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第12話 見惚れろ!死んでしまえ!! 前編

第12話です。定期更新っていいもんだ…()

 そして、週明けの月曜日。

 流石に今日こそは、土曜日に返ってこなかった残りの科目も返ってくるだろうという頭の痛い事実を、さてどう受け流そうかとそんなことを考えて駅のホームでうんうん唸っていた私だったが、ふと後ろから肩を叩かれて我に返る。

 振り返らなくてもわかる。

 あいつだ。


「……おはよう、新」

「おう、おはよう、千代。……どうした、そんなむすっとして」


 そう言って隣に並んでくる新。


「そりゃ、むすっともするよ。あんた、今日が何の日かわかってるの?」

「何の日って、そりゃあ週明けの月曜日だけど……ああ、なるほど。それでか」

「そう。察しがよくて助かるよ」


 なるほどと頷く彼に、はあとため息を1つ。


「やっぱり週明けに学校行くのってダルいよなぁ。なんだっけ、日曜夕方の番組を見て憂鬱になる何か病気みたいな名前の」

「サザエさん症候群でしょ。……って、違う違う。全然私がむすっとしてる理由察してないじゃん!」

「え?」

「今日から本格的にテスト返ってくるってことが憂鬱なだけ! 別に週明けだから学校行きたくないとかじゃないから!」

「ああ、そういうことか。千代、テストヤバかったって言ってたもんな」

「それ以上言ってみなさい? 速攻で電車遅延の原因にしてあげるから」

「微妙に遠回しでリアルな脅しやめてくれない?」


 と言いつつも普段通りの様子の彼に再びため息を1つ。

 前言撤回。やはり新は新だった。


「それに、私どっちかっていうと学校好きなタイプだからね?」とよくわからない言い訳をしていると、丁度電車がやって来たので、一旦会話を切り上げてそこそこ混雑している電車に身体を押し込める。

 この忌々しい通勤ラッシュというものにも、ここ2か月ですっかり慣れてしまった。

 電車が揺れるのに合わせて周囲の肉壁に押され、前後左右にと揺られながら、人間の適応能力は無限なんだなぁとそんなことをぼんやりと考える。

 満員電車をやり過ごす一番のコツは、あまり深く物事を考えないことだろう。

 それは、隣で死にそうな顔で「死ぬ……」と小声で呟いている新を見れば明らかだった。


「ちょっと、あんたまだ慣れてないわけ?」


 周囲には聞こえないくらいの小声でそう言うと、新は


「俺まだこっち来てから1か月も経ってないんだぞ?! こんな地獄に慣れてたまるかよ……」と、器用にも小声で車に踏まれたカエルみたいな声色で返事を返してきた。


「でもこれからずっと乗るわけだし、慣れなきゃどうしようもないじゃん?」


 と言いつつ、まあ確かに彼の言う通り、こんな異常な空間に慣れてたまるかというのも頷ける話だ。

 文明が発達によって色々と便利な社会が形成されつつある昨今。

 いい加減、満員電車の1つくらい科学の力でどうにか解決できないものだろうか??

 とかなんとか愚にもつかないことを考えながら、新には「都心の方の満員電車はもっと酷いんだから、それと比べればマシだよ」と気休め程度に声をかけておく。

 そうしてしばらく心の感受性スイッチをオフしにしたまま、線路の揺れを楽しんでいると、あっという間に学校の最寄り駅に到着。

 周囲の柴高生と共に肉壁をかき分けてホームに降り立つころには、新はすっかりぐったりしてしまっていた。


「……大丈夫?」

「あ、ああ……お前に心配してもらえて俺は幸せ者だよ……」

「……頭でも打ったの?」

「冗談キツイなオイ……」


 気の抜けた声でそう言いつつ、ふらふらと歩き出す新。

 なんというか……少し可哀想になってきたな。

 新、まさかずっと毎朝こんな感じにグロッキーになって学校来てたのか……

 いや、思い返してみれば、私も音羽も最初の1か月はこんな感じだった気もするけど。


「……水、飲む?」


 見ると彼のリュックには水筒が差さっていなかったので、仕方なく自前の水筒を差し出す。

 すると、「いや、大丈夫。自分のがあるから」とリュックをまさぐる新。


「……あれ? おかしいな、確かに差したはずなんだが」

「あー……満員電車で無くしたパターンかぁ」


 あたふたとする新を見て、そういえば私も1回やったなぁと、封印したはずの記憶の蓋が少し開くのを感じる。

 確か、降りたら水筒の蓋だけ無くなってたんだっけ……


「……ドンマイ」


 マジかという表情の新の肩を叩き、まあ飲めやと私の水筒を差し出す。


「……なんか、スマンな」

「いいってことよ」


 凹みながら水を飲む新を見て、こんなにドタバタと翻弄されて弱気になる彼を見るのは初めてだなぁ、良いものが見れたなぁとか、不謹慎ながらそんなことを考えて思わず頬が緩んでしまう。


「お~や~?? お二人とも、朝から看護プレイに間接キッスとは、随分とお熱いですなぁ~?」


 そんな風に妙に和んでいたところへ、突然聞き覚えのある──というか内容的に一発で誰だかかわかる──声が聞こえてきた。

 これまた振り返るまでもない。絶対音羽だ。


「おはよう、音羽。そっちこそ朝から元気だね」

「おはよう、ちーちゃん! いやぁ、それほどでもあるけどね!」


 あははと楽しそうに笑う音羽。

 と、そうこうしているうちに新もある程度回復したようだったので、このままいつまでもホームに居座り続けてるわけにもいかないし、3人仲良く並んで学校を目指して歩き始める。

 するとふと、新が「そういえば」と口を開く。


「神原先輩がさ、週明けにでも凛先輩……だっけ? に、台本の説明をしてもらってねって言ってたじゃん? あれってどうする?」

「あー、そうだったねぇ。どうする、ちーちゃん? 昼休みにでも保健室行ってみる?」

「うーん、まあそうだね。今日部活に来るかどうか微妙なところだし、それがいいかな」

「じゃ、新っちもそういうことで~」


 さっさと会話をまとめる音羽に、「待て待て」と新がストップをかける。


「えーっと、俺未だに凛先輩のことよくわかってないんだが……その、先輩は“保健室の幽霊”って呼ばれてる、んだよな……?」

「そうだよ。あと特筆すべきことと言えば……胸がおっきいことかな?」

「む、胸?」

「そ、おっぱい」


 にやりと笑って自分の胸を強調する音羽。

 一方呆気にとられる新に、私はなんとなく誰にも聞こえないくらい小さく舌打ちをする。


「だから新っち、悩殺のうさつされないように覚悟しときな~?」

「お、おう?」

「音羽は凛先輩の歪んだイメージを新に吹き込まないの。そんで新、あんたはあんたで生唾飲むんじゃないの!」

「今の流れで俺まで怒られるのか?!」

「あったり前でしょ?!」

「理不尽!」


 ……等々云々。

 長々と話した割に「昼休みに凛先輩のところに行こう」ということしか決まらないままに学校に着いてしまったのだが、まあ青春の会話なんてこんなもんだろう。

 知らんけど。

後編へ続きます。

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