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番外編1 走れロミオとジュリエット 後編

後編です。

 部活動対抗リレーに参加する多種多様な、見ようによってはコスプレ集団にも見えなくもない生徒たちが集結した入城門付近は、何か異様な雰囲気を醸し出していた。

 その“異様な雰囲気”の形成には、残念ながらドレス姿の私も、王子様のような格好の音羽も見事に貢献しているだから、他の生徒のことを呑気に笑う訳にもいかないのが辛い所である。


 ともかく。

 私と音羽はかねてから決めていた通りの衣装を着て、せめて多少演劇部らしくあろうとロミジュリならぬ百合ジュリに集中するべく待機していたわけだが……問題は神原先輩と新の格好である。


 いや、神原先輩はまだわかる。

 普段部活に来る時の格好に、腕にはデカデカと「部長」と書かれた腕章を巻き、まるで涼宮ハ○ヒかのような団長っぷりを醸し出しているそれは、部活動対抗リレーという場が新入部員確保のチャンスということを考えればなるほど納得だ。私達とは違った意味で演劇部らしさが出ている。

 しかし、一方の新の方はというと……


「……あんた、何その格好。ふざけてるの?」

「俺は至って大真面目なんだが……その、神原先輩がな、絶対こうした方がいいって言うもんで」

「マジかぁ……」


 ズバリ、彼の衣装とは“木”だった。

 何を言っているかわからないと思うが、しかし、一言で表せば本当に“木”としか言いようがなかった。


「……あれだよね、小学校の学芸会でいた感じの、木の役の人?」


 呆れ交じりの音羽と、それに神妙な面持ちで頷く樹木、もとい新。

 なんだかその光景がシュールすぎて、ついニヤニヤしてしまう。


「ま、新らしいって気もするけどね」

「千代、お前ひょっとして俺のことバカにしてる?」

「“ひょっとして”は余計かなー」

「簡潔に酷いな。……まあ、ここまで来たら、例えバカっぽかろうが走るしかないかぁ」

「まあ……うん、そうだね」


 結果、1番手神原部長、2番手ロミオ、3番手ジュリエット、アンカー樹木という、控えめに言ってこの世の終わりみたいな決定がなされる。

 生き恥じゃん。

 3番手のスタートポイントに移動し、そんなことを考えていると、高らかなファンファーレと共に部活動対抗リレーの火蓋が切られた。


 早速陸上部が他部活をぶっちぎって一位に踊りだす一方で、それ以外の部活動は呑気なものだ。

 いくら勝敗は関係ないとはいえ、卓球部はピンポンエースを繰り返し、テニス部はラリーをしながら走り、挙句の果てには帰宅部が制服に鞄というスタイルで校門から出ていこうとする始末。

 アホな高校生になまじっか“自由”などという権利を与えてはいけないなとしみじみさせられるそんな混沌カオスの中で、「演劇部、部員募集中でーす!」と絶叫しながら走る神原先輩は、比較的まともな部類に見えた。見えてしまった。


「……想像以上に酷いな、部活動対抗リレー……」


 順位なんてあってないようなものだけれど、それでも大体真ん中か、やや上位かくらいの順位で神原先輩から二番手の音羽にバトンが渡る。

 同性の私が見てもドキッとしてしまうその容姿に加え、引き締まったその衣装も相まって、音羽が走り出すと客席から「キャー」という黄色い声援が上がる。

 そして走り始めてすぐ、音羽は立ち止まり、私の方に跪いてみせる。

 ……仕方ない。私も覚悟を決めよう。


──ああ、ロミオ。どうして貴方はロミオなの?


 音羽に応える様に私もコースに躍り出て、そしてかの有名な台詞を謳い上げる。


──貴方がモンタギュー家のロミオでさえなければ、私たちの愛を遮るものは何もないというのに!

──ならば、私が貴女を連れ出しましょう!

──誰? 私の言葉を盗み聞いていた、盗み聞き野郎は?

──ちーちゃん、ジュリエットそんなこと言わない!

──ジュリエットだって、きっとそれくらいは言いますわ!!


 台本なんて用意したところで仕方がないし、普段のエチュードよろしくアドリブで頑張ろうと事前に決めていた私達だった。がしかし、実際に全校生徒の前でロミジュリもどきを演じるのは想像を絶する恥ずかしさだった。

 ヤバい、恥ずか死ぬ。


──私です、貴女の愛するロミオです!

──まあ、ロミオ! 来てくださったのね!

──ええ、もちろんです、愛しのジュリエット!


 しかし、即興にしてはレベルが高いぞ、音羽さん!

 流石演劇部、恥じらいも何もないなと自分のことは棚に上げて変な風に感心してしまう。


──ぶっちゃけ、ロミオ的にはキャピュレットとかあんま関係ないと思います!

──ロミオ、急に雑にならないでください……


 前言撤回。かなり雑だった。

 なんだこれ、大丈夫なのかと死にそうになる私のメンタルだったが、だがその反面、お客さんはこのグダグダのやり取りが結構可笑しかったらしく、それなりにウケていた。

 最早リレーでもロミジュリでもなんでもないが、まあウケているならそれでいいか……


──それはそうとロミオ、具体的なプランを聞かせてもらっていいかしら?

──プラン、ですか?

──ええ。この後私を連れ出して、どうするつもりなの? 食事は? 宿は? 将来の見通しは?

──えっ

──まさか考えてなかったの? 連れ出せばなんとかなると思ったの? 惚れ直すとでも思ったの? バカなの?

──ジュリエット、急に現実的にならないでくれ!

──はい? 私は無計画なロミオになんか興味ありませんことよ?


 我ながらこれは酷い。

 後でシェイクスピア大先生に土下座でもしなきゃなぁなんて考えてみる。


──はっきりとした将来ビジョン! そして計画性! これらがなければ、例え愛しのロミオといえど私は嫌だ!

──もう“こんなジュリエットは嫌だ”じゃないですか……

──ああ、ロミオ。どうして貴方はロミオなの?

──この流れでそれを言われると意味が変わるなぁ!?


 なんともまあ、高校1年生の体育祭の思い出と言うにはあまりにも雑というか、良くも悪くも演劇部に染まり尽くしたイベントだったが、それでも確かに、私の中には楽しかった思い出としてしっかりと刻まれることになる1日だった。


「ああ、楽しかった」

「ね、楽しかったね」


 長々と寸劇を続け、ようやくゴールにたどり着いた私と音羽は、なんだか可笑しくなってしまい、お互いに肩を叩きあって笑い合う。


「お疲れ様、ロミオ!」

「おうよ、お疲れ。ジュリエット!」


 愛してるぜーと言い合って見上げた空は、どこかいつもより高く、そして澄んでいるように感じた。

 ちなみにあの後、樹木姿の新は特にウケるでも引かれるでもなく、他部活のパフォーマンスに押しつぶされて黒歴史の彼方に消えてしまい、彼が男泣きをしたのはまた別のお話。

はい、番外編1でした。次回更新は来週かなーとか、2章入りますよとか言いながらこの始末です。はい、すいません死んで詫びます……死にませんけど。

次回更新こそは2章になると思います。


今回も少しでも面白かったと思っていただけたら、是非評価・感想、それブックマーク登録もよろしくお願いします。励み(と早く書けっていう自分への戒め)になりますので!


ではまた次回!

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