スキル「全裸なら防御力999」で美少女魔王に勝つ!……つもりだったんだが
魔王討伐のため、勇者・戦士・魔法使い・僧侶が王宮に集められた。
勇者はさらさらヘアーのイケメン。
戦士は屈強な筋肉男。
魔法使いはおじいさん。
僧侶は坊主であった。
彼らを招集した国王は、玉座の間に轟く声でこう告げる。
「魔王討伐に際し、今から全員にスキルを付与する!回転式ルーレットにダーツを投げ、当たったところが付与スキルだ!」
何ともパーティーピーポー的なノリのスキル付与イベントである。
兵士らがガラガラと運んで来た、カラフルなルーレットマシンが目に眩しい。
色分けされた円を眺め、勇者はこう思った。
(今回の魔王は強い……やはり、スキル〝二刀流〟が欲しい)
戦士はこう思った。
(強敵相手には……「スキル〝カウンター〟。やっぱりこれだぜ!」)
魔法使いはこう思った。
(やはり〝MP自動回復〟じゃよ……これで若人の足手まといにはならんぞ!)
僧侶はこう思った。
(パジェロって……まだあるんだ)
まず、僧侶にダーツが与えられた。
「パジェロ!パジェロ!」
軽快な声が飛ぶ。僧侶は持ち前の集中力でダーツを放った。
ドスッ。
僧侶はパジェロが当たった。
次に魔法使いにダーツが与えられた。
もうパジェロがなくなったので、軽快な声は飛ばない。魔法使いはちょっと寂しかった。
ドスッ。
魔法使いにはスキル〝たわし無限増殖〟が付与されることとなった。
「……まあ使えるじゃろう。掃除とかに」
三番目に戦士にダーツが与えられた。
パジェロとたわしがなくなると、本当にルーレットというものは盛り上がりに欠けるものである。
しかしやる側としては、これほど心強いことはない。ハズレスキルはもうないのだから──
ドスッ。
戦士にはスキル〝ちから+100〟が与えられた。
凄く普通。戦士だけはガッツポーズをしているが、場は白け返っている。
最後に勇者が射止めたのは──
ドスッ。
スキル〝全裸なら防御力999〟
「どーしろっつーんだよクソがああああああ!」
勇者の雄叫びが青い空に轟く。
三菱パジェロに乗り込んだ一行は、一直線に魔王城に向かっていた。
パジェロは舗装していない悪路でもガンガン進む。流石はあのジャッキー・チェンも所有していたというジープ型日本製スポーツカー。僧侶の華麗なるドライビングテクニックも加わり、砂地も曲がりくねった山道も毒の沼地もへっちゃらだ。
「脱げ、勇者」
「ふああああ!?」
「幸いにも、我々は男だけのパーティーだ。不都合はない」
「せっかく大冒険の末に手に入れた勇者装備一式は無駄か!?」
「まあまあ勇者よ。あれだ、人目につくところでは勇者装備を纏い、魔王城では脱いでしまえばいいではないか」
僧侶に説き伏せられ、勇者はくやしげに口を結ぶ。
「くっ……仕方ない」
「……大丈夫だ、勇者」
筋肉戦士が語りかける。
「俺は今までの腕力に、更に100ポイント上乗せされたんだ。お前のためにこの力を用立てるから、安心しろ」
「戦士……」
勇者は何か考え込むように車窓の外を眺める。
「……分かった。お前たちを、信じる」
魔法使いの老人は思った。
(青春じゃあ……ええのぉ)
一方その頃、魔王城では──
玉座の間にて、魔王が待ち構えていた。
この魔王──まだあどけない少女である。
年は100を優に超えるが、人間と年の取り方が違うので、外見は随分と若い。羊の角を生やし、豊かなストロベリーブロンドを肩になびかせ、少女は不敵に笑う。
「父と姉はかつて勇者一行に成敗されたが……私は違う!」
凄い勢いで走り来るパジェロを窓から見据え、魔王は叫ぶ。
「必ずや、先代の仇を取ってやる!」
パジェロは魔王城の屋上駐車場に停まり、勇者一行は「玉座の間はこちら」と書かれたお客様専用通路から潜入を開始した。
屋上からなら、すぐに玉座の間へ行ける。
「戦士」
勇者はそう言って振り返った。
「事前に相談していた通りに、頼む」
「おうよ。俺の腕力、見てろよ!」
「僧侶、君はここでお役御免だ」
「あ、はい」
「魔法使い、たわしの用意はいいか?」
「たわしなら任せろ!」
「いざ、決戦だ!」
勇者と戦士で先陣を切り、玉座に向かって走り出す。
美少女魔王は迎え撃つべく立ち上がった。
「くくっ、馬鹿め。貴様たち程度の装備では……!」
そう嘲りつつ、強力魔法の詠唱を開始するや否や。
「戦士!!」
勇者の怒号と共に、戦士がその絶大な腕力で勇者の装備をまっぷたつに引きちぎった!
そこに大量の火柱が襲いかかる!
「くくくっ……あははは!私の勝ちよ!」
美少女魔王が高らかに笑った、その刹那。
もうもうと立ち上がる黒煙の中現れたのは──
全裸の勇者。
「いやああああああああああああ!!」
魔王は慟哭した。
しかも、あられもない勇者の肢体には、傷ひとつついていない。
「ふ、ふぐっ……ば、馬鹿なッ。この私が負けるわけなんかないわ!」
魔王が更に攻撃魔法を仕掛けようと詠唱を始めた、その時。
「無駄だ」
勇者がいつの間にか音もなく魔王の目の前までひたりと迫り、そう告げた。
「俺の防御力は、全裸時に限りカンストする」
「あ、あんた頭おかしいんじゃない?自分が何言ってるか分かってるの……!?」
「俺にも何が起きているのか良く分からない。王宮でルーレットダーツをしたら、スキル〝全裸なら防御力999〟が当たったのだ」
「おぞましい人間どもめ……」
「気持ちは分かる」
「滅ぼさねばならない……」
「俺もね、一瞬そう思った」
「ん?ということは……」
「そうだ。防御力がカンストしているから、俺が全裸である限り、君は俺を倒せない」
「!!」
「そういうわけだ、魔王。負けを認めろ」
「そっ、そんな……!」
魔王はその場にへたり込んだ。
それからじわりと涙をこぼす。
「私、認めないわ!魔王ともあろう私が、全裸の男に敗北するなんて……!」
「ホントだよな。とりあえず、負けを認めたら許してやろう」
「今すぐ服を着なさい!そうすれば、私の魔法で一発でやっつけられるんだから……!」
「そうだなあ、服を着て欲しければ、ひとつ約束してくれ」
「え?」
「一目惚れをした。結婚してくれないか」
「……!そ、それって……」
「そして全裸で彼女の部屋へ入った。それが、お前の母さんとの馴れ初めだ」
勇者はたわしで半裸の体を乾布摩擦しながら息子に告げる。
「へ、へーえ」
息子もたわしで乾布摩擦しながら半笑いで応える。
二人の足元の段ボールの中は、魔法使いから毎年届くたわしでいっぱいだ。
「また次の魔王が現れたらしい」
「!」
「息子よ、王宮へ行け。ルーレットが始まる」
勇者の息子は首を横に振った。
「い……嫌だ!全裸かパジェロかたわしが当たるかもしれないなんて……!」
「先に言っておこう。次の魔王は男だ」
「ひえっ。しかも救いがねぇ!」
「しかし我が国の王が、最強スキル〝関口宏〟の持ち主だったとはな……」
「何だよそれ、知らねーよ!と、とりあえず……俺は魔王討伐なんか行かないぜ。ここでとーちゃんかーちゃんとのんびり暮らすんだ!」
「そうは言ってられん……もう来たぞ、奴らが」
勇者がそう言った、次の瞬間。
「おい、ルーレットだぞ!」
「旅に出るんだよ!」
「おじゃましまーす」
例のカラフルなルーレットマシンが兵士らの手によって家まで運び込まれた。勇者の息子は震えている。
「いっ、嫌だ……嫌だ!」
「大丈夫ですよ勇者様。パジェロをランドクルーザーに変えておきましたから、次の魔王城まで前より楽に行けると思います!」
「そこじゃねえええええ!!」
勇者の息子はルーレットマシンの文字列に目を走らせる。
スキル〝なすを揚げても油はねしない〟
スキル〝どんこの水戻しスピード20倍〟
スキル〝ゆで卵の黄身が偏らない〟
スキル〝あさりの砂抜きが一瞬で〟
「清々しいまでのクソスキルしかねぇ!しかもよりによって料理に特化してやがる!」
「〝オリーブオイル無限増殖〟なんかを狙ってみたらどうだ?」
「これでどうやって魔王を倒すんだよ!」
「まぁまぁ……とにかくやってみろって」
勇者の息子はやけくそになり、震える手でルーレットにダーツを投げ入れた。
ドスッ。
スキル〝鍋奉行〟
「いらねえええええ!!」
お読み頂きありがとうございました!
こちらは拙著
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「強くてニューゲームなら男でもビキニアーマーが着られるって言うから」
の続編になっております。
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