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第14話 今日から織姫、始めます。 前編

第14話です。

 神原先輩から今後の練習についての話があった日から、否、先輩から「台本はもうそろそろ仕上がってないとマズい」という宣告を受けた日から、私はせめて自分なりに満足がいくようにと、勉強も授業もそっちのけで台本に打ち込み続けた。


 が、案の定というか……所詮は素人の悪あがきでしかないわけで。

 金曜日の朝には、なんとか台本にも見えなくもない程度の“台本”は出来上がっていたが、しかしこれが私なりに満足のいく代物かと言われれば、さらに言えば公演で使えるかと言われると、正直それには自分で「No」と言わざるを得ない出来栄えでもあった。


 まあ、何はともかく、今は完成したことを喜ぶべきか……

 カーテンの隙間から差し込む朝日に目を細めながら、私はそう考えてぐーっと大きく伸びをする。

 すると、ふとスマホが鳴っていることに気付く。

 寝落ち防止用のアラームにしては少し早な、なんて思いつつスマホを手に取ると、新から電話がかかって来ていた。


「もしもし?」

『ああ、もしもし? 朝早くに悪いな……』

「ううん、大丈夫。今夜は台本の作業でずっと起きてたから」

『そうか、奇遇だな』


 電話口から聞こえてくる彼の声はすっかり疲れ切っており、おそらく彼の方も台本デスマーチを丁度終えたところだろうというのが容易に伝わってきた。


『それで、千代の方は完成したのか?』

「まあ、一応は」

『そうか、凄いな……ちなみに、出来はどんな感じだ?』

「うーん……遠目に見れば辛うじて台本に見えなくもない、って感じかな?」

『なんだその不安しかない表現……大抵の縦書きの文章は遠目で見れば台本に見えなくもないだろ……』

「そ。要はそういうこと」


 笑いながらそう返す私に、新は『怖いわ……』と苦笑気味に答える。


『……まあ、でも実際そんなもんだよな。ツッコんでおいてなんだけど、俺の方もそんな感じだよ』

「あ、でも完成はしたの?」

『一応、ついさっきな。自分で言うのもなんだけど、そりゃあ酷い出来だぜ?』

「でしょうね」

『そこで全肯定されると少しイラっとくるな』

「ごめんて」


 まあ、何だかんだ言い合ってはいるが、おそらく彼の方も私とほぼ同じ状況だろうし。

 なんにせよ、台本に関して私達じゃこれ以上はどうしようもない感は否めない。

 私達なりに、できる限りはやった。

 後は煮るなり焼くなり没にするなり、先輩方にお任せするとしよう。

 そんなことを考えた私は、徹夜明け独特の空気を存分に楽しみながら、登校時間ギリギリまでそうして新と談笑し続けたのだった。


 *


 そして、放課後の稽古場にて。

 今日も凛先輩は欠席する中、神原先輩を中心に私達は緊張した顔つきでぐるりと円になって座っていた。

 先輩のその手には、先ほどPC室で印刷してきたばかりの私達が書いた台本が4部。

 ……4部?


「あれ、先輩。なんで台本が4部あるんですか?」


 私の書いた台本、新の書いた台本、それに神原先輩が書いた台本の3部があるのはわかるが……あと1つは?

 もしかして、神原先輩が2種類書いてきたとか、凛先輩が1部書いたとかだろうかと思っていると、先輩は「ああ、これ? 音羽ちゃんのだよ」とあっさりと言ってのける。


「お、音羽の、ですか?!」


 いや音羽、書けたら書くっていう、どう考えても書かない人みたいなこと言ってたじゃん!!

 マジかという視線を音羽の方に向けると、音羽は「最初は書く気なかったんだけど、段々気になってきてサ」と、大して気にも留めてないかのようにさらっと呟く。


「なんだそりゃ……私、『できたらやります』って言って、マジでちゃんとやる人、初めて見たよ……」


 まあ、音羽らしいといえば音羽らしいけどさ。

 などとやっているうちに、神原先輩が「私は全部軽く目を通したから、今度は3人で読み比べてみてよ」と、何故か少しテンション低めに言って、台本を4部手渡される。

 はて、どうしたのだろう?

 少し引っ掛かりは覚えたが、とりあえずテキトーに新と音羽に1部ずつ手渡し、私も1部取ってページをめくって読み始める。


「……おや?」


 最初、神原先輩の書いた台本かなと、私はそう思った。

 台詞もト書きもちゃんとしていて、そしてなによりエンディングまでしっかりと作られている。

 設定自体も七夕伝説という、ある種ありきたりともいえる題材を違和感を覚えない程度に改変していて、読んでいて飽きが来ない良い塩梅だと、素人の私ですらそう思えた。

 なるほど、これが台本か。さすが先輩、良いものを書くなぁ。勉強になるなぁ。

 純粋にそう思った。

 そう。作者の名前を見るまでは。


「……東雲、音羽……?」


 ん? どういうことだ?

 これはつまり、音羽が書いた台本だと、そういうことか???

 慌てて新と音羽が読んでいる2部、そして手を付けていない1部に目をやると、それぞれ私と新、それに神原先輩の名前がそこにはあった。


「……マジですか」

「どうしたの、ちーちゃん?」


 思わずつぶやいて顔を覆う私を不審そうに見る新と、そんな私に「察しちゃったか」という同情の視線を送ってくる神原先輩。

 とりあえず音羽の台本を読むのもそこそこに、今度は神原先輩の台本を手に取って読んでみる。

 ……が、まあ確かに面白いし、私や新なんかよりはよっぽど凄い出来なのだが……

 しかし、音羽のと比べると、先輩のですらどこか霞んで見えてしまった。

 なるほど。先輩がさっきどこかテンション低めだったのはこういうことか。

 ジトっとした目線を音羽に送りつつ、とりあえず新に音羽の台本を手渡す。


「え、俺まだこれ読んでるんだけど……」

「私の書いたクソ台本なんか、これ以上読まなくていいからまずはそれ読んでみて」

「お、おう……?」


 解せぬという表情で台本を受け取る新だったが、作者名を見てすぐに何かを察した表情になる。


「……東雲、お前ズルいぞ」

「え、え? 私?」

「なんだその“私何かやっちゃいましたか?”みたいなアホ面は……腹立つな」


 ぶつぶつと文句を言いつつ、台本を読み終えた新は、ふうと大きなため息を1つついて「もうこれ、東雲のでいいだろ」とやけくそ気味に呟く。


「だよねぇ……私もそう思った」

「いや、先輩までそんな……全然お遊びで書いただけなんで!!」

「私、今回の結構本気で書いたんだけどなぁ……」


 若干マジで凹むセンパイに、慰めというわけではないが「音羽は昔から才能お化けですから」と声をかけておく。

 音羽このこはそういう人なのだ。

 いちいち彼女と比べて、そんで劣等感に苛まれていたら身が持たないということを、私は中学3年間で身をもって学んだ。


「まあ、でもここまで出来がいいと他と比べるまでもないかな」

「ですです!!」

「そうですよ!!」

「お、おう……ちーちゃんと新くんの押しが強いねぇ……まあ、そうだね。そうしよう」


 ……私と新が音羽の台本を採用するのに賛成なのは、主に私達の台本を早く忘れてほしいからなんですけどね……

 とはまさか口には出さなかったが、実際私の内心は「音羽すげー」よりも、どこかほっとする気持ちが勝っていた。


「音羽ちゃんもそれでいい?」

「は、はい。ありがとうございます」

「じゃあ、早速だけど、いい出来とは言ってもまだまだ台本として直すべき箇所はたくさんあるから、その辺凛ちゃんのところに行って見てもらってきてくれるかな?」

「わかりました!」


 そう言って台本を片手に稽古場を後にする音羽を見送ると、神原先輩は「さて」と私達に向き直る。

後編へ続きます~

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