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第19話 ”自分じゃない誰かになる”ということ 後編

後編です。

 翌日から本格的な通し稽古に入った私達は、特にこれといった大きな問題もなく、順調に稽古をこなしていった。

 まあ、細かいことを挙げればキリがないが、しかしそれでも先週までに比べれば「直してね」「はい」の二言のやり取りだけで済むのだから、順調だと言ってしまって問題ないだろう。


 そして順調なのは私ら役者陣だけではなく、音羽の方も演出補佐としてだけでなく、先輩から振られていた音響としての役目を上手いこと果たしているようだった。

 主に音響は凛先輩からやり方を教わっていたようで、私も実際何をしているかまでは把握していなかったが、しかし、順調そうなのは音羽の様子から伝わってきたので、心配無用だろう。

 どちらかといえば、連日の稽古で疲れが溜まっている私らの方が教室で相沢さんから心配される率が上がってる気はしている。


「ま、それだけ俺らが頑張ってるってことだろ」

「だね」


 お互いにどこか疲れた顔を浮かべたまま、新と2人でそんなことを言い合って笑うことも増えた。けど、そんな時間もどこか楽しくて。

 そうこうしているうちに、本番までの日数もいよいよ3日となった木曜のこと。

 この日も通し稽古をつつがなく終えた私達は、予想外に早く終わってしまったことで最終下校時刻までの時間を持て余してしまっていた。


「えーっと……どうします? もう1回やるのは、ダメ出しの時間とか考えたらちょっと厳しい気がしますけど……」

「うーん、そうだね……じゃあ、衣装合わせでもしてみる?」

「衣装合わせ、ですか?」


 その言葉に、はてと新と顔を見合わせる。


「そ。まさか君たち、そのままの格好で本番も出るつもりだったのかい?」


 ぽかんとした様子の私達に、凛先輩がいたずらっぽく笑ってみせる。


「い、いえ……ただ、練習にいっぱいいっぱいで本番のことまで頭が回ってなかったというか……」

「言われてみればそういえば、くらいの意識でした」


 こうして言葉にしてみるとアホ丸出しすぎて、なんだか猛烈に間抜けな感じになってしまうが、しかしそれが私と新の本音だった。

 言われてみれば、と。


「よし、じゃあ猶更衣装合わせしてみよう。音羽ちゃん、よろしくね」

「イエッサー! お任せあれ! ささ、お二人ともこちらへ!」

「お、おう」


 促されるままに部室に案内されると、音羽は微魔境と化している部室の奥をなにやらごそごそと漁り、「これこれ」と雑に衣装を引っ張り出してみせる。

 あの、仮にも今度外で使う衣装なんだからもう少し丁寧にだね……

 なんて考えていると、「ほれ、これがちーちゃんのぶん」と薄紫色の方の衣装を押し付けられ、「新っちはこっち。待ってるから、稽古場で着替えてきてね」と話をぐいぐい推し進められる。

 いそいそと新が稽古場に向かったのを確認して服を脱ぎながら、改めて「これは?」と尋ねてみる。


「……衣装だけど?」

「それはわかってるわ。ここまできてそれがわかってなかったらヤバいでしょ。じゃなくて、この衣装って……なんていうか、何モチーフなの?ってこと」

「ああ、なるほどね。まあ、いわゆる織姫らしい衣装、としか言いようがないんだけど、確かそのスカートの部分がって名前で、そんで上は天の羽衣はごろもって感じの服だね」

「なんともわかるようなわからないような説明ありがとう」

「だってこれ以外に説明のしようがないんだもん!」


 仕方ないじゃんと文句を垂れる音羽の相手もそこそこに、用意された衣装に袖を通してみる。


「あ、サイズもぴったり……」

「元々部室にあった衣装だけど、私なりに多少調整したからね」

「え、なんで私の身体のサイズ把握してるの……怖……」

「マジ引き!?」

「冗談冗談。なんとなくでやってくれたんでしょ。ありがとね」


 そんなことを言いつつ、音羽が用意した姿見で全身を確認してみると、普段の自分とはあまりにかけ離れたその姿に、思わず「おお……」と地の底から聞こえてくるような変な声が出てしまった。


「なんか、自分相手に言うのも変な話だけど……凄い綺麗……」

「ふふっ、でしょ? 絶対これならちーちゃんに似合うと思ったんだよ」


 薄紫を基調として、各所に桃色や黄緑色といった優しい色が添えられ、どこか夏の夜空を想像させる薄絹うすぎぬは七夕伝説の悲劇的な結末に沿ったはかなさを抱いていた。

 本当に、美しい以外に言葉が見つからない。


「うん……目の前にいる私が、全然私じゃないって凄いね……」

「ちなみに、本番はこれに加えて多少の髪飾りとお化粧もするから、さらに綺麗になると思うよ」


 そう言って部室の奥から髪飾りやらなんやらを取り出してみせる音羽。


「おお……マジか……」

「うん、楽しみにしててね」

「さすが音羽大明神!」

「何そのご利益なさそうな神様……っと、そろそろ新っちも着替え終わったかな? 稽古場の方行ってみようよ」

「うん、そうだね」


 すっかり忘れていたが、よく考えたら新もこういう格好をしているわけか……凄い気になるな……

 早まる気持ちを抑えつつ部室を出ると、外で待ち構えていた神原先輩と凛先輩が「「おー」」と息ぴったりに歓声を上げる。


「ちーちゃんなら似合うだろうなって思ってたけど、想像以上に可愛らしいじゃない! ねえ、凛!」

「うんうん、めんこいのォ」

「め、めんこいって……」

「いやいや、似合ってるよ、ちーちゃん。これは新くんとのツーショットが楽しみだね」

「そ、そうですね」


 ちらっと稽古場の方に視線を向けると、丁度着替え終わったらしく、「なんか不思議な感じだ」とかなんとかボヤキながら新が姿を現す。


「「「……おおー」」」

「な、なんですか、先輩方まで声を合わせて……」

「いや、なんか2人とも予想以上に似合うなーって……」


 私の甘美な衣装とは対照的に、彦星の衣装は少し質素めに、それでいて藍色を基調として薄い青を全身にちりばめた甚平じんべえのようなその衣装は、なるほど七夕伝説の彦星その人だった。

 間違っても、私のバカ幼馴染その人ではない。

 そんな失礼なことを考えてぼーっと彼に見とれていると、新もこちらを視界に捉えたらしく、「ほお」と何やら感慨深そうな表情を浮かべる。


「な、なによ」

「いや、馬子にも衣裳だなって」

「それ、褒めてないでしょ?」

「俺なりに褒めたつもりなんだがな? それより、俺の方はどうだ? 似合ってるか?」

「うん、いい感じに農民感あっていいと思うよ?」

「農民じゃねェし! 牛飼いだし! それ、褒めてないだろ?!」

「さあね?」

「んだと!!」


 互いにキーキーとかみつきあっていると、神原先輩が「まあまあ」と仲介に入る。


「2人ともしっかり似合ってるよ、大丈夫」

「あ、ありがとうございます」

「でなんだけど、せっかくだし2人一緒に写真でも撮ってみる? まあ2人ともまだ追加のお化粧とかは必要なのは知ってるけど、でも本番とかは案外バタバタして撮り忘れたりしかねないからさ」


 その提案に、新と顔を見合わせて、まあせっかくならとアイコンタクトで頷く。


「じゃあ、せっかくなので“5人”でお願いします」

「ん? 5人?」

「ええ。どうせなら全員で撮りましょうよ。織姫と彦星としてのツーショットは本番まで取っておきます」


 ちょっとした思い付きでしかない私の提案に、先輩は「うん、わかった」と笑顔で頷いてくれた。


「ほいじゃ、凛も音羽ちゃんもこっち来てー。ちーちゃん、となると自撮りになるけど大丈夫?」

「はい、もちろんです」


 私と新を中心に全員で固まり、神原先輩の「撮りまーす」の掛け声で一斉に笑顔を作る。


「はい、チーズ!」


 この写真を後で見たらきっと泣いちゃうな、なんて、ふとそんなことを思った。

 

 本番まで、残り3日。

最近更新が不定期極まりなくてすいません…次回更新は来週の月火あたりのはずです(は?)

ではまた!

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