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第4話 演劇という名の非日常 前編

相変わらず不定期更新甚だしいですが、4話です。

1、2週間に1度は更新してる(はず)なので、見捨てずに見てやってください(土下座)

 元々私には演劇部に入るつもりなど、実はこれっぽちもなかった。

 新の言うように中学で演劇部に所属していたわけでもなく、かといってどこかの劇団で子役として活躍していた経験があったわけでもない私にとって、演劇部なんて、最早何をしているの想像すらできない、全くの未知の世界だったのだから、そもそもの選択肢に入ってこなかったのも当たり前というものだろう。


 さらにそもそもの話をしてしまえば、「高校に入ったら青春がしたい」なんて漠然としたことしか考えていなかった当時のアホな私が、そんな、部活はどうしようなどという具体的な悩みを持っているはずもなく。

 ようやく私が少しだけ我に返り、部活などの具体的な高校生活での身の振り方について考え出し、そして演劇部に出会うことになったのは、入学後にあったとあるイベントがキッカケだった。


 入学式のあったその週の終わり、土曜日の1限から4限までをぶち抜いて大々的に私達を待ち構えていたそのイベント、そう、それこそが新入生歓迎会だった。

 それは、新入生が生徒会や委員会、そして部活をどうするかを選ぶにあたって、各団体が普段どんなことをしているかなどを説明し、そして選ぶ際の参考にしてもらおうと、生徒会が主体となって設けられた場であり、いわば新入部員確保という点において最重要の地位を占める場でもあるわけで。


 新しい環境にウキウキしていた私は、まだこの頃は音羽ほどではないにせよ、軽く高校デビューを飾ってやろうくらいの気持ちでいたので、さて高校ではどんなイケイケな団体に入ってやろうかと、そんなことを考えて胸を躍らせていた。

 とはいえ、いざ当日色々な団体の話を聞いてみるとその中でもずば抜けて生徒会や文実が楽しそうに見えてしまい、(何故か)隣に座っていた音羽に「いっそ諦めて、生徒会とかに入っちゃえば?」と言われたりもした。


 相変わらず微妙に痛い所をついてくるなぁ、この子は……。

 そんなこと言われたら入っちゃいかねないじゃないか!

しかし中学時代と同じ(てつ)は踏むまいという硬い決意で、なんとかその誘惑を断ち切り、「私は今度こそ青春するんだ」と音羽に改めて謎の意思表明をした私だったが、その後も案外「これだ!」と思える委員会も部活もなく、気が付けば新入生歓迎会は後半戦に突入してしまっていた。


「どう、ちーちゃん。なんか面白そうなのあった?」

「うーん……どれもなんか微妙にねぇ。楽しそうだなって思っても、そこに自分がいるのを想像できないっていうか」

「あー、その感じわかるかも」

「逆に音羽はなんかあった?」

「んー、私はいくつか候補は見繕ってみたけど、どれも微妙に決定打に欠けるなぁって。だからちーちゃんと一緒で、まだ全然って感じ」

「だよねぇ……」


 色々想像してみるぶんには楽しいし夢も広がるのだが、じゃあそれをやりたいかって聞かれてしまうと、それはなんか違うんだよなと思ってしまう自分がいる。

 例えば、それこそ確か中学時代に音羽が所属していた(バリバリの幽霊だったが)チアダンスなんかは結構面白そうだなと思ったりもしたが、どうにもキラキラしすぎていて、心のどこかで即座に「あ、無理」って思ってしまった自分がいたり。


 そんなこんなで、どうしようかねぇと音羽やクラスメイト達と愚痴っていると、再び体育館の照明が落ちて新入生歓迎会の後半戦が始まった。

 舞台上で何やら絶叫する野球部を尻目に、配られたプログラムに改めて目を通していると、その最後に「演劇部」と書かれているのが不意に目に飛び込んできた。


 演劇部……演劇部ねぇ?


 脳内でぼそりと呟いてみた私だったが、しかしそれに関連するイメージが皆無なものをいくら呟いてみても何の発展性もないわけで。

 その時はふーん、そんな部活もあるのか、でも(今考えると失礼な話だが)演劇部はなんかイケイケJKのイメージとは違うし、なしかなぁなんて、そんなことを考えただけで私は舞台上の悲惨とさえ言える野球部の発表に再び視線を戻した。


「うーん……」


 しかしその後も一向にこれだと思える団体は出てこず、いよいよ歓迎会も終盤になって、私も妙な焦りを感じ始めていた。

 そんな時だ。

 演劇部の順番が回ってきたのは。


 『続いては演劇部です。よろしくお願いします』という事務的な放送に続いて、客席のみならず舞台上の照明までもがふっと落ち、急に暗くなったことで今までざわついていた生徒たちが一気に静まり返った。


 しばしの沈黙の後再びふっと舞台上の照明が付くと、そこには2人の女子生徒が互いに背中を向け合って椅子に座っているだけという、今までの部活の発表と比べると何とも寂しいというか、ある種シュールとさえ言える光景が広がっていた。

 向かって右側の少しおっとり系にも見える部員は、椅子に座ったままうつらうつらしているようで、一方左側のクール系の部員は虚空に向かって何かを一生懸命書いているような、そんな動作を続けていた。


 2人とも黙ったままのなんともシュールな、何が起きてるのか私達には全然伝わってこないそんな時間は、右側に座っていた役者が不意に目を覚まして『あっ、すいません、寝ちゃった……』と呟いたのをキッカケに、一気に崩れて動き出した。


 後で聞いたことだが、この時の演目の名前は「小説家らしき存在」という、ラーメンズというコントグループが作った作品だったらしい。

 しかしそんなことを知るはずもない私は、目の前で次々に繰り広げられる、とても自分と1つや2つしか変わらない人が演じてるとは思えない光景にすっかり目を奪われていた。


 この「小説家らしき存在」という作品のあらすじをざっくりと説明すると、まず、とあるところに「常居(つねい)次人(つぐと)」という名の、かなり有名な小説家がおり、そんな彼のもとに出版社から1人の編集者がやって来る。

 編集者は原稿の完成を待つも、日々の激務が祟って段々と眠くなってしまい、常居に何か目覚ましになる話はないかと問う。

 常居は少し考え、そしてこんな話をする。


──とあるところに、常居次人という作家がおりました。彼は作品によってまるで別人が書いたかのようなその多彩な文体から、多重人格作家、などという珍しい評価を受けておりました。


──そしてある日、そんな彼のもとに出版社の人間がやってきました。


──編集者は出されたコーヒーを飲み、原稿の完成を待ちましたが、しかし段々と眠くなってきてしまいました。


──ですが、小説家はそうなることを知っていました。……睡眠薬を混ぜたのです。


──なぜそんなことをしたのか。それには常居次人という作家が、本当に存在するのかというところからお話しなくてはなりません。


──常居次人、どんな字で書きますか? 


──常に居る、次の人。


 そこで常居は「あんたのことだよ」と、急に人が変わった様に編集者に告げる。

 次はお前の番だ、と。

 自分で持ち込んだ原稿の依頼をこなすまでこの屋敷から出ることはできないのだ、と。


──今の出版業界に必要なものはなんだ。それは、常居次人のような天才だ。


──そんな俺たちの身勝手な願望が、この常居次人という残酷なシステムを作っちまったのさ。


──誰だって一生に一本くらいは面白いものが書けるんだ。だから、次はお前の番だ。


 そう告げられ唖然とする編集者に、常居はニヤッと笑って「ね? 目が覚めたでしょ?」と、今の話が作り話であることをバラし、編集者は笑いながら「やめてくださいよ! 少しホントかと思っちゃったじゃないですか!」と安堵する。


 しかし終盤、もしその話が本当だとしたら案外小説を書いてみるかも、と何気なく言った編集者に対し、一転して常居は人が変わった様にさっきの話が事実であると告げ、そこで舞台は暗転して物語は終わりを迎える──。

後編に続きます。

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