第3話 ラノベとフラグとエセ運命 後編
翌日。
音羽に散々茶化されながら登校した私は、教室に着くなり一足先に学校に着いていた新を捕まえて廊下に引きずり出す。
「おう、おはよう、千代!」
「おはよう!! ディアマイベスト幼馴染の新くん!!」
肩で息をする私のただならぬ様子に何かを感じたのか、若干目を泳がせながら「どうしたんだよ、こんな風に引っ張ってきて」と言葉を絞り出す新。
「『どうしたんだよ』じゃないよ! 新、あんたいくら私のお母さんに言われたからって、あと私が幼馴染だからって、自分の部屋を私の部屋の向かいに設置するなんて何考えてるのよ?!」
「何考えてると言われても……いや、その方が何かと便利かなって……」
「何かと便利って何よ、便利って!?」
「いや……例えば、宿題見せてもらったり、とか?」
「いっぺん死ね!」
昨日のように頭を叩こうとした私の手を防ぎながら「冗談だって!」と、言葉の割に悪びれる様子のない新。
そういえば昔からこの新は何かと私に頼ってきてたっけと、こんな時にどうでもいいことを思い出してしまう。
「いくら私達が幼馴染同士だからって、私だって華の乙女なんだからさ!」
「『華の乙女(笑)』?」
「もっかい殴っていい?」
「すんませんなんでもないです」
「……とにかく、もう部屋が向かいになっちゃったものは仕方ないから、せめて私のプライバシーにずかずか入ってくるようなことはしないでよ?」
「それはもちろん。俺だってそこまで非常識じゃないつもりだ」
任せろと胸を叩く新。
いや、そこ、そんなにドヤるとこじゃないから。
「私的には、できればカーテン開けるのもやめてほしいくらいなんだけど……」
「俺に常に真っ暗な部屋で過ごせと」
「いや、そういう訳じゃないけど……ほら、お互いに着替えたりとかあるし……」
今朝だって(結果から言えば、新は先に家を出ていたとはいえ)向こうに新がいるって考えたら、なんだか妙に恥ずかしいというか、意識してしまって着替えにくかったし……
そんな私の内心を知ってか知らずか、「でも、着替える時は別に向かい同士関係なしに閉めねぇか?」とぼやく新。
「それは……そうだけど、でも、なに、その、気持ちの問題?的な……」
いや、なんで私が言葉に詰まらなきゃいけないんだ。
「ふーん……そこまで言うなら気を付けるよ」
「よくわからん」と顔にでかでかと書いてる新に若干イラっとしつつも、まあこれ以上追及しても仕方ないかとため息をつく。
というか私、ため息つきすぎでは。
毎日ちょこちょこ蓄積してた幸せがこの2日間で残らず空の藻屑と化してしまっていないか不安で仕方がない。
「あ、あともう1つ」
「まだなんかあんのか……」
「これはお願いというほどでもないんだけど……学校では私と幼馴染だってこと、内緒にしてくれない?」
「へ? 俺とお前が幼馴染同士だってことをか?」
「うん」
「いや、別に誰にわざわざ言う予定もないけど……でもまた何故?」
「なんていうか……その、女の子にも色々事情があるの」
「事情?」
「うん、そのわからんって顔は至極もっともだけど、でもそこは詳しくは聞かないで……」
別に具体的に何かありそうな気がしてるわけではないが、とはいえ、わざわざ彼と私が幼馴染同士だなんて誰かに言いふらす必要性もないだろうし。
それで余計なトラブルを回避できるなら、それに越したことはないだろう。
女子は基本的に、カッコいい男子の側にいる(そこまで)イケてない女子には手厳しいのだ。
その点、私は音羽ほど可愛くもないし、どうにもやりにくい立場にあると自覚している。
ちらっと新の顔を見上げて、無駄にカッコよくなっちゃってと内心ため息をつく。
おかげでこっちは色々気を遣わなきゃいけないというのに。
「……アホな新には想像つかないと思うけど、女子の社会ってのは怖いんだよ」
自分で言ってて中学時代を思い出してしまい、背筋に寒気を感じてぶるっと震えると、そんな私に新は「お、おう」と同情の目を向ける。
「そう、なのか……とりあえず了解」
「わかってくれてよかったよ。じゃあ、それだけだから」
マタネーと棒読みで彼に手を振って、私は自分の席に戻った。
「はァ……」
……やれやれ、青春するのも楽じゃない。
*
「学校では私と幼馴染同士だってことは秘密に」なんて、我ながら面倒くさいお願いをしたのだから、てっきり彼の方からはしばらく話しかけてこないとばかり思っていた私だったが、しかし意外なことに、その日の放課後、部活に行こうと教室を出た私は、後ろから早速新に声をかけられたのだった。
「どうしたのさ」
まだ周囲に人が多かったので、すんでのところで「新」という一言は飲み込む。
「もしかして、今から部活か?」
「そうだけど」
「なら丁度いいわ。少し聞きたいことがあってな」
「聞きたいこと?」
はてと、前髪をいじりながら首を傾げる。
「さっき先生から早めに部活だけでも決めておけって言われてさ」
「まあ、時期が時期だしねぇ」
うちの学校は別に部活に入部することが強制なわけではないが、しかし変な時期に転部したり入部したりする人が少ないのも事実だ。
だからこそ、早く学校に馴染めるようにと、先生は新にそんなことを吹き込んだのだろう。
特に彼の場合は、転校してきた時期自体が微妙だし。
とすると、大方私はどこの部活なのかとか、そんな話だろう。
すると案の定
「千代はさ、部活、どこに入ってるんだ?」と新。
「私は演劇部」
「演劇部って……あの演劇部?」
「あのって何さ。うちの学校に演劇部は1つしかないけど」
「いや、そうじゃなくて……その、噂の?」
「噂?」
「あ、いや、知らないなら別にいいや。そっか、演劇部かぁ……」
あたふたと言葉を濁す新。
……噂?
はて、何のことだろう。
「でも、なんでまた演劇部に? もしかして中学でも演劇部だったとか?」
「そんなことないよ。中学では帰宅部だったし」
正確には放課後は帰宅せずに、毎日音羽に連れられてイベントの手伝いばかりしていたのだから、イベントお手伝い部とでも言ったほうが正しいのかもしれないけど。
「じゃあなんでまた?」
「それ、そんなに気になる?」
「ほら、部活選びの参考にと思ってさ」
「あー、そういうことなら。……キッカケ自体は、4月にあった新入生歓迎会なんだけど……」
私は仕方なしに、1か月前のあの日、演劇部というものに出会った運命の日のことを語り出した。
相変わらず次回更新は未定です。
理想はある程度書き溜めしてから一気に放出!って形なんですが、意外と大学の授業やら課題やらが忙しくて(失礼)中々進んでいない状況なので、こうして時々更新していく感じになるかもです。
今回も少しでも面白いと思っていただけたら、ブクマ・評価等宜しくお願い致します!されると泣いて喜びます!!!!
ではまた次回。サラダバー