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第19話 ”自分じゃない誰かになる”ということ 前編

更新遅れました! 第19話です!!

 週明けの月曜日。

 本来ならば今日からテスト1週間前の部活動禁止週間だが、公演前ということで演劇部は特別に練習が許可されており、それどころか大会前の特別措置として本来活動日ではない火曜と木曜の練習まで許可されているので、今週は本番まで毎日びっしりと練習できる、と言うべきか、させられることになっていた。

 しかしそんな過酷な練習日程とは裏腹に、この週末でほとんど台詞を入れてきた私にとっては、いよいよ始まった立ち稽古さえ楽しく感じられていた。

 先週とは打って変わって動きと台詞、そのそれぞれにしっかり気を配って立ち回れている私達を見て、音羽が神原先輩に「何かあったんですかね?」と囁いたのが耳に入ってきたが、敢えて聞こえないふりをする。

 まさか、新と夜な夜な練習していた、なんて意味深なことを言う訳にもいくまい。というか恥ずかしくて言えやしない。


「まあ、ちーちゃんはちーちゃんなりに頑張ってるってことだよ」


 余計なことに首を突っ込みかけている音羽を、珍しく練習に顔を出した凛先輩がまあまあと上手いことなだめる。

 先輩、ナイスです。

 そのまま音羽そいつの首をボキっとやっちゃってください。


「おい、千代。怖いこと考えてる顔になってるぞ」

「か、顔に出てた?!」

「そんな可愛らしいリアクションには見合わないくらい怖い顔してたぞ。東雲の首折ってやろうかくらいの」


 パラパラと台本を確認しながらそんなことを言う新に、こいつ私の心を直接読んで、なんて内心わざとらしく驚きつつ、とりあえず「何故それを」と雑に反応しておく。


「え、マジで?」

「なんて、ウソウソ。私、そんなバイオレンスなこと考えてないよ。華のJKだよ?」

「そこに華のJKは関係ないと思うけどな。まあ、別にどうでもいいんだけどさ」

「フーン」


 相も変わらず中身のない会話だなぁなんて考えていると、神原先輩が「はい、休憩終わり! 再開するよ!」と号令をかける。

 曰く、今週は月曜火曜で半立ち稽古からの引継ぎ──要は1場面ごとの練習──をして、以後は全場面ぶっ通しの、ほとんどリハーサルに近い練習をしていくとのことで。


「でも、2人とも結構いい感じだから、明日から早速通しに入っちゃってもいいと思うけどね」


 けれど、その日の練習終わりに部室で着替えていた私は、神原先輩からそんなことを言われ、少し驚いて「ありがとうございます」とだけ無難に言葉を返す。

 今までは、なんとか先輩方に付いていくのが精いっぱいで──否、先輩方に迷惑ばかりかけて、全然前に進めていないような気がしていたから、先輩からお褒めの言葉を頂けたのが予想外に嬉しかった。

 よし、この調子で頑張ろう。


「じゃあ、お先に~。お疲れ様でしたー!」

「お疲れ~」

「お疲れ様でした! また明日よろしくお願いします!」


 一足先に部室を後にする神原先輩と凛先輩を送り出し、音羽と部室に2人きりになる。

 音羽の方ももう着替え終わっていたが、なんとなくそのまま帰る気にならず、お互い無言で台本を読み返す。


「……なんか、凄いよね」

「ん?」


 ふと、音羽がぽつりと言葉を漏らす。


「いや、ちーちゃんも新っちもさ、この間まで何かあったらすぐ私に電話してくるくらいには追い詰められてたのに、今や立派に織姫と彦星を演じてる」

「いや、何かあったらすぐ電話って……」


 そんなしょっちゅう私電話してましたっけという思いと、いやそれ私だけでしょという重いが重なって、まあいいやと口をつぐむ。


「こんな沢山ある台詞を覚えてさ、その上色んな舞台上での立ち回りまで理解して……なんか、凄いなって」

「なによ、急に改まって」

「いやいや、だってこうして台本を見直すとさ、改めて台詞の量ヤバいなーとか、演出補佐ながらにそんなことを思っちゃうわけですよ」

「まあ、確かにね」


 音羽の言う通り、この台本の中身をほぼ覚えていると考えると、なんだかもの凄い偉業を達成しているような、この間までは全く想像だにできなかったことを私は今やってるんだなと、そんなしんみりした気持ちになる。


「ま、私天才だからさ」

「よく言うわ」


 軽くおちゃらけて見せた後「でも、音羽だって凄いよ」と彼女の横顔に微笑みかける。


「私からすれば、神原先輩について演出の補佐がしっかりできてるって、相当凄いことに思えるよ?」

「そう、なのかな……私、ただなんとなくやってるだけなんだけど」

「ぐっ……この才能お化けめ……」

「いやいや、冗談冗談」


 そんなわけないじゃんと苦笑する音羽。


「こう見えて、練習の後とかに先輩から結構色々言われてるのよ。演出として、足りてないところとかね」

「演出として、ね……」

「んで、その度にそんなこと初心者の私に言われてもなーって思ったりして、たまにちょっと嫌になったりして……」

「音羽……」


 どこか遠い目をして呟く彼女の横顔に、なんて声をかければいいかわからず口を閉ざしていると、音羽は「でも」と言葉を続ける。


「いい所も悪い所も散々言われて──いや、悪い所がほとんどだったけど、沢山ダメ出しされてるのに嫌な顔一つせずに前向きに織姫と彦星を演じてる2人を見たらさ、なんか私ばっかり腐ってるのも違うなって、そう思って」

「まあ、確かに結構色々ダメ出しされたけど……」


 というか、嫌な顔は多分それなりにしてたと思いますよ……単に、表に出さなかっただけで。

 なんて、先週のことを思い出して寒気を覚えている私に構わず、音羽は言葉を続ける。


「いつかさ、ちーちゃん言ってたじゃん? 舞台の上なら、自分じゃない誰かになることができるって。それって凄いことだよねって」

「うん」

「その意味がさ、改めてわかった気がしたよ。練習してるときのちーちゃん、凄い楽しそうで、それでいて、そこにいるのはちーちゃんじゃなくて織姫さまだったからさ。そんなの見せられたら、頑張ろうって思うしかないじゃん?」


 そこまで聞いたところで、なんだか音羽が真面目に話しているのがおかしくなってしまい、思わず笑ってしまう。


「ふふっ、そっかそっか」

「ちょ、なんで笑うのさ?!」

「いや、ごめんごめん。別にバカにしてるとかじゃなくて、やっぱり音羽は音羽だなって思って」

「え?」

「音羽、昔っから変わらないなぁと思ってさ。だから、才能お化けになれたんだなって」

「ちょ、それどういう意味よ?」

「いや、べっつにー?」


 お互いに取って張り付けたような真面目腐った顔をしてそんな風に重い話をしていたのが、段々とおかしくなってきてしまい、そこまで話したところで示し合せたかのように一斉に笑ってしまう。

 まったく、私らにこんなシリアスなシーンは似合いやしないんだ。

 互いに壊れた機械のように「頑張ろう」と言い合い、あとは記憶にも記録にも残りそうにない話をして無駄に盛り上がる。

 そんなして互いに肩を叩きあって笑っていると、ドアの外からふと、新の「なあ、お前らまだかー?」という下校の催促が飛んできた。


「あ、そっか。新っち待たせてたんだっけ」

「ごめんごめん、今行くからー!」

「ったく、早くしろよな」


 不満そうな新の声を聴いて、何故だかさらに音羽と顔を見合わせて笑ってしまった。

 まったく、箸が転んでもおかしい年頃とでも言うべきだろうか?

後編に続きます!!

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