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第13話 台本執筆(仮) 後編

後編です。

 しかし、やはりというかなんというか、中々一筋縄ではいかないもので。

 その日も放課後いっぱいPCを前にして苦しんでみたものの、ほとんど前に進まず、私はいい加減自分の才能のなさに絶望しかけていた。

 そうして再びPCを枕にして寝落ちしてしまい、学校ではほとんどの授業を机に突っ伏して過ごし、相沢さんに「大丈夫~?」と散々心配されることとなったのだった。

 そしてそのままの状態で部室に顔を出したものだから、先に来ていた音羽と神原先輩にも同じようなリアクションを取られてしまい……。


「ちーちゃん、大丈夫? 凄い顔してるけど」

「ちゃんと寝てる? 生きてる?」


 軽く本気で心配してくれる2人に「いえ、大丈夫です……」と自分でもびっくりするくらい覇気のない返事を返す。


「少し自分の無能さに絶望してるだけなんで……」

「ど、どういう状況……?」


 ポカンとする神原先輩に、音羽が「多分台本のことだと思います」と説明する。


「なんていうか……まさか最初っからスラスラ書けるとも思ってませんでしたけど、でもこんなに進まないもんなんだなって思って……」

「まあ、言いたいことはわかるけど……私も未だに台本は書き慣れないし」

「そうしているうちに“書けない”ことよりも“進まない自分”に嫌気がさしてきまして……だって二晩かけて台詞10個とかですよ……?」

「二晩ってのは、単にちーちゃんが徹夜慣れしてないだけのような気もするけど……」


 ぼそっと呟いた音羽をばしっと軽くひっぱたくと、「だって寝落ちしたんでしょ!?」となんとも痛いところを突かれてしまう。


「まあまあ、最初はみんなそんなもんだよ。ちーちゃんは凄い真面目だから、なんとしても書かなきゃっていって、ある種自分を追い込んでるのかもしれないけど、でもそんな無理しなくても大丈夫だからね?」

「そう、なんですかね」

「もちろん。繰り返しになるけど、最初っから上手くいく訳ないんだからさ。凄いのが書けたら儲けものくらいに捉えてて大丈夫よ」


 ニコッと笑って、「凛ちゃんは多分そういう意味で『頑張って』って言ったんだと思うよ」と言う先輩。


「まあ……頑張ってはみますけど……」


 先輩のご厚意は嬉しいが、けれどじゃあ完成させられるかと言われてしまうと、正直それすら怪しいというのが本音でもある。

 この先どう書いたものかと頭を悩ませながら着替えを済ませ、稽古場に足を運ぶと、そこにはおそらく私と全く同一の悩みを抱えているであろう顔をした新が1人、死んだようにソファーに腰かけていた。


「だ、大丈夫……? 顔が死んでるけど」

「それはお互い様じゃないか、千代……お前だって死んでるぞ」

「そりゃあ……ねぇ?」


 どうやら予想通り新は新で台本に挑戦しているらしく、「一応今こんな感じ」と彼の方から印刷された書きかけの台本を手渡される。


「……いいの? 私が今読んじゃって」

「別に大丈夫だぞ。どうせそのうち人の目に触れるもんだし、書けなさすぎて恥ずかしいけど、でも恥ずかしがっても仕方ないしな」

「おー……割り切ってるねぇ」


 茶々を入れながら台本に目を通すと、新は「諦めがついてるだけだよ」と言って苦笑する。

 まあ、実際そんなところだろうとは思ってた。


 ……それはそうと、結構書けてるな。

 彼の台本もまだまだ完成には程遠く、ギリギリ台本と呼べる程度の分量ではあったが、しかし、それでも内容は私より遥かにしっかりしているように思えた。

 まあ、まともに台本も読んだことのない私の言う“しっかり”が、果たしてどこまで信憑性があるかはなんとも言えないが……

 なんだかんだ言って色々器用だよなぁと内心悔しいような、それでも尊敬のような、そんな闇鍋のような気分にいなっていると新が


「それより、お前のは読ませてくれないのか?」などと言ってきた。

「え? 死んでも嫌だけど?」

「ええー……今の流れ、完全に『じゃあ私も隠しても仕方ないか! ほら、見てよ!』ってなる感じだったじゃん……」

「いや、普通に酷い出来すぎて、とても人様に見せられたものでは……それに、貴方様の台本を拝見した後だと、なおのこと憚られてしまいます……」

「急に改まって喋るな。バカにしてんのか?」

「それはもう、とっても」

「よし、表に出ろ。今日という今日は白黒つけてやる」

「えー」


 ……などと、いつものようにじゃれ合っていると、そこに遅れて神原先輩と音羽と、そして珍しく凛先輩が稽古場に入ってきた。

 一旦新に書きかけの台本を返し、いつものように円になって挨拶して部活を始める。


「さて……今日の活動内容だけど、まずは少し、公演について追加で説明しておくことがあるんだ」


 開口一番、昨日今日で聞いた台本という新たな存在に苦しめられてる私や新にとっては、どうにも不穏なことを口走る先輩。

 だが、思わず顔をしかめた私達を見て、神原先輩が「ああ、違う違う! 台本の時みたいな何かを君らに振るような類の話じゃないから安心して!」と言ってきたので、私は少しだけ胸を撫で下ろせた。

 しかし、先輩は私らの心を読めるのだろうか……?


「今日話すのは、公演までの具体的な稽古方法についてだね」

「稽古方法、ですか?」

「そう。稽古とは言っても、何も闇雲に台本の台詞を全部覚えて、そんで動けばいいってもんでもないからね」

「そう、なんですか……」


 正直、それ以前に知識がなさ過ぎて、“稽古”と言われても、あまりイメージが湧かないのだけれど……

 そんな私の内心は置いておいて、話を前に進めよう。


「まずは台本が決まらないことにはなんだけど、ひとまず決まったと仮定して、じゃあそこからどうやって稽古を始めるか、わかる?」

「さあ……全然想像つかないです」

「まあ、そうだろうね。段階としては約3段階あって、まずは台本読みから入るのが普通かな」

「ああ、前に今度やってみないかって言ってた……」

「そうそう!」


 台本読みは読んで字のごとく、実際の動きなどはやらずに、台詞だけどみんなで読み合わせする訓練のことだ。

 なるほど、まずは台詞をしっかり言うことに集中するということか……


「そんである程度台詞の読み方とか解釈の方向性が決まったら、今度は半立ち稽古で、その次が立ち稽古で、最後はもう本番、って感じかな」

「半立ち稽古、ですか」

「そう。立ち稽古には実際の舞台と同じように、台詞も動きも全部覚えた状態で挑むんだけど、そこでしっかり物語を前に進めるための最後のブラッシュアップをするのさ」

「リハーサル、みたいな感じですか?」


 音羽の質問に「うーん」と言葉に迷う神原先輩。


「……言うなれば、リハーサルのリハーサルって感じかな?」

「な、なるほど?」

「そんで、そんな立ち稽古の半分、つまり台本は持った状態で、実際と同じように稽古するのが半立ち稽古だね」

「えっと、じゃあつまり、台本読みで台詞を研究して、半立ち稽古で動きを覚えて、立ち稽古でその全てをまとめるって理解であってます?」

「新くん、イエスだよ! そーゆーことであってるよ!」

「なるほど……」


 “稽古”と一言に言っても、そんなに色々と過程があるのか……全然知らなかった……。

 一応先輩に説明されたことを脳内で軽く整理していると、凛先輩が「でもスケジュール的に結構七夕公演ってキツいんだよねぇー」とまたしても不穏なことを言いだした。


「ま、仕方ないんだけどね」

「ね」


 顔を見合わせて苦笑いする先輩方に、恐る恐る「ちなみに、具体的にはどんな感じのスケジュールなんですか……?」と勇気を振り絞って聞いてみる。


「うーん、まだハッキリとは言えないけど、大体今週中には台本決まってないとマズいかな、って感じだって思ってくれればいいと思う」

「ま、マジすか……」


 今週中に、ということは当然、それまでに私はあの大作ださくを仕上げねばならないのか……


「……キッツいなぁ」


 なんだかどうしていいのか見失ってしまった私は、小さくそう呟いて稽古場の高い天井を見上げたのだった。

今回も読んでいただいてありがとうございました。

少しでも楽しんでいただけたのなら評価等、是非よろしくお願いします。

次回更新は10/26日22時です。

では、また!

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