■後編
結果を先に言えば、俺はアシスタントをクビになった。
年齢が年齢ということもある。代わりの若い子なら幾らでも居ると言われてしまえば、こちらとしても返す言葉が無い。入賞歴でもあれば、まだ今後の可能性を信じてもらえたかもしれないが、無いものは無いのだから仕方ない。
食い下がる気力も体力も残っていなかった。きっと先生は、いつまでも芽が出ない俺を制作チームから外すべく、手薬煉引いて待っていたのだろう。そこへ来て、お誂え向きに大寝坊の大遅刻をやらかしたものだから、これ幸いと思ったに違いない。
急に暇になってしまった俺は、ママ友たちがマウンティング合戦をしている昼の公園のベンチで、あの人はホームレスではないかという噂話の提供元になっていた。ボサボサ髪で無精髭を生やし、オマケに着古したシャツとジーンズを身に帯びているのだから、否定しようにも説得力はない。
もう限界だ。大都会の水は、俺には合わなかったんだ。
ヒシヒシと世知辛さが身に染みた俺は、スマホから実家の電話番号を探し出し、その姿勢で一分間ほど悩み、躊躇に躊躇を重ねた上で意を決し、震える指でタップした。
「好きなキャラクターは?」
「ブラックジャックと次元大介」
「よかった、本人なのね。ちっとも連絡を寄こさないから、心配してたわよ」
詐欺除けの秘密の合言葉を言ったあと、俺は新幹線代を借りたいと申し出た。
お袋は、それで全てを悟ったのか、何も聞かずに承知してくれた。だが、そのあとに小一時間ほど世間話に付き合わされた。
「まっ、そっちは時々刻々と街並みも流行も変わってるでしょうけど、こっちは十年一日ってわけなのよ。大した喜びも無い代わりに、大きな悲しみも無かったから、安心なさい」
「そう」
「それでね……」
「あのさ。そろそろ充電が切れるから、もういいかな?」
「あら、ケータイからだったのね。早く言いなさいよ。それじゃあ、また近いうちに」
「あぁ。また、あとでな」
このあと、荷物をまとめたり、耳の遠い大家に声を張って御礼を言ったり、役所に届け出を出したりと、なんのかんの色々と雑多な手続きを踏んだのち、事務所をクビになってから一週間後に、俺は生まれ故郷へと帰ることが出来た。
一刻も早く社会復帰すべく、荷物を置いてすぐに行った役所で、俺は幼馴染のミサキと予期せぬ再会を果たし、それと同時に、記憶の底に眠っていた古い約束を思い出すのだが、その話はミサキに任せることとする。