表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

■前編

 中途半端な才能なら、持って生まれない方が幸せなのではないか。

 そう考えるようになったのは、アシスタント歴が三年を超え、二十五歳を過ぎた頃だっただろうか。

 高校時代に美術部で顧問にチヤホヤされ、そのまま調子に乗って画塾に通い、首都圏にある芸術大学へ進学した。

 そこまでは、まぁまぁ順調だったし、何とかなると思っていた。

 だが、現実は甘くなかった。


「うー。もう、こんな時間か……」


 スマホのアラームを止め、電灯からブラ下がるズボラ紐を引くと、万年床の周りに見えてくるのは、中古で買った指南書に、飲み干した発泡酒の缶、埃だらけの充電ケーブルと、残高三桁の預金通帳。

 鉛のように重い身体に鞭打ち、適当に洗顔と髭剃りを終えたあと、パジャマ代わりにしている高校時代のジャージから、洗い晒しのシャツとジーンズに着替え、風通しのいい財布と鍵をポケットに入れ、師事している先生の自宅兼事務所へと向かった。

 身動きが取れないほどの満員電車に揺られ、人波を掻き分け、ようやく職場に辿り着くと、作業場では先生の担当編集者が待っていた。応接テーブルの上の灰皿には、山のように吸い殻が積み重なっている。


「アシスタントさん。先生が中国語の勉強に行かれてるようですので、貴方に伺います」

「な、な、なんでしょう?」

「絶賛連載中の歴史コメディー『国破れてシャングリラ』ですが、まさか、まだ原稿が出来てないなんて言いませんよね?」

「す、すぐに確認します」


 沈黙による気まずさを避けるのと、眠気覚ましの意味合いとで流しっぱなしにしてあるテレビでは、タピオカに代わる新流行スイーツを紹介しているが、こちらには煎餅と梅昆布茶くらいしかなく、なんともショッパイ限りだ。

 腕を組み、貧乏ゆすりをしながら、苛立たしげに煎餅を齧る編集者のご機嫌を横目で伺いつつ、先生の机の上にある原稿用紙の中から『国破れてシャングリラ』を出版している会社用の原稿用紙を選り分けると、なんとかネームだけは揃っていることに気付いた。俺は、首の皮一枚で助かったとホッとし、それを揃えて自分の机に持って行くと、さっそく枠線や背景を描き入れはじめた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ