第1話 通達
佐渡組制圧作戦が終了し彗術犯罪対策隊第4部隊と第2部隊は総員本部へと帰還した。黒翔は指示通りに長官室へと向かう
—あいつらのためにも長官にははっきり言わないとな。このままじゃ俺たちはまともに活動できない...
黒翔は決意を固め長官室のドアをノックした
「失礼します。第4部隊隊長黒翔です」
「入れ」
「お疲れ様です。長官」
「ああ、任務完了ご苦労だったな。佐渡源蔵は取り逃がしたが戦力をそぐことはできただろう」
「そのことでお話があります」
「なんだ?」
黒翔はこれまでに長官に面と向かって意見を言うことはあまりなかった。黒翔に緊張が走るが言葉を続ける
「今回の作戦第2部隊を待つ必要はやはりなかったのではないですか?第4部隊だけで早急に制圧していれば佐渡源蔵を取り逃がすこともなかったはずです」
黒翔は言葉を絞り出すようにして話した
「それは結果論にすぎんな。お前らだけで突入したところで佐渡源蔵を捕らえられていたかどうかなんてわからないだろ」
「ですが...これからもこのような状態が続けば第4部隊はまともに活動できません。もう少し我々第4部隊のことを信用していただけませんか?」
「それはもう意味のないことだ。私の話を聞けばわかることだが...」
「えっそれはどういうことですか?」
黒翔は長官の発言に疑問を感じずにはいられなかった
「私がお前を呼んだのはその第4部隊とお前の今後のことを話すためだ」
「はあ...」
黒翔はこの時嫌な予感がしていた。これから最悪なことを言われるような、そんな予感が。長官はそんな黒翔の様子を無視するかのように話を続ける
「今回の彗術犯罪対策隊幹部会緊急会議で第4部隊の解散が正式に決定した。第4部隊総員はお前を除き明日をもって戦闘武具整備部門へと移動とする。後で各員に伝えるように」
—なんっだと...!
黒翔に衝撃が走る
「ちょっと待ってください!いきなり何言ってるんですか!解散なんてそんなのいくらなんでもやりすぎでしょ!」
「すまんがこれはもう決定事項だ。覆ることはない」
「納得できません...俺たちが孤児院の出身だからですか?そんな理由だとしたら横暴が過ぎますよ!」
「いやそれは直接的な理由ではない」
—だったらどうして、、、まさか...!
「今回の作戦が失敗したからですか?俺たちに落ち度はなかったはずですよ!長官だって仕方ないとか言ってたじゃないですか!」
「だが失敗したという事実は変わらんだろ」
—いやいや待て待てこんなことがあっていいのか。そもそもなぜ第4部隊だけが処分を受けなければならない...
黒翔の中で疑問点がいくつも浮かび上がる
「では第2部隊はどうなんですか?」
「第2部隊は1週間の活動停止処分だ」
—は?なんだその取ってつけたような処分は。大体任務を失敗したからと言ってこんな重い処分がくだるなんて聞いたことがない。ん?ちょっと待て第2部隊があんなに到着が遅かったのは...!
黒翔の中で激しい怒りがこみあげてくる
「第2部隊に到着を遅くなるように指示を出していたんですか?」
「そんなことはしていない。するはずがない」
「だったらどうしてあんなに遅かったんですか!」
「途中で組員と対峙したと報告を受けている」
「そんな...」
「とにかく第4部隊は解散だ。これ以上言い争いをしても何も変わらん。何も除隊させるわけではない。全員整備部門に移ってもらうだけだ。」
「整備部門は専門的な知識を必要とする部門です。あいつらはこれまで戦闘訓練しか行ってきてません。戦闘でしか活躍できませんよ!ついていけなくて辞めるのは目に見えてますよ...まさかそれを狙って...!」
「自分の隊員たちを信用していないのか」
「そうではありません!あいつらのことを一番理解しているということです」
「まあとにかく何度も言っているがこれ以上の言い争いは無駄だ。今日中にお前以外の隊員に伝えておくんだ。いいな」
—あいつらになんて伝えればいいんだ。俺だってこんなの納得できないし、あいつらはもっと納得できないだろう。それとさっきから気になっていることがある...
「先ほどからお前以外は、と何度もおっしゃっていますよね?俺は整備部門に異動ではないのですか?俺は責任を取って除隊ということですか?」
「そうではない。お前には別の役割を与える」
「別の役割?」
「ああ、お前には高校教師になってもらう」
「は?」
第1.5話 一日の終わり
長官の思わぬ言葉に黒翔は驚きと戸惑いを隠せない
「一体何をおっしゃっているのですか?理解が追いつきません」
「言葉が足りなかったか?お前には高校教師となってある生徒を守ってもらう」
「ある生徒?」
「まあ今日はもう遅い。詳しくは明日九重から聞いてくれ」
九重とは長官の側近である九重八尋のことである
—もう正直何が何だかわからない。ただこれだけはわかる。今の対策隊は信用できない。こんなことなら
「はっきり言って今の対策隊は信用できません。俺はもう除隊させて...」
長官が黒翔の言葉を遮る
「本当にいいのか、それで。紫山副長官の恩をわすれたわけではないだろう」
彗術犯罪対策隊副長官の1人である紫山仗助は黒翔や他の第4部隊隊員にとって恩人である。黒翔たちが孤児院にいたころ行く当てのない彼らを引き取り対策隊隊員として育ててくれたのだ。黒翔にとって彼は自分の未来を救ってくれた人物であり、最も尊敬する人の1人なのだ
「お前がここをやめれば紫山副長官の恩をあだで返すことになるぞ」
—確かにあの人には返しきれない恩がある。悔しいが長官の言うとおりだ。ここでやめるわけにはいかないか...
「わかりました...では失礼します」
「ああ」
長官室の扉を閉め黒翔は思いつめた表情で部屋を後にする
—結局大したことも言えなかった。あいつらを守ってやれなかった...こんなことになる前に手を打つべきだった。本当にすまない...みんな...
「黒翔!」
「紫山副長官...」
「すまなかった。お前たちを守ってやれなかった...解散に反対したのは俺だけだったんだ」
「いえ、紫山副長官のせいではありません。すべて自分の力不足です。拾っていただいたのに申し訳ないです。反対してくれてありがとうございました。」
「いいか、これはお前のせいではない。幹部会の奴らの頭が固すぎたんだ。だからお前が責任を感じる必要はない。わかったな」
「ですが...」
「とにかくもう今日は休め。」
「すいません...」
こうして嫌な一日が終わった。黒翔は複雑な思いを抱えながらベッドの上で眠りにつく。