第11話 七夕宣言 後編
後編です。
「どう? ざっくりだけど、ここまでで何か質問とかある?」
「あー……先輩、聞いてて1つ気になったんですけど、いいですか?」
遠慮がちに手を挙げる音羽。
「いいよいいよ、何でも聞いてちょ」
「えっと、じゃあ、その台本ってどうやって決めるんですか? さっき“七夕を題材にした作品を上演する”って仰ってましたけど、要は織姫彦星伝説関連のお話を上演するってことですよね?」
織姫彦星伝説っていうと、織姫と彦星がイチャつきすぎて怒られて、罰として天の川を挟んで離されて、1年に1度しか会うことを禁じられた、みたいな話だったか。
あまりに雑な記憶すぎて、口に出してしまったら全日本七夕協会みたいな人たちからお叱りを頂きそうな気がしたので、その想いは飲み込んでしっかりと口を閉じておく。
「そうそう、その理解であってるよ。まあ、台本の種類とか台本選びの話については凛ちゃんの方が詳しいから、私の方からは今は何も言わないでおくよ」
「あとで凛ちゃんに聞いてみて~」と言って微笑む神原先輩。
よし、早速週明けにでも音羽と新と保健室を訪ねてみるとしよう。
「まあ、今日はこのくらいにしておこうか。あんまり一気に説明されても頭に入らないだろうし」
「せっかくのテスト明けですしね」
「ちーちゃんは本当にテストが嫌だったんだね……」
「そりゃそうだよ!! 音羽なら私が勉強嫌いな事、よく知ってるでしょ!?」
「いや、まあ知ってるけどさ。高校受験を経て多少は改善されたものとばかり」
そう言って肩をすくめる音羽。
「諦めろ。千代に勉強なんか向いてないって」
「ちょっと? 明らかに意味合いが変わってるんだけど??」
さらに追い打ちをかけるかのごとく、しれっと酷いことを言い放つ新に一撃お見舞いしようと手を伸ばすと、何かを感じたのかさっと躱されてしまう。
マズいな。この短期間に新、私の攻撃を察知するという、汎用性ゼロの変な特殊能力を身に着けていってるぞ……?
などと考えていると、先輩が「まあまあ」と場を仕切り直す。
「そんなわけで、堅苦しい話はこの辺で終わりにして、今日は残り時間いっぱい、エチュードでもしようか?」
「賛成です!!!!」
食い気味に大声で返事をして立ち上がる新。
あんたは一体どんだけエチュード好きなんだよ……
あまりの気迫に先輩、若干引いちゃってるじゃん。
「どうどう、落ち着け」
興奮気味の新を半ば強制的に座らせ、私は音羽と顔を見合わせて苦笑いを浮かべたのだった。
*
その後、エチュードと聞いてやる気MAXになった新主導の下、私達は宣言通り最終下校時刻いっぱいまで様々なエチュードを楽しみ、そしてその日はそれで解散となった。
最後の挨拶で先輩は「とりあえず、週末は七夕公演がどうとか考えずに、ゆっくり休んできてねー」と言っていたが、しかしそうは言ってもやはり気になるものは気になるわけで。
先輩と別れ、3人で部室棟を歩いていると自然と話題は七夕公演の話になってしまう。
「いよいよ、ってことなのかね?」
「だね。でも、いずれは公演の話も振られるだろうとは思ってたけど、いざ実際に話をされると一周回って実感わかないよ」
「ま、そんなもんだろ」
ドキドキしないといえば嘘にはなるが、しかし、どうしてもまだ「楽しみ」より「怖い」の感情が勝ってしまっている。
それは2人も同じようで、一見あっけらかんとしているように見える新でさえ、どこかこわばった表情を浮かべていた。
「そういえば、俺はその先輩たちがやったっていう新歓すら見てないわけだけど、千代たちは他に先輩たちの公演は見たことあるのか?」
「いんや、私もちーちゃんも、新歓の舞台が唯一見た公演だよ。というか、もっと言えば演劇ってもの自体、あの公演しか生で見たことはないよ」
「さすがに演劇部に入ってからは、ラーメンズ含め、ネットにあがってる演劇作品で興味が湧いたやつは何本か見てるけどね。でも、実を言えば私達もその程度なの」
「じゃあ、別に俺が変にかしこまる必要はないわけだ」
「かしこまるって……何にさ」
「いや、なんかこう……実はお前らのことを“演劇博士”的に扱ったほうがよかったのかと思ってさ」
「なんだそりゃ」
思わずくすっと小さく笑う。
そんなことを言っているうちに昇降口に着いたが、すると新がそこで「そうだ、2人とも先に帰っててくれ」と言って辺りをきょろきょろと見渡す。
「別にいいけど……どうしたの?」
「いや、実は今日杉山と一緒に帰るって約束してたの、すっかり忘れてたんだよ」
「うわ、凄い言い訳っぽい台詞」
「言い訳なわけあるか! エチュードがあまりに楽しすぎて、本当に忘れてたんだよ」
「忘れ方が小学生のそれ!」
むすっと膨れる新を笑う私に、音羽が「杉山って?」と耳打ちしてくる。
「ああ、クラスメイトの男子だよ。多分、席が近いから仲良くなったんじゃないかな?」
「なるほど。でも良かったじゃん」
「良かったって……何が?」
「いや、その杉山って子が女子とかじゃなくてさ」
「私達を先に帰らせて、そんで女子と待ち合わせして帰るとか、新にそんな甲斐性があるわけないでしょ」
靴を履き替えながらそうぼやくと、新が「千代、お前今なんか失礼なこと言わなかったか?」と耳ざとく口をはさんでくる。
「べっつにー? 言ってないですよーだ」
「あ、コラ、待て! なんだその表情は!?」
「じゃあ、また来週~」
「じゃあね、新っち!」
わざと虚空を見つめる朦朧とした表情で彼に挨拶を投げて、音羽と並んで学校を後にする。
「でも、新っちじゃないけど、確かに私達まだまだ演劇に関しては素人なんだよね。それなのにいきなり舞台に立つって、大丈夫なのかしら?」
「でも、じゃあまずは観劇行けばいいのかって言われたら、それもなんか違うし、なんとかなるんじゃない?」
「まあ、そうかもね。なんにせよ、私達は神原先輩を信じてついていくだけだね」
「そうそう。まだまだ怖いけど、頑張ろうね」
「もっちろん!!」
にんまり笑い合い、私は空を仰いで心の空気を入れ替える。
まあ、なんとかなるだろう。
それに、神原先輩だってこの週末はあまり深く考えずにゆっくり休めと言っていたしね。
と、自分にそう言い聞かせていると、「ところで」と音羽が話題を変える。
「ん? 何?」
「いや、ふと思い出したんだけどさ、七夕、つまり7月7日ってちーちゃんの誕生日じゃなかったっけ?」
「あ、うん。そうだね。7月7日は音羽が毎年忘れて1日か2日遅れで祝ってくれる、私の大切な年に一度の誕生日だね。よく思い出したね」
「圧が凄い!」
さっと一歩下がる音羽に「なんて、冗談だよ」と言って笑う。
「それで、それがどうかした?」
「いや、なんて言うか……ちーちゃんの誕生日に私達の初舞台で、しかも演目が織姫彦星伝説って、なんか不思議な感じがしない?」
「まあ……なんとなく言わんとすることはわかるかな」
「これで織姫役をちーちゃん、彦星役を新っちがやるなんてことになったら……」
あからさまにニヤニヤする音羽に、私は「イヤイヤ、ないない!!」と思わず強めに否定してしまう。
「でもさ、さっきの感じじゃあ、先輩は私達に役をやらせたいんだろうから、彦星は新っちでほぼ決まりじゃん?」
「そう……なるか」
「なら、相手役は私か、ちーちゃんかの二択なんじゃないの?」
「……マジか」
確かに、こうも論理立てて説明されると、そうなるビジョンしか見えなくなってしまうが……
「新が彦星で、私が織姫……いいかもね」
「ちーちゃん、心の声が漏れてるよー?」
「おっと、いかんいかん」
思わず頬を緩ませてしまった私に、音羽が「ちーちゃんと新っちは本当に仲良しだねぇ」と言ってけらけらと笑ってみせる。
その言葉に、私は「いや、そんなことないって」と言いかけて、はたと思い直す。
「……まあ、そうかもね」
「あら、珍しく素直だね」
「ま、たまにはね」
予想外の返事にポカンとする音羽に、私はお返しとばかりに渾身の笑顔を見せつけてそう返したのだった。
もうすでに2章は書き終わってるので、今週から各週更新に移行できそうです。頑張ります。
ひとまず、次回更新は10/12の夜10時です。
では、次回更新をお楽しみに。




