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第13話 台本執筆(仮) 前編

定期更新って素晴らしい…

 その日の夜。

 帰宅した私は、夕食後すぐに親のPCを借りて、凛先輩に言われた通りに台本を書き始めてみたのだったが……しかし、原稿用紙1枚程度の作文ですらヒイヒイ言いながら書き上げるような、ましてや台本なんて読んだことも書いたこともないような素人が、突然書いてみろと言われても、上手く書けるはずもなく。

 開始10分で私は早くもPCにもたれかかって「うー」という謎の唸り声をあげる羽目になっていた。

 まあ、大体予想通りだったけどね……

 そりゃ、書けるはずがないわな……


「はァ……荷が重いなぁ」


 まさか先輩とて、何がなんでも七夕公演に私達の誰かが書いた台本を使うつもりではないだろうし、書けなかったら書けなかたったらで、その“既存台本”とやらから何か丁度いいのを見つけてくるのだろうけれど、しかしそうは言ってもだ。

 凛先輩のあの笑顔を裏切るわけにもいくまいて……


『頑張ってね』


 そう言ってにっこり微笑む先輩の顔が脳裏にちらつき、私は再度ため息をつく。

 画面上には、未だ「七夕公演用台本(仮)」というタイトルの文字しか浮かんでいない。


「……一体何を書けばいいんだろう」


 先輩から送られてきたメールを改めて見返してみる。


「『台本は“ト書き”と呼ばれる登場人物たちの行動を書いたものと、登場人物たちの台詞によって構成されています。基本的に台詞は誰の台詞かわかるように“丸々「~~~~~」”のように書いてト書きと書き分けます。他にも照明のON・OFFや音響などの指示も書き込みますが、まずはそういったことは気にせずに、台詞とト書きをメインに書いてみてください。頑張って!』……と、言われてもなぁ」


 丁寧に具体的な書き方の例までメールには添付されていたが、しかし、いくら形式を理解したところで、何を書いていいのか、台本の内容が思いつかなければ書き進めようがない。

 すがるような思いで再度添付ファイルを開いてみるが、当然ながら内容の助けになるようなアイデアがそこにあるはずもなく。

 再度私は、仮称にも程があるタイトルしか書いてない画面を睨みつけて、何か気の利いたアイデアの1つでも浮かび上がってこないだろうかと、PCに向かって念を送ってみる。


「……ダメかぁ」


 いや、冷静に考えてみればダメなのは何よりも私の頭か。

 そんなことを思ってしまってちょっとがっくししてしまう。

 ふと窓の外に目をやると、向かいにある新の部屋もまだ電気がついているようで、カーテンの隙間から光が漏れ出していた。


「……新も、書いてるのかな」


 あの時、若干いやいやながらも頷いていたのだ。

 きっと今頃、私と同じかそれ以上にPCに向かってもがき苦しんで、もしくは死んでいることだろう。

 まさか、順調に書き進んでいるなんてことは……ない、はずだ。

 ……なんて、他人のことをどうこう考えている場合じゃない。

 まずは目の前のこの惨状をなんとかしなくては。


「はあ……参ったなこりゃ」


 とはいえとはいえである。

 ひとまず休憩とばかりに、私はスマホに手を伸ばして迷わず音羽に電話をかけた。


『はい、もしもし? どうしたの、ちーちゃん。こんな時間に』

「ああ、もしもし。ごめんごめん、少し愚痴兼相談みたいな?」

『愚痴と相談じゃだいぶ違う気がするけど……まあいいや。で、どしたのさ』


 なんだかんだ言いながらも気前よく話を聞いてくれる音羽さんのこと、私結構好きよ。

 などと考えながら「実は……」と今の惨状をかいつまんで説明する。

 ちなみに、昼に凛先輩から受けた説明は既に音羽に伝達済みである。


『なるほどねぇ。書き始めたはいいが、全然進まず困ってる、と』

「まあ、タイトルしか書いてないのに、それを書き始めたと言っていいのか微妙な気はするけど」

『いやダメでしょ』

「デスヨネー……って言いたいのはやまやまだけどさ、でも実際キツイよ?! こんなトーシロが台本なんか書けるはずないじゃんって話!」

『それ、私じゃなくて凛先輩に直接言いなよ』

「いや、違うんだって。別に文句とかじゃなくて……なんていうか、コツとかあるのかなって」

『コツ、ねぇ?』


 話を聞いた感じ、凛先輩や神原先輩はおそらく過去に何度か台本を書いたことがあるのだろう。だからこそ、あのように色々と説明できたのだろう。

 そんな台本を書くのに慣れた先輩方にとっては、新しく台本を書くということは造作もないことなのかもしれないが、ならばせめて、具体的にこんな話にしたらどう?くらいのアイデアは出してほしかったなというのが、正直な本音ではある。


『って、やっぱり文句じゃん』

「……そうなっちゃうかね?」

『まあ、ちーちゃんの言わんとすることはわかるけど、でもそれ、先輩方がストーリー考えちゃったら、最早それはちーちゃんが書いたとは言わなくない?』

「……それもそうか」


 確かに、それではただの代筆になってしまう。


『ま、最初は誰だって素人なんだから、まずはもがき苦しみながら頑張って書いてみて、そんで段々と書けるようになれって話なんでしょ、きっと』

「だねぇ……」


 相変わらず嫌になるくらい正論だなぁと感心して「じゃあね」と電話を切りそうになるが、ふと思いついたことがあったので「あ、待って」と慌てて電話を取り直す。


『ん? 何?』

「今ふと思ったんだけどさ、音羽は書かないの? 台本」

『へ? 私?』

「うん。なんか私と新が凛先輩から直接『頑張ってね』って言われたことで、まるで私達だけが書くみたいな流れになってたけど、そういえば音羽は書かないのかなって」


 まあ、多分私にも新にも台本を“書かなければならない”義務はないのだろうけれど。

 どうなんだろうと少し期待して返事を待つが、音羽は「さあー?」と、ふわっとした返事を返す。


「音羽、あんた無駄に才能豊かなんだから、せっかくだし書いてみなよ」

『うーん、どうしようかなぁ。まあ、気が乗ったらって感じで』

「どゆことさ」

『ま、書けたら書くってことで。じゃ、また明日~』

「あ、ちょ」


 はてなんだそりゃと私がモヤモヤしている間に、音羽から一方的に電話を切られてしまった。

 「書けたら書く」って、そんな「行けたら行く」みたいな……絶対書かないやつじゃん。

 まあ、音羽らしいっちゃ音羽らしいけどさ。

 そこまで考えてから、いやと思考を改める。


「書けたら書く、か……」


 なら、私は書けるのだから書いてしまおう。

 なんとなくそんなことを思い、私は再びタイトルしか書いてない画面に向かい直ったのだった。


 *


「……あ、朝」


 ふと目を開けると、窓の外が明るくなってしまっていた。

 どうやらいつの間にか寝落ちしてしまっていたらしい。


「進捗は……ああ、うん。知ってた」


 昨夜は少しくらい進んだっけか、はたまた小人さんが少しくらい進めておいてくれていないかなと若干の期待を込めてPCを叩き起こすも、残念ながらというか当然ながらというかそんなことはなく。

 画面上には相変わらずでかでかとタイトルと、4、5つほどの台詞が書いてあるのみだった。


「……ま、そんなすぐ書けたら苦労せんわな」


 あまり深く考えても仕方あるまい。

 とりあえず改めて書いたところまで保存して、幸いなことにまだいつも起床するくらいの時間だったので、テキパキと着替えて学校に行く準備をする。


「ま、なんとかなるでしょ」


 自分に言い聞かせるようにそう呟いて、私は部屋を後にしたのだった。

後編に続きます。

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