
「柚子さん、ありがとう」
うん、素晴らしい出来栄えだ。
丸ごと1つ、食べ終えてから。
「この柚、実家で育ててるのか? それとも、裏庭にある柚の木から……とか?」
「はは、違う違う」
柚子さんが、軽く笑って。
「裏庭の大きな柚の木は、この学校のシンボルだから。勝手に取ったりしたらマズイって。まぁ、どっちかと言えば実家、かな」
? どっちかと言えば?
「――ファシネイト」
え、柚子さん、ブレザーの裾から――黄色い枝葉がメキメキ伸びて……。
そこに、あれよと見事な柚が――
「――っぁ、なぁあああああああ!?」
こ、こいつ、柚子都さんっ……!?
「自分から出た柚の果実を、他人に食べさせているのかぁっ!?」




