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第17話 カーテンの隙間から漏れる光 後編

後編です。

 その後、一度は今度新に会ったらグーで殴ってやろうと思ったものの、よく考えれば新は別に悪くないかと思い直した私は、その週末、特に彼に危害を加えることもなく、改めて台本を読み込むことに集中して挑んでいた。


「んー……ここは違うか……」


 自分のメモに納得して台詞を口ずさんでみたり、納得いかずに書き直したり、自分なりに試行錯誤しながら台本を読み進めていく作業は、もちろん量が量なので結構疲れもしたが、一方でどこか楽しかったりもした。

 この間までの手さぐりで台本を書いたり、読み込むの意味も分からず台本と睨めっこをしていた時と比べれば格段に前に進んでる感覚があったのも大きいだろう。


 一方の新はというと、私と同じく台本を読み込んでいるらしく、締め切ったカーテンの向こうから漏れる光は、夜遅くまで途切れることがなかった。


 その結果、週明けの部活での読みでは、私達は先輩から「良くなった」としっかりお墨付きを貰うことにも無事成功。

 先輩から「うん、よく読めてるね」と言われたときは思わず小躍りしてしまったが、とはいえよく考えれば、これでようやくスタートラインに立てたにすぎないということだろう。

 まだまだ、私達はここからなのだ。

 そう思い直して気を引き締める。


「おはよう、ささちー……今何時間目?」


 改めて今がスタートラインなんだという事実を噛みしめていると、後ろの席の相沢さんがつんつんと私の肩を叩いてそんな寝ぼけたことを言う。


「相沢さん……また寝てたの? もう昼休みだよ?」

「ああ……結構がっつり寝ちゃってたなぁ……もう昼かぁ……」


 くあァと大きく欠伸をして、相沢さんはいそいそとお弁当を取り出す。


「で、今日はいつから寝てたのさ」

「ささちー、私の前の席なんだからそれくらいわかるでしょ~?」

「あいにくと、ほぼ毎時間寝てる人を気にするほど私も暇じゃないんでね」

「何、その微妙に格好悪い台詞は~。演劇部でしょー? もっと洒落たこと言ってよね~」

「洒落たことって……」


 いや、午前中ずっと爆睡してた人にそんなこと言われても。

 相変わらずマイペースな相沢さんに「はいはい」とテキトーに返事を返すと、彼女の方も「雑だなぁ」と悪態に聞こえない悪態をついて、それなりの大きさのお弁当に手を付ける。

 それを見て私も自分のお弁当を取り出し、椅子を回して相沢さんの方に向き直る。


「それにしても相沢さん、いつも思ってたけど、結構お昼食べるんだね」

「んー? そうかなー?」

「いや、そうじゃない? 平均ってのがどんくらいかは知らないけど、私のお弁当と比べても、ホラ」


 隣に並べてみると、目測1.5倍くらいのサイズ比だ。

 メガ盛りだとかバク盛りだとか、そこまでではないにせよ、その辺の準運動部男子くらいの量はありそうに見える。


「ハンバーグにエビフライ、から揚げにナゲット、それに野菜炒めにミニパスタ、ご飯……いやこれかなりガッツリでしょ」

「いやぁ。私、こう見えて運動部所属だからさ、お昼になるとどうしても凄いお腹空いちゃってさ~」

「あれ、相沢さん運動部だっけ? てっきり室内楽とか、もしくは園芸部とかその辺かとばかり」

「その不思議な偏見は置いといて……こう見えて、一応はバスケ部だよん」

「おお」


 バスケ部というと、あれだな。かなり動くやつだな。うん。

 イメージ&語彙力不足もいいところの想像で納得したふりをして頷いていると、相沢さんは「絶対想像できてないでしょ~」と笑われてしまう。


「へー……でも、意外だったかも」

「そう? まあ、気が向いた時にしか行ってないから、準バスケ部って感じだけどね~」

「ああ……ごめん、意外じゃなくてイメージ通りだったわ」

「でも、こう見えて結構筋肉あるんだよ~?」


 そう言って「ほれ」と腕まくりをしてみせる相沢さん。


「……どう?」

「ごめん、全然わからん。普通に女の子の腕だなぁって感じ」

「ふふっ、でしょ?」

「いや、何が?」


 一体どこにドヤっているのかよくわからず、私は苦笑いを一つ浮かべて反応するのを諦めてタコさんウインナーを口に運ぶ。


「しっかし、人間の身体ってのは不思議だよねぇ。午前中にしたことと言えば、登校して机に座って寝て起きただけなのに、お昼になるとしっかりお腹は空いてる。放課後に部活やって、そんで夕飯でお腹すくならまだわかるけどさ~」

「その午前中のスケジュールの滅茶苦茶さには一言モノ申したいけど、まあ言いたいことはわかる。成長期ってやつなのかねぇ?」

「こんな生活続けてご飯ばくばく食ってても、お腹に肉がつくだけで成長とは無縁な方向に行きそうだけどねぇ」

「わかる。どうして栄養摂っても身長とか胸とかにいかずに、全部お腹に行くのか……永遠の謎よね」

「ささちーは小さいのが可愛いからそのままでいいと思うけどね~」

「良くない良くない! 本人的には結構コンプレックスなんだからね?!」


 はいはいと笑って軽くあしらう相沢さん。

 まったく、みんなしてやれ小動物みたいで可愛いだのなんだのと。その“小動物みたいで”っていう謎の枕詞はいらんわ!! 普通に可愛いって言われたいわ!

 せめて身長も新くらいは、そんで胸も音羽くらいは……などと叶わぬ幻想を抱いては現実に目を潰されて深くため息をつくと、相沢さんが「それは冗談としても、ささちー、ちゃんとご飯食べなよ?」と珍しく真面目な顔で呟く。


「それはなに、低身長で貧乳なんて属性イマドキじゃないから、どんどん食って高身長ハイスペック美少女になれってこと? ってなれたら苦労しないわ!!」

「いやいや、ささちー落ち着いて。そんなこと一言も言ってないし、ノリツッコミして自分だけで話を完結させないでよ……」


 相沢さんは続けて「そうじゃなくて」と話を立て直す。


「ささちー、最近かなり疲れてるんじゃないかなって。見てると、たまにヤバい顔してるときがあるからさ」

「え、マジで?」


 はっとして思わず自分の顔を両手でぐっと掴んでしまう。

 私、そんな疲れ切った顔してた?


「もしかしなくても、演劇部関係?」

「多分、ね。先輩からの無茶ぶりが凄くてさ。いや、まあ私達のことを思ってなんだろうし、嫌になるとかは全然ないんだけどさ」

「へぇ~。それってやっぱりアレ? 公演とかやったりするの?」

「うん、七夕に商店街で公演することになっててさ。その練習が忙しくて」

「そうだったんだ~」


 七夕かぁと呟く相沢さん。


「まだ予定合うかわからないけど、せっかくだし見に行くよ~」

「“行けたら行く”ってやつ?」

「違う違う、もっと確実に行くってば~。私のこと信じてよ、ささちー」

「ははは、ごめんごめん。冗談だよ。うん、楽しみにしてる」


 彼女が見に来てくれるというのならば、猶更頑張らなくては。

 そう気合を入れなおしたところで、相沢さんに「でも、無理はしないでね」と釘を刺されてしまう。


「大丈夫、自分の限界は理解してるつもりだから」


 そう言って、さらに「それに」と口を開く。


「やっぱり、好きなことだからさ。やるからには全力でやりたいんだよ」

「……そっか。頑張ってね」


 相沢さんはそう言って微笑み、から揚げを美味しそうに頬張ってみせる。

 しかし、旨そうに食べるなぁ……

 こんなに美味しそうに食べてもらえるのならから揚げも本望だろうと、よくわからないことを考えているとふと、後ろの席で机に突っ伏したままの新の姿が視界に入ってくる。

 そんな私の視線に気づいたのか、相沢さんが「どうしたの、ささちー?」と尋ねてきた。


「いや、新が寝っぱなしだなぁって」

「ああ、ホントだ。ささちー、起こしてあげれば?」


 ちらっと後ろを振り返るなりニヤっと笑う相沢さん。

 やはり彼女は音羽とどこか似ている……


「いや、なんで私が」

「だって、幼馴染同士なんでしょー?」

「みんなその“幼馴染同士なんだから”っていう不可思議な理由を息するように使うけどさ、言われる側からしたら謎でしかないからね?」

「まあまあ、そう言わず。このままお昼も食べれずに寝っぱなしってのも可哀想でしょ~?」


 だったら君が起こしてきなさいよと言いかけて、それもなんか違うかと思い直して口をつぐむ。


「……ま、寝かせといていいんじゃない?」

「そりゃまたどうして?」

「どうしてって……そりゃ……」


 脳裏には、夜遅くまで光が漏れていた彼の部屋の窓が写されていた。

 新は、バカで鈍感で無神経な私の幼馴染だ。

 でも、それ以上に彼は努力家なのだ。

 私以上に、自分の好きを見つけて、そしてがむしゃらに前に進んでいく。

 不意に、そんなことを思ってしまった私は、自分の想いを誤魔化すかのように無理やり表情を作り、「まあ、あのバカも疲れてるだろうしさ」とだけ口に出す。


「ご飯なら部活の前に食べれるし、今は寝かせとこ」

「……うん、そっか」

「…………え、何?」

「べっつに~?」


 そんな私の内心を知ってか知らずか、相沢さんは私の方を見てにっこりと笑ったのだった。


 *


 読み稽古も順調に進み、私も新もようやく自分と役との距離を縮められてきたかなといった具合になってきたその週の終わり。

 何度目かわからない通し読みが終わり、今日はそろそろ解散かなといったところで神原先輩は「少しいいかな」と私達の雑談を遮った。


 今度はどんな試練がくるのだろう。


 そんな風に身構えたのが顔に出ていたのだろうか。先輩は「いや、そんな警戒しないで大丈夫だから!」と慌ててフランクな感じに振舞って見せる。


「で、ご用件は……」

「だから、君たち私のこと警戒しすぎだってば。私がどう見えてるかは知らないけど、これでも結構君たちを高く評価してるんだからね?」

「あ、ありがとうございます……」


 さらっと言われたが、その言葉は素直に嬉しい。

 やったぜと内心ガッツポーズをしたところで、先輩は「なので」と言葉を続ける。


「そろそろ読み稽古も終わりにして、半立ち稽古に入ろうと思います」


 その言葉を聞いて、ああ、評価されるとさらにその上のステップに連れていかれてしまうのかと、私は思わず世の不条理を嘆かずにはいられなかった。

 なんて、そんな風に嘆いている場合じゃないんですけどネ。

自分で書いておいてなんだけど、相沢さん可愛い。好き。

リメイク版から追加したキャラなんですが、喋り方から何から大のお気に入りです。すこれ。

次回更新は来週月曜の22時のはずです。頑張れ来週の自分。

では、また!!

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