第3話 10年前
連絡を受けた黒翔はすぐにバイクを走らせた。移動中も彼は仲間たちのことや自分の次の任務のことについて考えていた。
——あいつらがあんなこと言うまでになるなんてなぁ。年が近いとはいえ親のように嬉しい気持ちもあるな。だけど雨霧はちょっと浮かない顔してたな。あいつは頭いいしどこに行っても上手くやれそうな気はするが...まぁあいつでも不安に思うことはあるか。それと気になるのは長官の言葉だな。高校教師になれだとか言ってたがどういうことだ?まぁすぐにわかるか
黒翔があれこれ考えているうちにすぐに都心の総本部に到着した。黒翔はバイクを止めた後九重長官補佐の部屋へ向かった。
「失礼します。黒翔...」
——あれっ今の俺の階級って何なんだ?対策隊に入ってからは第4部隊隊長としてしか活動してないしそもそも俺はどうして最初から隊長だったんだ?今はそんなこといいか...
「黒翔弾です」
「入っていいぞ」
——九重さんと話すのは久しぶりだから緊張するなぁ。この人は“デキル女”っていう言葉が一番似合う人だと勝手に思ってるから余計にだな
九重八尋長官補佐は対策隊の数少ない女性隊員の中で最も優秀だと言われている。戦闘能力も高く常に冷静で司令官としての能力も高い。隊員や長官からの信頼は厚いが、表情を一切変えないので恐れられているという面もある。
「長官から少し聞いているだろうがあなたの次の任務についてよ。あなたには教師となって高校に潜入しある生徒を守ってもらうわ」
——ははは、ほんとに教師になんのかよ...それにある生徒を守るってどういうことだ?
「本当に教師になるんですね。それである生徒って誰なんですか?上層部のお子さんとかですか?」
——それしか思いつかないな。それだったら俺はSPになるのか?
「いいえ、違うわ。白凪一乃という生徒よ」
「白凪一乃...?」
——全く聞いたことがないな。苗字にも聞き覚えがない
「あなた10年前の事故は覚えてるよね?」
「えっ急に何ですか? .........忘れるわけがありません。あそこから俺の、俺たちの人生が変わったんですから...」
10年前神戸で発生した大規模な爆発事故により多くの人が犠牲になった。この事故は彗術研究所内での実験中の不慮の事故だったと発表されている。黒翔やその両親また大門や雨霧など元第4部隊隊員とその家族は当時研究所見学ツアーに招待されており、事故に巻き込まれてしまったのだ。たまたま別の場所にいた子供たちは全員無事だったが、子供たちの両親は全員命を落としてしまった
「それでその事故が今回の任務と一体何の関係が?」
「あなた、その事故のこと詳しく調べていたわね」
「ええ、自分の両親が死んだ事故ですから調べて当然です」
——いろいろと気になる点が多かったからな
「じゃあ公表されていないことも少しは知ってるってことね?」
「そうですね」
——まだまだ分からないことは多いが...
黒翔は気なったことはすぐに調べたいという性格である。10年前の爆発事故に関しても対策隊に入る前からひっそりと調べていたのだ。だがセキュリティが固く全てを調べることはできなかった。わかったことはある人が実験台にされていてその実験台が事故のきっかけだったということぐらいである
「じゃあ実験台にされていた人がいることも知っているのね。その実験台にされていた子が白凪一乃なの」
——なんだとっ...!そういうことだったのか。いやだが待てよ。俺が見た資料では...
「俺はその子は爆発事故で亡くなったという資料を見ましたが...」
「まあそうでしょうね。あの子は死んだことにしたのよ。生きていることがばれると狙われる可能性があったからね。それほどあの子には特別な力があるのよ」
——生きていたのか。しかしそこまでするとは。一体...
「その特別な力ってどんな...」
「彗術の暴走よ」
「暴走?」
「ええ。彼女は精神的に大きなダメージを受けると彗脈に流れる彗力が異常に活性化し、それが暴発して大規模な爆発を起こしてしまうのよ」
——そんな力があるのか。ということはあの爆発事故もこの力が関係してるってことか
「実験中に精神的にダメージを負うような出来事があったってことですね?」
「そうなるわね。相当大きな出来事でないと爆発は起きないはずだからよほどのことをされたんでしょう。詳しくは私もわからないけどね」
「なるほど大体のことはわかりました。ですが亡くなったことになっているのであれば我々が必要以上に監視する必要はないのでは?もちろんその子の力を暴走させないように配慮する必要はあると思いますが...」
「それがそうも言ってられない状況になったのよ。白凪一乃の情報が漏れた可能性があるの。ついこの前確保した佐渡組の組員から聞いた情報なんだけど、特別な力を持った人間の情報が裏で高額で取引されているらしいのよ。それが白凪一乃のことがどうか定かではないけど、可能性はあると言えるわ」
——そんな重要な情報が一体どこから漏れたんだ...
「それで俺に白凪一乃を守れと、そういうことですね。それなら俺は生徒としての方が良いのでは?俺はまだ19ですし」
「いや生徒だと活動が制限されるからね。それに潜入するのはあなただけではない。生徒として潜入する隊員もいるわ」
——いや俺に教師役なんてできるのか?生徒役の方がやりやすかったな...
「わかりました。なんとか任務を遂行します」
「あなたには親の仇のような子を守ってもらうことになるけどちゃんと守れる?」
「いや俺は白凪一乃のことを親の仇だとは思ったことはありません。彼女は捕まって実験台にされただけですし。実験内容もひどいものだったと読みました。むしろ彼女は俺たちと同じ被害者です」
「そうか。わかった。じゃあ頼むわよ」
「了解」
新たな任務の内容を聞かされた黒翔は不安を抱えながらも任務を遂行することを決断した。これから黒翔の波乱の教師生活が始まる
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