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第16話 彼ら彼女らが、彼ら彼女らであるために。 前編

16話です。またまた更新延期しちゃっててごめんなさい…

 結局、新と話したところで“読み込む”の正解はわからないまま、その日も部活が始まってしまった。

 挨拶もそこそこに、音羽は凛先輩のところへ昨日の作業の続きをしに行き、稽古場には私と新、それに神原先輩の3人が残される。


「さて……2人とも、すごい浮かない顔してるけど、大丈夫?」

「ええ……まあ、なんとか」


 ため息交じりにそう答えると、先輩は「まあ、難しいよねぇ」と言って困った様に笑ってみせる。


「いえ、難しいなってのもそうなんですけど、なんていうか……その、申し訳ないなって」

 するとふと、新が重い口を開く。

「申し訳ない?」

「ええ。台本選びの時も、俺らの台本が完成するまで長々待たせてしまって、ただでさえスケジュールヤバいのに、さらに今こうして俺らのせいで部全体として足踏みをさせてしまって……」

「……」


 その言葉に、私も思わず口をつぐむ。

 心のどこかで感じていた良心の呵責は、まさに彼が言った通りのことだった。

 自然とうつむく私達に、しかし神原先輩は笑って「なんだ、そんなこと気にしてたのか」と私達の肩を叩く。


「あのね、この間も言ったけど、君らはまだまだ初心者なんだから、何事も手探りなのは当たり前でしょ? それで、そんな君たちを導きすぎないほどに導くのが、私達先輩の役目なんだから、そこで変に遠慮なんてしなくていいのよ」

「でも……」

「私も凛も、君らが色々なトラブルにつまずいてしまうことを想定したうえでスケジュールは組んでるし、本当に困った時はちゃんと助け船を出すから。だから、もう少し先輩を信用なさいな」


 そう言ってドンっと胸を叩く神原先輩。


「……先輩」

「……ありがとうございます」

「いいのいいの。私だって、去年先輩にそうやって鍛えられたからさ」

「神原先輩が、ですか?」

「何、その意外そうな顔は」

「ああ、いえ。ただその、先輩って何でもできるようなイメージがあったので、少し意外だなって」


 意外、というか、もたついている先輩の姿がイマイチ想像できない。

 すると、先輩は「なんだそりゃ」と笑って言葉を続ける。


「私だって、たくさん先輩に迷惑かけて、それで今こうしてここにいるんだよ。だから、全然そんなんじゃないって」

「先輩……」


 どこか遠くを見つめる先輩の目は、果たしてどこを見据えているのだろうか。

 神原先輩が教わったという先輩の存在──。

 だがしかし、先輩の佇まいはその“先輩”の存在を聞くことを許さないような、そんな雰囲気を纏っている気がした。


「……今日も、よろしくお願いします」


 話を変えようと、改めて新と頭を下げると、先輩は我に返ったように「こちらこそ、よろしくね」と微笑む。


「さて、2人とも今日は何をしたい? 昨日言った通り、今日は何かしたいことがあれば、って感じだから、なんでも聞いてくれて大丈夫だよ」

「あ、じゃあエチュードを……」


 ふざけたことを言う新をひっぱたきつつ、「とりあえず台本読みからお願いします」と先輩に言う。


「昨日、家で全体に目を通したり、台詞を覚えてみたり、色々したんですけど、結局台詞を読み上げるだけでいいのかなっていうのが凄い思ったので……その辺チェックしてほしいです」

「オーケー、じゃあ台本読みやろうか」


 先輩の「決定!」という鶴の一声で、私達は円になって座り直す。


「そうだ、先に場分けをしておこう」

「場分け、ですか?」

「そうそう。国語とかで文章の段落分けとかやらなかった? まあ、あれみたいなもんだよ」

「ああ、なるほど。練習するときに『今日はこの段落』みたいにできますもんね」

「そゆこと。じゃあ、今回は……まず、1ページ冒頭から1場」

「はい」


 先輩の言う通り台本にメモを取っていく。


「で、次、4ページ冒頭、語りの『こうして』から2場」

「はい」

「次、6ページ最後の語り『一方』から3場、8ページ中盤のト書きから4場。で、最後、10ページの中盤、織姫の『あら』から最後までが5場!」

「は、はいっ!」


 殴り書きではあるがなんとかメモを取り終わる。

 なるほど、確かに段落分けだ。場面の転換のタイミングなどで場が区切られている。


「で、じゃあとりあえず今日は1場をやってみようかな。2人とも、準備出来たら言って」

「はい、私は大丈夫です」


 正確には「今更騒いでも仕方がないし、大丈夫と言うしかない」なのだが、まあ大丈夫と言ってしまって遜色ないだろう。

 一方の新の方もバタバタと台本を確認していたが、すぐに「大丈夫です」と明らかに大丈夫じゃない顔で呟く。


「よし、じゃあ1場、私が止めるまでね。はい!」


 手パン。


──むかしむかし、神様が星空を支配していたころ、天の川の西の岸に、織女しゅくじょという神様の娘が住んでおりました。織女は機織りがたいへん上手で、彼女の織った布は雲錦と呼ばれ、色も柄も美しく、丈夫で着心地も軽い、それはそれは素晴らしいものでした。


──よし、これで完成っと……さて、次のに取り掛かろっと。


──織女、彼女は星座で言えば“夏の大三角”の一角、こと座のベガに当たり、俗に織姫の名で広く知られています。さて、一方、天の川の東の岸には、牛飼いの青年、牽牛が住んでおりました。牽牛は、毎日天の川で牛を洗い、おいしい草を食べさせたりと、よく牛のめんどうをみる、働き者でした。


──よーしよし、たくさん食えよー?


──牽牛、彼は星座で言えば“夏の大三角”の一角、わし座のアルタイルに当たり、俗に彦星の名で広く知られています。そんなある日のこと。来る日も来る日も機織りばかりしている娘を心配した神様が、彼女の結婚相手を探していると、天の川の側で彦星を見つけました。そしてその働き者ぶりに大変感心し、2人を引き合わせることにしました。

──この頃はまだ天の川には橋が架かっており、この大河を誰でも容易に渡ることができたのです。


──あなたは? ここで何をしているの?

──俺は……川の向こうで牛を飼っている彦星ってもんだ。色々あって、呼ばれてな。そちらは?

──じゃあ、あなたが例の?

──例の?

──ええ。あなたがお父様が仰ってた方なのでしょう? 真面目で優しく、仕事熱心な男がいるから一度会ってみないかって、私お父様にそう言われて今日はここにやってきたんです。

──そう、だったんですか。……そんなに褒めてもらえて、その上、こんな綺麗な人との結婚相手候補に選んでいただけるなんて……本当に光栄ですよ。

──まあ、綺麗だなんて。

──いえいえ、謙遜なさらないでください。織姫さんといえば、星空中で知らない者は誰もいない、それはそれは美しい方だと噂で聞き及んでいました。でも、こうして実際に会ってみると、貴女はそんな噂以上に美しくて驚きました! ……正直、俺みたいな一介の人間には、眩しくて直視できませんよ。

──いえいえ、そんなこと仰らないで? ほら、私のことちゃんと見てくれませんか?


 そこで再び神原先輩が手パンをし、私はハッと顔を上げた。

後編に続きます!

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