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第21話 七夕公演 前編

七夕公演本番です。お楽しみください…!

上手側に織姫、下手側に彦星。


織姫&彦星──七夕伝説


織姫は機を織っており、彦星は牛の世話をしている


語り──むかしむかし、神様が星空を支配していたころ、天の川の西の岸に、織女しゅくじょという神様の娘が住んでおりました。織女ははた織りがたいへん上手で、彼女の織った布は雲錦と呼ばれ、色も柄も美しく、丈夫で着心地も軽い、それはそれは素晴らしいものでした。


織姫──よし、これで完成っと……さて、次のに取り掛かろっと。


語り──彼女は星座で言えば“夏の大三角”の一角、こと座のベガに当たり、俗に織姫の名で広く知られています。

語り──さて、一方、天の川の東の岸には、牛飼いの青年、牽牛けんぎゅうが住んでおりました。牽牛は、毎日天の川で牛を洗い、おいしい草を食べさせたりと、よく牛の面倒をみる、働き者でした。


彦星──よーしよし、たくさん食えよー?


語り──彼は星座で言えば“夏の大三角”の一角、わし座のアルタイルに当たり、俗に彦星の名で広く知られています。

語り──そんなある日のこと。来る日も来る日も機織りばかりしている娘を心配した神様が、彼女の結婚相手を探していると、天の川の側で彦星を見つけました。そしてその働き者ぶりに大変感心し、2人を引き合わせることにしました。


彦星、緊張した面持ちで天の川を渡り、対岸へ


語り──この頃はまだ天の川には橋が架かっており、この大河を誰でも容易に渡ることができたのです。


彦星、辺りをきょろきょろと見渡す

そこへ織姫がやってくる


織姫──あなたは? ここで何をしているの?

彦星──俺は……川の向こうで牛を飼っている彦星ってものです。色々あって、こちらに呼ばれまして。そちらは?

織姫──じゃあ、あなたが例の?

彦星──例の?

織姫──ええ。あなたがお父様が仰ってた方なのでしょう? 真面目で優しく、仕事熱心な男がいるから一度会ってみないかって、私お父様にそう言われて今日はここにやってきたんです。

彦星──そう、だったんですか。(照れながら)……そんなに褒めてもらえて、その上、こんな綺麗な人との結婚相手候補に選んでいただけるなんて……本当に光栄です。

織姫──(照れながら)まあ、綺麗だなんて。

彦星──いえいえ、謙遜なさらないでください。織姫さんといえば、星空中で知らない者は誰もいない、それはそれは美しい方だと噂で聞き及んでいました。でも、こうして実際に会ってみると、貴女は噂以上に美しくて驚きました! ……正直、俺みたいな一介の人間には、眩しくて直視できませんよ。

織姫──いえいえ、そんなこと仰らないで? ほら、私のことちゃんと見てくれませんか?


顔を逸らす彦星の顔に手をやって自分の方を向かせる織姫

彦星も最初は照れつつ遠慮していたが、やがて観念したように織姫の方を向き、にこりと笑い返す


織姫──(ニコッと笑って)最初お父様から話を聞いた時は、流石に話を盛ってるんじゃないかって思ったけれど、でもどうやらそんなこともなかったみたいですね。貴方は見たところ本当に真面目そうだし、こうして私に笑いかけてくれる優しさもある。仕事熱心かどうかは、まだわからないけれど。


いたずらっぽく笑う織姫


彦星──自分では他人と比べて働き者かどうか、考えたこともありませんでしたが……でも、貴女のお父様がそうおっしゃるのならばそうなのでしょう。

織姫──ふふっ、本当に謙虚なんですね。

彦星──何度も言うとお世辞っぽくなっちゃいますけど、貴女みたいな綺麗な人の相手に選ばれるなんて、夢のような話ですからね。そういえば、貴女も相当な働き者だと聞きました。毎日布をたくさん織っているとか。

織姫──ええ、その通りです。それではたばっかり織っている私を心配して、お父様がこのような場を設けてくださったのです。

彦星──なるほど、合点がいきました。


少し間。見つめ合う2人


語り──この時すでに、彦星の心は決まっておりました。それは、“一目惚れ”とでも言うのでしょうか? 彼は目の前の織姫の美しさのみならず、まるで羽衣のような優しい心にすっかり心を奪われていたのです。


彦星──こんな、いつも仕事ばかりの俺たちだから、何をするでもなく共にただまったりと過ごす。そんな時間を、これから沢山貴女と過ごしていきたいのですが、どうでしょうか?


語り──そして、その問いかけに対する織姫の返事もまた、すでに決まっていました。


織姫──ええ、それってとっても素敵ですね。私も是非、貴方と過ごしたいわ


歩み寄り、互いに見つめ合って手を取る2人


語り──こうして、天の川の煌めきに祝福されながら、2人はめでたく夫婦となりました。そして、織姫は天の川を渡って彦星の住む東の岸辺に移り住むことにしました


織姫、機織りなどの荷物をまとめて天の川を渡り彦星の元へ


織姫──今日からお世話になります。どうぞよろしくお願いいたします。

彦星──こちらこそ、こんなところまでわざわざすまなかったね。さ、今日からここは君の家でもあるんだ。遠慮なんかしないで、どうぞ上がって上がって。


語り──こうして、2人は新たな生活を始めたのでした。それは、今まで働き詰めだった2人にとって、経験したことのないほどのんびりした幸せな生活でした。


織姫──彦星、今度はこんな布を織ってみたのだけれど。

彦星──おお、なんて美しい……相変わらず君の作るものには外れがないな。

織姫──ふふっ、ありがとうございます。では、この布で何か着物でも作って差し上げましょう。

彦星──いいのか? その布は星空中で話題の代物なのだろう? 俺1人の着物のために使ってしまって……

織姫──何を言ってるんですか。私にとってあなたよりもこの布を差し上げるのにふさわしい相手なんていませんよ。


織姫、彦星に仕立てた着物を着せる


彦星──ありがとう。そう言ってくれるのなら、お言葉に甘えて大切にするよ。

織姫──ええ、是非末永く着てやってくださいね。


語り──2人の仲はそれはそれは睦まじく、おしどり夫婦として星空中で話題になりました。ところが、一緒に暮らすようになってしばらくすると、2人は朝から晩まで、仕事もせずにおしゃべりに花を咲かせるようになってしまいました。


織姫と彦星、楽しそうに談笑。


語り──これを見た神様は『おまえたち、そろそろ仕事をはじめたらどうだ?』

と戒めますが、2人は


織姫──ええ、まあボチボチ。

彦星──ちゃんとやりますとも。


語り──と、曖昧に答えるばかりで、いつになっても仕事を始める様子がありません。


幸せそうに笑い合う2人


語り──織姫が布を織らなくなってしまったため、機織り機にはホコリがつもり、天界には新しい布が届かなくなりました。また、彦星が世話をしていた牛たちも徐々にやせ細って、次々に倒れていってしまいました。


変わらず談笑する2人


語り──困り果てた神様はある日、2人にこれが最後の忠告だとばかりに、再度きちんと働くようにと厳しく言いました。しかし、2人の返事は相変わらず


織姫──もう少し彦星とお話したら、そしたらやります。

彦星──もう少し語らったら、ちゃんと働きますとも。


語り──と、そんな調子で、少しも反省する様子がありません。この返事についに堪忍袋の緒が切れた神様は、とうとう2人を天の川を隔てて引き離し、そして架かっていた橋を落としてしまいました。


天の川を超えて西岸に連れ戻される織姫。

それを追いかけようとするも、なすすべがない彦星。


語り──これで2人とも諦めて仕事に精を出すだろうと思った神様でしたが、ところが今度は2人とも深い悲しみに沈んでしまい、とても仕事などできるような様子ではなくなってしまいました。


死ぬほど落ち込む2人。


語り──そんな2人の様子が流石に可哀想だと思った神様は、1年に1度、7月7日の夜にだけ、天の川を渡って2人が会うことを許しました。


天の川をゆっくりと歩いて渡る2人。


語り──7月7日の七夕の晩になると、神様の使いであるカササギ達が天の川に翼で橋を架け、2人を引き合わせるのです。しかし、もし夜に雨が降ってしまうと天の川の水かさが増してしまい、カササギ達が橋を架けることができなくなってしまいます。


再び引き裂かれる2人

そのまま2人とも退場


語り──今夜、是非とも煌めく夜空を見上げてみてください。そこには、1年に1度だけ会えるのを楽しみにして、天の川の両岸でまたたいている織姫と彦星の姿を見ることができるはずです。



語り──一方、天の川を跨いで引き裂かれてしまった2人のその後はというと


織姫と彦星、若干現代風の格好で登場。

彦星はかつて織姫にもらった着物を着ている。

各々自分の仕事をしたり、適度にスマホをいじったり。


語り──現代に入り、ケータイ電話などの技術が発達したことで、2人はいつでも連絡が取れるようになった……かに思えましたが、しかし2人の連絡は神様によって禁止されていました。


同時にため息をつく2人


語り──しかし、7月7日の夜に雨が降り、会うことが叶わなかった日に限って、2人は電話で話すことは許されるようになりました。


SE:雨音

電話で楽しそうに話す2人(マイムのみ。発声なし)


語り──しかしそれでも2人が互いの声を聴けるのは1年に1度、七夕の日だけという事実は変わりません。織姫も彦星も、七夕以外の364日は各々の仕事をしながら、ただ1日会うことの許されるその日を待ち望み続けていました。


織姫、彦星、名残惜しそうに電話を切る


織姫──はあ、1年に1度あの人のことを感じられる日が終わってしまった……次はまた1年後……今度こそ会えるかしら。

彦星──ああ、1年で唯一の希望の日が終わってしまった……今年も会うことは叶わなかったなぁ……。


語り──七夕の日に降る雨のことを“催涙雨さいるいう”とも呼びますが、これは2人が会えないことを憂いて流す涙になぞらえたものと言われています。


各々落ち込みつつ、仕事に戻る


織姫──ふう……また1年間頑張るしかないわね。

彦星──さて、今度会った時に呆れられないようにしっかり働かなくては。


仕事をする2人


語り──2人は毎年、来年こそはと祈りながら生活していましたが、しかし七夕の日というのは往々にして雨が降りやすい日でもあります。故に、彼らは運が悪ければ十数年も直接会えない、なんてこともあったわけです。


織姫、深いため息

彦星、織姫にもらった着物を愛おしそうに眺める


語り──そして、ここ数年もまた、七夕の日には雨が続いておりました。織姫と彦星は互いの顔を見ることが叶わぬまま、会えるその日をただ夢見て今日も働いております。


織姫、彦星に電話をかける

電話に出る彦星


織姫──こんばんは、彦星。

彦星──こんばんは、織姫。久しぶりだね。

織姫──ええ、久しぶり。結局、今年も会うことは叶わなかったわね。

彦星──ああ。俺はもう何年も君の顔を見ていない。毎日毎日、君がかつて作ってくれた着物を眺めてはため息をついてばかりだ。

織姫──ええ、私もよ。昔と違って、こうして1年に1度はあなたを感じられるようにはなったけれど、それでも会えないことの寂しさを根本的に消してはくれないもの。

彦星──来年こそは、会えるといいな。

織姫──ええ、本当に。


空を仰ぐ2人


語り──そうして、2人はこの1年間にあったことを互いに語り始めました。それは例えば、世話をしている牛の一匹が逃げ出しただとか、織った布が想像以上に好評だったとか、そんな他愛のない話が大半でした。しかし2人にとっては、その語り合う時間こそが何よりも大切な、かけがえのない宝物だったのです。


少し間


織姫──そういえばあなた、さっき私の作った着物を“眺めてる”って言ってましたけど、着てはくれてないんですか?

彦星──いやいや、まさか。毎日ちゃんと着てるとも。さっきのは言葉の綾さ。

織姫──そうでしたか、よかった。眺めるだけで、着たくはないのかと思ってしまいました。

彦星──そんなことあるわけないだろう?

織姫──いいえ? あなたは実は結構好き嫌いがハッキリしている人だって、私知ってるんですからね? 昔一緒に住んでた時だって、私がせっかく作った料理を……

彦星──待て待て、その話はやめようか? な? せっかくなんだし、もっと楽しい話をしようよ。ほら、最近何か変わったこととかなかったか?

織姫──(わざとらしくふてされながら)もう……すぐそうやって都合のいいように話を変えるんだから。しかも変えた話題もしょーもないですし……

彦星──何か言ったか?

織姫──いーえ? なんでもないですよーだ

彦星──明らかに拗ねてる声なんだが……

織姫──気にしなくて大丈夫ですよー? それより、変わったこと、ですか……(少し考える)そうですね、この間久しぶりにお父様が訪ねてきたことくらいですかね。でも、全然私達のこと許してくれる感じではなかったですけど。

彦星──そうか……やはり、許してくれないか。そりゃそうだよな。せっかく織姫の結婚相手にと選んでいただいたのに、その期待に応えることができなかったんだから。

織姫──でも、きっといつかは私達のことも許してくださるはずですよ。さすがのお父様も、毎年天の川に橋を架けてくれてるカササギ達からも、色々と報告を受けているでしょうし。

彦星──なんだ、結局は同情作戦か?

織姫──失敬な。説得と言ってくださいませんか?

彦星──よく言うよ。


笑い合う2人

ふと時計を見て何かに気付く織姫


織姫──あら、もうこんな時間……

彦星──本当だ。東の空が明らんできている。

織姫──夜明けが近いですね。

彦星──今年はこれにて終わり、か。また1年、寂しくなるな。

織姫──ええ。でも、あなたを待ち望むのももう慣れっこですよ。


言葉とは裏腹に寂しそうな表情の織姫

彦星、何かを言いかけるが、口をつぐんで織姫の方に手を伸ばす

織姫、何かを感じたように彦星の方に手を伸ばす


彦星──さようなら、織姫。

織姫──さようなら、彦星。


互いに笑顔を向け合い、電話を切る2人


2人──来年は、いえ、今年こそは。


織姫──愛しの彦星に会うことができるかしら。

彦星──愛しの織姫に会うことができるだろうか。


再び空を仰ぎ見る2人

その視線の先にある夜空は、果たして──。


後編に続きます。

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