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統める世界

作者: ぶどう屋

 世の中は弱肉強食だ。すべてのものは食う側と食われる側に分けられる。

 彼は食う側の人間だ。初めて会ったとき、すぐに分かった。


 彼との出会いは偶然に満ちていた。たまたま僕が仕事を探している時期で、たまたま知人に声をかけられて、たまたま一緒に食事をすることになったのが彼だった。

 食事の場での彼は、とても丁寧な人という印象だった。きちんと挨拶してくれたし、よく周りの人の話を聞いていた。でもその目はどことなく鋭くて、おっかなかった。それがなんとなく気になって、僕は「二軒目、行きませんか?」と彼だけを誘った。彼は少し驚いていたけれど、「いいですね」と頷いてくれた。

 そして二人だけで喋ってみて、僕は、彼が食う側の人間であることを知ったのだ。


 食う側の人間というのは、つまり強者ということだ。人を導き、支配することのできる者。良くも悪くも、人の上に立てる者。

 彼には、彼の思う世界がある。それが絶対的正義ではないと分かったうえで、彼はその世界を広げ、人を巻き込み、王として君臨している。

 彼の世界では彼の言うことは絶対で、彼が拒めば入ることすらできない。けれど、彼の世界はひどくあたたかい。無茶苦茶な要求はあっても、悲しいことや嫌なことは起こさない。むしろそういったものから守ってくれる。彼は食う側で、強くて鋭くて残酷だが、一度彼の世界に迎え入れたものには深い愛情を示してくれる。

 彼は愛情深い人だ。だから僕は、彼と仕事をすることにした。


 彼との仕事は確かに手ごたえがあった。しかしなかなか金にはならず、順調とは言えなかった。それでも嫌にならなかったのは、僕が彼を信じていたからだ。彼の作る彼の世界が正しくて、面白いものだということを、僕は心の底から信じていた。もっと世間に知ってほしかった。彼の要求には必ず応えたし、彼の満足そうな顔が嬉しかった。

 彼のことを信じ続けていたら、少しずつ評価されることが多くなって、気が付いたらたくさんの人に認めてもらえるようになった。もちろん嬉しいことだ。夢を実現できるなんて、そうそうあることではない。

 でも一番嬉しいのは、彼がずっと、僕を必要としてくれていることだ。彼は僕のことを叱ったり馬鹿にしたりしながら、絶対に捨てようとはしない。それほど彼の世界に貢献できる必要不可欠な存在になれたということが、何より嬉しくて誇らしかった。


 世の中は弱肉強食だ。

 彼は食う側で、僕は食われる側だ。

 でも僕は、彼に食われて良かったと思っている。


 心からの感謝と愛を、彼の統める世界に。



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