第15話 台本どっこいしょ 前編
すいません、更新遅れました。というか先週も更新お休みしてましたね…
定期更新、頑張らねば…
なにはともあれ、15話です!どうぞ!
なし崩し的にではあったが、七夕公演の具体的な配役も決まり、私の役者デビューも確定したところで、先輩は「とりあえず明日の部活は任意参加でいいから、家で一通り台本を読み込んできて」と言った。
「えーっと、すいません。イマイチピンとこないんですが……その、それはどういう意味ですか?」
「ちーちゃん、そんな身構えなくても大丈夫だよ。読んで字のごとく、明日の部活はあまり気にせず、台本を読み込むことを第一に考えてね、ってこと。もちろん、質問とか疑問点とかあれば、遠慮なく明日も稽古場に来てくれていいけどさ」
「な、なるほど……?」
さっきざっくりしか読めてないから、また改めて音羽の台本に目を通しとけってこと……でいいのだろうか?
先輩の説明はわかるような、でもどこか引っ掛かりを覚えるような、何とも言えない微妙なものな気がした。
すると、隣で新が「あの」と手を挙げる。
「その“台本を読み込む”ってのは、要は台詞を覚えて来いってことですか? 俺も千代も、役が確定したわけですし……」
私も若干モヤっていた個所を的確に聞いてくれた新に内心感謝しつつ、神原先輩の反応を伺うと、先輩はこれまた何とも取りがたい笑みを浮かべて、「さあねぇ」と呟く。
「まあ、まだ入りたての君らに丸投げするっても少し気は引けるんだけど、でも、せっかくの機会だし、その辺も一度自分らで考えてごらん」
「俺たちで、ですか」
「そう。実際に役者に選ばれて、台本を渡されて、そこで君らは何をすべきなのか。それと、私の言う“読み込んできて”の意味、とかね」
「は、はあ……」
いたずらっぽく笑う先輩とは対照的に、私達は困った様に顔を見合わせてしまう。
「ま、本当にわかんなかったら聞いてきてよ。私だって、別に新くんたちをいじめたいわけじゃなくて、単に考えるいい機会かなって思っただけだからさ」
「はい。わかりました」
まあ、でも先輩からそう言われてしまったら仕方がない。
とりあえず、後で音羽から台本を受け取って改めて見直してみるとしよう。
「想像以上に大変かもしれないな、公演って」
「だね」
新が小声で呟いたその言葉は、全面的に私の内心そのものだった。
*
その後、音羽が凛先輩のいる保健室から中々返ってこないので、私達稽古場組みは一足先に解散し、私は単身保健室に音羽を迎えに向かった。
「失礼しまーす。凛先輩たちに用があって……」
そう言いながらドアを開けると、そこには台本を囲んであれやこれやと熱心に議論をする2人の姿があった。
「あ、ちーちゃんだ」
「おはようございます、先輩。あれ、2人だけですか?」
「うん。先生もさっきからどっか行っちゃって」
「保健室自体、来訪者もそこまで多くないしね」
あっけらかんと言い切る音羽に、内心、2人が保健室内で熱心に何かしてる上に、先生がいないから、来た人も入りにくくて帰ってるだけでは、とそんなことを考えるも、なんとか口にする前に消化しきる。
「それで、どうしたの、ちーちゃん」
「ああ、うん。もう時間も時間だし、稽古場組は一足先に解散したから、それを伝えに」
「ありゃ、もうそんな時間か」
慌てて部屋の時計を確認する音羽。
時刻は既に最終下校時刻まで30分を切っていた。
「凛先輩、すいません、続きはまた明日でも大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ。お疲れ様」
「お疲れ様です! よし、ちーちゃん、部室に戻って着替えて帰ろう!」
「切り替え早いな」
いそいそと荷物をまとめて撤収する音羽の後を追いかけつつ、「そうだ」と神原先輩が言っていたことを思い出す。
「これからの具体的な練習スケジュ―ル、神原先輩が言ってたから伝えておこうと思って」
「はいよ」
「まだざっくりだけど、来週の水曜までが読み稽古で、そこから1週間くらいで半立ち稽古、以後は立ち稽古、って感じだって」
「え、それって結構シビアじゃない……?」
器用にも階段を駆け上がりながら返事をする音羽に、私も「まあ、それはそうだけど」と返す。
確かに、各稽古の期間が1週間ずつしかないというのは、素人目に見てもかなり厳しいスケジュールに思える。
やはり、台本を書くのに時間をかけすぎたのが原因かなぁとそんなことを考えて、若干胃が痛くなる。
すると、まるで私の心を読んだかのように音羽は「でもそっか、期末試験の日程もあるもんね」と呟く。
「7月7日が公演日で、その翌日から期末ってことは、その直前1週間は練習できないってことだもんね……」
「いや、先輩そこは無理矢理やるって言ってたよ」
「うーん……それはそれでどうなんだろう……」
「仕方ないんじゃない?」
「……かねぇ?」
具体的なカレンダーなどが目の前にない状態で色々スケジュールについて話していると、段々何が何だか分からなくなってきて、終いには音羽と「まあ何とかなるか!」などと言って笑いだす始末。
散々苦労して仕上げた台本があっさり音羽に抜かされたり、かと思えば新と共に役者に選ばれたりと、色々一気にありすぎた1日に、私も想像以上に疲れていたのだろうか。
そんな音羽にはははと覇気のない返事をする。
そして私達は、さっさと部室の荷物をまとめて学校を後にした。
「あ、そうだ、これ」
校門を出たところで、音羽は忘れてたわと苦笑を浮かべて台本の束を渡してくる。
「ありがとう。でも、これってまだ完成版じゃないよね?」
「うん、まあそうなんだけど、凛先輩と調整してたのはト書き関係だから、台詞とかは大きく変わらないはず。だから、とりあえず渡しておこうかなって」
「なるほどね」
「あ、でも私新っちに渡してないから、ちーちゃんの方で台本、テキトーにコピーして1部彼に渡してあげてくれない?」
「うん、別にいいけど……なんであんた、そんなニヤついてるの?」
見ると、あからさまに楽しそうな笑みを浮かべる音羽。
「いーやー? べっつにー?」
「何かある時の常套句じゃん、それ」
「いやー? すっかりちーちゃんも、新っちの存在を当たり前のものとして認識してるなぁとか、まるで『これ、旦那さんに渡しといてください』みたいだなぁとか、そんなこと全く考えてないよ??」
「なんでも正直に言えば許されると思わないでね?」
「おお、怖い、怖いよちーちゃん!!」
マジトーンでそう返すと、口では怖がりつつも楽しそうに反応する音羽。
まったくこの子は……
「……まあ、なんだかんだ、ね。慣れるよ、そりゃ」
「ん? 何か言った?」
「いんや。なにも」
小声で呟いたその言葉は、幸か不幸か音羽の耳には入っていないようで、どこか安心する。
「さて、覚えますかね」
「うん、頑張って」
なにはともあれ今はとりあえず、目の前の台本を何とかせねば。
「……まあ、昨日も一昨日も台本と向き合ってはいたんだけどね」
「それを言っちゃあお終いだよ……」
そんな、やや気落ちしたような音羽のツッコミは、夕暮れの帰り道に静かに吸い込まれていった。
後編に続きます!




